自身が起こした女性問題について記者会見するお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建さん(中央)=2020年12月3日、東京都新宿区

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お笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建さんへの不倫バッシングが再燃した。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリン氏は「渡部さんに拒絶反応を示す日本人が多すぎる。『トイレ不倫』はそこまで責められるべきものなのか」という--。
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自身が起こした女性問題について記者会見するお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建さん(中央)=2020年12月3日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

■再燃した「不倫バッシング」

先週、Twitterで「渡部アレルギー」というワードがトレンド入りしました。アンジャッシュの渡部建の不倫およびそれにまつわる対応に関連したものとみられます。これに対して中日スポーツは「同姓の子が学校でいじめられそう」「全国に沢山いる渡部さんが見たら悲しいと思う」と同じ渡部姓への2次被害を心配する声を記事で取り上げていました。

かくいう筆者も旧姓が渡部なので、何げなくTwitterを見ていて「渡部アレルギー」の文字が飛び込んできた時はドキッとしてしまいました。

それはさておき、12月3日の会見後は世の風向きも変わるのかと思いきや、実際は違ったようです。一部の報道によると、日本テレビは既に収録済みで渡部さんの復帰番組となるはずだった大みそかに放送予定の「ダウンタウンのガキの使いあらへんで!」で渡部さんの出演の部分をお蔵入りにする方向で進めているということです。

妻子がいながら多目的トイレで女性と行為におよび、その報酬として相手女性に1万円を渡した、という一連の行動は決してホメられたものではありません。しかし100分も謝罪会見を開くほどのものなのでしょうか。

そして名字の「渡部」が「アレルギー」という言葉とセットで繰り返し叩かれるほど「許せないこと」なのでしょうか。今回は海外とも比べながら不倫から半年以上たってから再燃した「不倫バッシング」について考えてみたいと思います。

■会見時間が長くても、短くても叩かれる

不倫について、100分もかけて会見をする意味が分かりません。謝罪会見ということですが、ひたすら「申し訳ございません」と繰り返し頭を下げ続ければよいというものではなく、そこでは「不倫の発覚後、どのように過ごしていたか」「今後の展開」なども話さざるを得ません。よほどずぶとい神経の持ち主でないと、100分にわたって最高のパフォーマンスを見せ続けることは難しいでしょう。

会見が長ければ長いほど、どこかで発言に矛盾が生じたり、自信過剰に映ったりするリスクが高く、そうなれば即「反省してない」と叩かれる可能性が高い非常にリスキーな場であるわけです。

あのベッキーはかつて白いワンピースに黒髪という「謝罪という場に完全にふさわしい姿」で会見に臨みましたが、わずか4分30分という短い時間でさえ、「相手の妻への謝罪がなかった」「一方的に語るだけで質疑応答を受け入れなかった」などの批判を受けました。

■「精神的に追い詰めても構わない」といういじめの構図

だからといって長い時間をかけ会見をすればよいわけではありません。今回は「不倫相手が複数いるが、性的なことに依存しているということでしょうか?」と渡部さんの病気を疑う質問がされたり、「女性に1万円を手渡したのはどういう意味か?」などと的を射ていながらも辛辣な質問を受けることになりました。

また渡部さんが「不倫をした後の自粛期間中には、妻と家事を分担していた」と語れば、「家事を全部やるぐらいの贖罪の気持ちはないのか」と反論される始末。揚げ足を取っているような質問も散見されました。

そこから見えてくるのは「悪いことをした人には何を質問してもいいし、精神的に追い詰めても構わない」といういじめの構図です。ネットでも「正義感の暴力も怖いと感じた」「小学生のいじめレベル」「日本の闇」との意見が目立ちました。

写真=iStock.com/kaipong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kaipong

渡部さんに「佐々木希さんという奥さんがいながら……」という言葉を投げかけたレポーターもいます。これは6月に不倫が発覚した当時も思ったことですが、その言葉からは「あんなに美人な妻がいるのに……」というニュアンスが感じられます。しかしこれでは「佐々木希さんのような美人ではない妻だとしたら、不倫は許されてしまうのか?」と思ってしまいます。それともこれは筆者の僻みでしょうか。

■やっぱり日本人は「謝罪会見」が好き

それにしても日本人は本当に「謝罪会見」が好きなようです。不祥事を起こせば企業はすぐに会見を開き、不倫が発覚した芸能人も会見に引っ張り出されることが少なくありません。そして会見での「立ち居振る舞い」がまたメディアをにぎわせます。

謝罪をすることは悪いことではありません。しかし今回の渡部さんのような「不倫」に関していえば、感情面で迷惑を被ったのは妻と1万円を渡された相手の女性です。その2人に個人的に謝れば済む話だとも思います。仕事面で迷惑をかけた番組関係者やスポンサーなどに関しても直接謝ればよいわけで、公の場で100分も会見をする必要があるのか疑問を感じます。

