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(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 2014年に日本創生会議が発表した、いわゆる増田レポートをご記憶でしょうか? 「2040年までに日本の基礎自治体の約半数が消滅する可能性がある(出産適齢期である20代・30代の女性が半減する)」という衝撃的なものでした。このショックで、政府や各自治体では一気に危機感が高まりました。特に政府は、すぐさま担当大臣や内閣官房・内閣府に関係部署を設置するなど、本腰を入れて出生率アップや人口増加に取り組む姿勢を見せていました。「地方創生」という言葉が流行し始めたのもこの頃です。

 しかし、あれから6年。我が国は、残念ながら「地方創生がうまく行っています」と胸を張って言える状況にはありません。地方では相変わらず若者の人口流出が続き、高齢化・人口減が構造的問題として重くのしかかっています。増田レポートで指摘された問題は何一つ改善されていないのです。まるで国家の財政赤字問題のように、最初はショックで大騒ぎしながらも、しばらくするとその状況に慣れてしまい、「危機不感症」になってしまっているかのようです。いや、もしかすると「ピンチだけれど、もうどうしようもないね」との諦念が社会に蔓延していると言うべきなのかもしれません。

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コロナで変わった人口移動の流れ

 そんな状況が続く中、2020年は、新型コロナウイルスの感染が都市部を中心に広がりました。地方経済もコロナの猛威による直撃を受けましたが、一方で人々の間で密集することのリスクが意識さるようになったため、東京都からの転出超過(「転出−転入」がプラス)が7月から5カ月連続で続くなど、これまでの「東京への一極集中」という人口移動の潮目が変わってきています。各種調査の結果を見ても、地方移住への関心が高まっているのは確かです。

 コロナに関しては、当初の予想より早い形でワクチンが登場していることもあり、もしかすると、あっという間に、何事もなかったかのような日常生活が戻ってくる可能性もあります。あるいは、感染力を強化させた変異種が登場したこともあり、しばらくはウィズコロナの時代が続くのかも知れません。はたまた、COVID-19の拡大が収束しても、他の感染症がすぐに登場して、「緊急事態」的な行動が繰り返し求められることも予想されます。

 そうした可能性を踏まえつつ、本稿では、コロナによって何が変わり、何が加速しつつあるのかを分析してみようと思います。

コロナによって都心での消費は落ち込み、郊外での消費は盛んに

 筆者が主宰する青山社中リーダー塾の塾生には、飲食店やビジネスホテルなどを多店舗展開する経営者が複数いるのですが、彼らは口を揃えて「都心が大変で、郊外の調子が良い」と言います。実際、例えば緊急事態宣言下の昨年4月、各コンビニチェーンの売り上げが軒並み低下する中、住宅地や郊外の店舗構成比が比較的大きいセブンイレブン・ジャパンが前年同期比5%減にとどまったのに対し、大都市圏に店舗網が集中しているファミリーマートは同14.8%減まで落ち込みました。

 大企業を中心にテレワークが推進された影響で、短期的には、通勤せずに郊外の住宅にとどまりながら生活する動き、つまり現在の生活地を中心に最小限の行動範囲で仕事その他の活動を考えるライフスタイルが広がりました。これが、コンビニの売り上げにも影響したようです。今後しばらく、都心での消費は低迷が続くのに対し、郊外の住宅地での消費が盛んになる可能性はあります。

 だた、新型コロナウイルスの感染拡大は、未来永劫続くわけではありません。いずれは終息します。欧米ではワクチンの接種も始まっています。日本でも今後のワクチンの開発・普及の速度にもよりますが、いずれ何事もなかったかのように、多くの人が満員電車に小一時間ほど揺られながら都心に通勤するといった世の中が復活するかも知れません。

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 そうなればまた、地方から多くの人が東京圏やその郊外に流入することになるでしょう。様々なモノやサービスが溢れ、文化の香りが高い都心が、若者らを引き付ける力は強力です。都会でのライフスタイルに憧れる人々が、そう簡単にいなくなることはありません。

