フジテレビ系ドラマ「その女、ジルバ」に出演した江口のりこ

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 江口のりこ(40)の人気が高まるばかりである。4月期ドラマではテレビ東京「ソロ活女子のススメ」(金曜深夜0時52分)に主演し、25日に始まるTBS「ドラゴン桜」(日曜午後9時)にも出演する。1月期に続いての掛け持ちとなる。加えて5本のCMに登場中。どうして江口は求められるのか。

 CMは人気と好感度のバロメーター。大金を使うのだから、企業は視聴者に求められている人しか起用しない。江口の場合、日清、三井住友カード、ダイハツ、明治、第一三共ヘルスケアと一流どころばかり5社に起用されている。ミドルエイジの女優ではトップクラスの数だ。

 一方、昨年から現在までに江口が出演した連続ドラマは6本。こちらの数もトップクラスである。

フジテレビ系ドラマ「その女、ジルバ」に出演した江口のりこ

 昨年1月期は「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(日本テレビ系)、同7月期は「半沢直樹」(TBS)、同9月〜10月は「キワドい2人−K2−」(同)、同10月期は「#リモラブ〜普通の恋は邪道〜」(日テレ)、今年1月期は「その女、ジルバ」(フジテレビ系)と「俺の家の話」(TBS)。

 そして、この4月期は「ソロ活女子のススメ」と「ドラゴン桜」。1月期と4月期は2クール連続で掛け持ちということになる。

「役者が掛け持ちすると、見る側は別のドラマのことが頭に浮かんでしまう」「続けてドラマに登場すると、前作の役のイメージが残る」などと批判する人もいるが、それは全ての役者に当てはまる話ではないはず。うまい役者なら、掛け持ちや連続出演などのハードルは易々と飛び越えてしまう。

 例えば、古くは故・石立鉄男さんが「おひかえあそばせ」(1971年)から「気まぐれ本格派」(1978年)まで7年間も日テレの同じ放送枠で連ドラに主演した。近年では内藤剛志(65)が1995年から2001年まで27クール(6年9か月)連続で連ドラに登場。その間、掛け持ちもあった。ほかにも例はある。視聴者も違和感をおぼえない。

 江口もうまいから連続出演も掛け持ちも出来る。それによって演じる役柄は多くなるが、江口は「大変なことは全然ない」(*1)と、語っている。

 そもそも、うまい役者とはどんな人か。文化庁芸術祭などの審査員を務めた演劇記者の先輩から「役柄の人物にしか見えない演技ができる人」と教えられた。

 江口はまさにそうだ。「ジルバ」ではデパートの配送センターの中間管理職・浜田スミレそのものだった。大半の人が同じ意見なのではないか。両親を知らず、施設で育ち、愛情に飢えているが、それを押し隠し仕事に打ち込む女性にしか見えなかった。

 同時期に並行して放送された「俺の家の話」での江口も長田舞そのもの。勝ち気のようで根はやさしく真面目で、主人公・観山寿一(長瀬智也さん、42)を兄貴として立てた。

 この2本に限らない。江口が演じると、役柄の人物にしか見えない。過去もそうだった。<2010年の初主演ドラマ「野田ともうします。」(NHKワンセグ2、Eテレ)大学のロシア語学科に在籍し、手影絵サークルに所属する1年生の野田役。設定は19歳だったが、江口の実年齢は30歳だった><2018年「海月姫」(フジ)。関西弁を話すインド人><2018年「anone」(日テレ)。小学生の子供がいるシングルマザー。江口自身は独身><2019年「わたし、定時で帰ります。」(TBS)。中華居酒屋を切り盛りする中国人>