渡部さんは「公の場での謝罪」をすでに済ませています。『週刊文春』に不倫をスクープされてまもなく、同誌の「独占90分」というインタビューで反省の気持ちをこと細やかに述べ、謝罪をしています。それなのに半年後に「やっぱり会見も」という流れになってしまうのは、日本で「謝罪会見」がひとつのケジメだと思われているからです。

さらにそこには「悪いことした人がどんな様子になっているのか見てみたい」「悪いことをした人がケチョンケチョンにやられているのを見たい」という人間の心理のいやらしさも見てとれるのでした。

■過激な色恋沙汰があっても謝らない……海外セレブと王室の人々

かつてドイツのテニス選手のボリス・ベッカー氏は、その活躍ぶりと同時にプライベートのスキャンダルでもドイツのゴシップメディアを大いににぎわせました。

ボリス・ベッカー氏はかつて既婚者で、2人の子供がいながらレストランで行われたパーティーの物置で別の女性と行為におよんだとして非難を浴びました(後にボリス本人が「物置ではなくトイレの間の階段の踊り場」だと訂正)。その時の関係で相手の女性が妊娠し、後に出産したことで、「彼の子供であるか否か」というバトルが女性とボリスの間で繰り広げられたものの、DNA検査の結果、彼の子供だということが分かっています。

写真=iStock.com/AS-photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AS-photo

しかしどの時点でもボリス・ベッカー氏は会見で謝罪していません。DNA鑑定の直前まで「女性と面識があること」や「行為におよんだこと」を否定していました。DNA鑑定で自分が父親だと確定してからは、何事もなかったかのように娘との交流を始めました。どの時点でも「応援してくれている皆さまへの謝罪」は無かったわけですが、そこは日本と文化が違うので単純に比較はできないのかもしれません。

モナコ王室のアルベール大公は現在「3人目の婚外子」にまつわる裁判を起こされています。34歳のブラジル人女性が2005年に産んだ自分の娘の父親がアルベール大公だと主張しDNA検査を求めています。

■当事者への謝罪だけでは済まされない日本

「3人目の婚外子」と書きましたが、アルバート大公にはかつてバカンス中のロマンスでアメリカ人のウエートレスとの間にできた現在28歳の娘がいます。また数年にわたり交際はしたものの結婚には至らなかったトーゴ出身の客室乗務員女性との間にできた現在16歳の息子もいます。アルベール大公と女性たちは大いにヨーロッパのゴシップ誌をにぎわせましたが、「皆さんへの謝罪会見」は行われませんでした。

余談ですが、現在日本の皇室の女性と結婚をしようとしている小室さんは何もこの手のことを起こしていないのに、一部で「会見を開くべき」との声が日本で強いことにやはり文化の違いを感じます。

特徴的なのは、日本では「迷惑をかけた当事者に対する謝罪」だけではなく「公の場で『皆さん』に謝罪すること」が求められていることです。そして謝罪を述べるだけではダメで、お辞儀の角度や、反省が伝わるような物腰であることなどが求められ、とにかく追及が厳しいのです。

■多目的トイレという致命的ミス

ヨーロッパのセレブのスキャンダルに慣れているせいか、筆者は渡部さんの不倫がそれほど叩かれるべきものだとは思いません。

ただ個人的に引っかかるものとしては、不倫の場所が多目的トイレであったことです。言うまでもなく多目的トイレは障がい者や小さい子供を連れた親などが使うためのもので、多目的トイレは健常者が性行為におよぶためのものではありません。多目的トイレを必要としている人が、中で性行為が行われているせいで、トイレの外で待たされたり、多目的トイレを使えなかったりする可能性もあることを考えると、やはりこの場所を選ぶことは避けなければなりませんでした。

世間では妻をかばう声が多く、それに異論はありません。しかし多目的トイレで1万円札を渡された女性の気持ちも考えてしまいます。既婚者との不倫は時に女性がつらい思いをすることも多いのです。でもその不倫の恋に終止符を打ち、何年かたってからその恋を振り返る時、「きれいな夜景が見えるすてきなホテル」を思い出せれば、それは切なくもロマンチックな思い出として心の中に残ることでしょう。

しかし渡部さんの場合はどうでしょう。相手の女性も何年か後に、この不倫の恋を思い出す瞬間があるはずです。そんなとき思い出されるのが「きれいな夜景」や「すてきなホテル」ではなく、「トイレ」であることを考えると、なんともいたたまれない気持ちにさせられます。

先述の一部報道の通り、渡部さんの復帰番組となるはずだった大みそかに放送予定の「ガキ使」で、渡部さんの出演の部分がお蔵入りにする方向で進められているのであれば、結局謝罪会見を開いたことは“ダレ得”でもなかったわけです。

渡部さんの会見には200人もの報道陣が集まったといいます。いくらマスクやフェースシールドをしているとはいえ、コロナ禍である今「100分にもわたる囲み取材」という形式をとる必要があったのでしょうか。

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サンドラ・ヘフェリン著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)