 一方で、温暖化の影響や開発の進展に伴う人獣の接近などにより、感染症の拡大はこれまで以上にペースを速めるという論も聞こえてきます。そんな世界が現実になるのならば、コロナ以前の生活が戻ってくることは考えにくくなります。

 実際、今世紀に入ってからの20年間、コロナ型のウイルスに限ってみても、COVID-19だけでなく、SARSやMERSなど次々と新しいウイルスが世界的に蔓延しています。私たちは、こうした次々に襲ってくる感染症とずっと付き合っていかなくてはならないのかもしれません。

 また感染症以外にも、10年前には東日本大震災がありました。今後の首都直下型地震の恐れもあります。こうした各種災害や二次災害のリスクも都会中心の密集的なライフスタイルは必然的に高めてしまいます。

 他方、業務や会議のオンライン化が進めば進むほど、逆にリアル・癒しを求める動きも顕在化しています。要するに、風光明媚な自然あふれる場所のニーズが高まっているのです。仕事は在宅・オンライン中心に行い、生活や子育ては自然溢れる山野に囲まれて行う田園紳士(カントリー・ジェントルマン)的生活は、一つの理想形です。密集して暮らさないことで減らせるリスクもあります。

 そう考えてみると、中長期的には、これまでとは違う「都会から離れたところでの仕事・暮らしを志向する人たち」が、今回のコロナをきっかけに増える可能性は高いと言えそうです。

人口の移動は「地方分散」と「都心集住」の二極化へ

 では、暮らす場所についての国民の意識と、その延長線上にある国土構造は、こうした要素を全て勘案すると今後どう変わっていくのでしょうか。

 ここからは完全に予測となりますが、私見では、極端な二極化に向かうのではないかと思っています。つまり、都会から離れた風光明媚な地方への移住が進む一方で、都心、それも自転車で職場に通えるような中心部(東京で言えば山手線内くらいのイメージ)への人口集中が起こるのではないかと感じています。

 裏返して言えば、「都心のターミナル駅から1時間」的な郊外都市や、二線級の地方都市へのニーズは低減するということです。

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テクノロジーの発展も地方移住を後押し

 筆者は、長野県軽井沢町の未来共創アドバイザーを務めさせていただいていますが、当地の最近の人口増加率は著しい伸びを見せています。楽天の創業メンバーにして副社長まで務めた本城愼之介さんの肝いりで設立された話題の学校「風越学園」の開学もあるので、一概にコロナ要因に帰することはできませんが、事実としては、一昨年(2019年)3月から8月の半年に227人だった人口増が、昨年(2020年)の同時期は約2倍の444人となっているのです。同町の人口は約2万人なので、わずか半年で人口の約1%分も増加率が加速しているのです。

 一般論としても、都心から地方への人の流れは増えているようです。SMOUT移住研究所の調査では、首都圏を中心に4割程度の人が地方への移住を検討していると言いますし、内閣府の調査では都心在住の若い世代(20代)ほどその傾向が強いという結果が出ています。実際に、先述のとおり東京都の人口は昨年11月まで5カ月連続で転出が転入を上回るという、コロナ前では考えられない事態が現実となっています。

 そして、テクノロジーの発達によりオンラインでの会議や業務の遂行が一般化し、いわゆるテレワークが急速に広がっている。その傾向は今後も変わらないどころか、仮想空間でのアバターの活用やAR・VRの発達により、ますます拍車がかかることが予想されています。そうなれば、原則出勤が不要になりますので、リアルな居住・職務空間としての「風光明媚で空気の美味しい田舎」への移住ニーズがさらに高まることは必至です。先般、ワーケーションというワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語が流行語大賞にノミネートされましたが、まさに、多くの人が「仕事はバーチャルで効率化、暮らしはリアルに充実化」を図るのは必定です。