 外国人役でも違和感を抱かせなかった。では、どうやってその演技力を身に備えたかというと、もちろん才能があったのだろうし、努力も重ねている。

 兵庫県明石市で双子の妹として生まれた江口は小学生の時に姫路市へ。中学時代は陸上部で活躍する一方、足繁く映画館に通った。

 成績は良かったが、「勉強が面白いと思えなかった」(*2)ため、あえて高校には進学しなかった。

 役者は頭が良くないと成功するのは難しいと言われるものの、かといって学歴が求められる職業ではない。江口は中学の友人たちが高校に行っている間、うどん店などでアルバイトし、映画館通いを続けた。

 このバイト経験はおそらく役者の仕事に生かされている。中学の友人たちが普通の高校生活を送る間、さまざまな人間が見られたからだ。役作りの参考になったに違いない。

 上京したのは19歳だった1999年。ただ上京したわけではなく、演じるためだった。すぐ劇団東京乾電池の門を叩き、入団。座長の柄本明(72)を尊敬していたからである。

 柄本が映画「カンゾー先生」(今村昌平監督)で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲った翌年だった。劇団自体はシェークスピア、チェーホフからコメディまで上演する技能派集団で、演劇通の間で評価が高い。

 入団をはたしたものの、どこの劇団も新人はバイトをしないと生活が出来ない。江口が選んだバイト先は朝日新聞の販売店だった。住み込みだ。「十九歳の地図」(中上健次著)などで描かれている通り、新聞販売店の仕事はきついが、一方で稽古の時間は取りやすい。中卒で働いたことも含め、芯の強い女性である。

 2012年に朝日新聞のインタビューを受けた際には「朝日の取材はすっごいうれしいです」と喜んでいる(*2)。配る立場から話を聞かれる側に様変わりしたからだ。そう多くは取材を受けず、受けた時にも淡々と話す人だが、この時ばかりは感慨深かったのだろう。

 2005年の第1シリーズに出演し、今度も出る「ドラゴン桜」の役柄もまた様変わりする。前作では暴走族のレディースの一員に扮した。真紅の特攻服に身を包み、見た目は極悪そのものだった。新作では主人公の弁護士・桜木建二(阿部寛、56)が立て直しを図る高校の理事長役である。今度は理事長にしか見えないのだろう。

 柄本から、ひたすら脚本を読み込むよう指導を受けた。それにより、演技は早い時期から完成されていた。30歳で初主演した前出「野田ともうします。」をご覧になった人ならご記憶だろう。

 主人公の野田はメガネに三つ編み、トレーナーにジーンズという女子大生らしからぬ風貌で、決して空気を読まない。悪い人物ではないものの、そのマイウェイぶりに周囲は困惑し、見る側をクスリとさせた。

 ストレートなギャグで笑わせるわけではなく、シチュエーションコメディだったので、高い演技力が求められたが、江口は難なくこなした。

 11年ぶり2度目の主演作「ソロ活女子のススメ」の構成は同じテレ東の「孤独のグルメ」に近い。出版社の契約社員・五月女恵(江口)の満ち足りたソロ活(ソロ活動)を追う物語である。

 既に放送済みの初回で恵は「1人焼き肉」を堪能した。周囲はグループだが、人目は気にしない。頼み方も自分流。「取りあえずタン塩」「取りあえずビール」といった定番を意識しないのだ。

 次は自分へのお祝いとして、貸しドレスを着て、1人でリムジンに乗る。この日は誕生日だったのである。恵は自分の思うままに生きている。なんだか江口の生き方と重なるようだ。

 江口はテレ東を通じ、「機会があれば、私は(ソロ活として)競艇をやってみたいですね」とコメント。江口自身の趣味はウォーキングと車の運転で、酒はたしなむ程度。なにより好きなのは演じることなのだ。

 演技の何が面白いのかというと、「スポーツのように得点が出ることもなく、人によって評価が異なる点にある」(*3)という。

 うまい上、仕事の虫。求められるわけだ。

*1サンケイスポーツ2018年3月17日付
*2朝日新聞夕刊2012年12月8日付
*3毎日新聞夕刊2016年10月27日

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月9日 掲載