 個々人だけでなく、企業の地方移転も進んでいます。人材派遣大手のパソナグループが本社を兵庫県の淡路島に移転したのは有名ですが、その他にも、お茶専門店を展開するルピシアも本社を北海道ニセコ町に移転しています。

 交通網がさらに発達すれば、こうした田舎への移住傾向はもっと高まるでしょう。特に静岡県部分を巡ってまだ紆余曲折はありそうですがが、いずれリニア・モーターカーが全線開通すれば、東京・大阪間は1時間強となります。時間的には、東京郊外のニュータウンも大阪も都心からのアクセスはほぼ同等になっていくのです。

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 既に筆者がアドバイザーをしている那須塩原市や軽井沢町などでは、新幹線通勤をする人たちが一定層存在していますが(両地とも東京から1時間強)、こうした分散化傾向に拍車がかかることは間違いありません。

 空の交通網の発達も見逃せません。現在は新型コロナ拡大による需要減に直面していますが、長期トレンドとしては、LCCの発達などによって便数増加や航空運賃低減化も進んでいます。

 こうした交通網の発達、そして自動運転車やMaaSと総称される移動に関するテクノロジーの発達は、生活における交通や二次交通の利便性を高めることとなり、都心部から風光明媚な地域への移住を強く後押しすることになるでしょう。CO2排出削減などを視野にいれたエネルギー源の分散型傾向(太陽光・風力・地熱・小水力などの発電の多様化等)も、この傾向に拍車をかけます。

都心からの人の流れをいかにうまくキャッチするか

 では、今後の中長期的な人口移動は、都会から地方への分散一辺倒になるのでしょうか。単純にそうはならないのではないか、という私見を、最後に簡単に披露させていただきます。

 先般、三井不動産の役員の方と、ある雑誌の座談会企画で一緒に議論させていただきました。その際の話によれば、同社はコロナ下での景気後退による売れ残りリスクを感じながらも「パークタワー勝どきミッドサウス」という高級な高層マンションの販売を始めたそうですが、蓋を開けてみたら、販売は絶好調だそうです。生活必需品系を扱う総合スーパーを除き、商業施設も一般的には巣篭り消費で打撃を受けている中、六本木ヒルズや東京ミッドタウン(六本木)など、レジデンスもある都会のど真ん中の施設の売り上げは比較的安定しているとも聞きます。こうした実例を見聞きする限りでは、「本当の都心」への居住ニーズはむしろ高まって行くとも考えられるのです。

 世界的に見て(例えばマンハッタン島などと比べて)、東京は、都心のど真ん中でのレジデンス供給が弱いというのが三井不動産の分析とのことです。そこから、これまで相対的に商業施設やオフィスに偏っていた都心での投資が、今後はレジデンスに向かうという見方も出ているとのことでした。

 実際、コロナが暴いたのは、「通勤時間」というものがいかに壮大な無駄であり苦痛であるかということでした。また、日本とは比べ物にならないほどにコロナ感染が進んでいる米国では、極力他者との接触を減らそうと、シェアサイクルさえ利用しない機運が高まっているそうで、自分の自転車や徒歩で簡単に通勤できる場所への居住が西海岸などで進んでいます。「職住近接」は極めて合理的なのです。

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 こうしたことから見えてくるのは、テレワークを活用したり発達した交通手段の恩恵に与ったりすることで地方の自然豊かな地域への移住を志向する人々と、他人との接触を極力減らしつつ都会にアクセスできるような本当の都心への居住を志向する人々との二極化が起きるという二つの潮流です。すなわち、集中と分散の二極化の進展です。

 これを人口減少や少子化に悩む地方から見れば、新しい生き方・流行に敏感な若者を中心とする定住者を増やすチャンスの到来ということです。都会からの移住者をいかに呼び込み定着してもらうかの競争が、地方と地方との間で始まっているのです。今はまさに各地が知恵比べをして地方移住政策を競う時なのです。

筆者:朝比奈 一郎