恋愛であれなんであれ、人間関係が終わりを迎えることは、たとえ心の準備ができていたとしても辛いもの。それが急なら、なおさらのこと。そして、これは仕事にも当てはまること。

会社から突然「退職勧告」を受けたり、レイオフ(再雇用の保証のない一時解雇)されたら、ひどいショックを受けるかもしれません。「自分がなにか大きなサインを見逃していたのか?」「もし、あんなことが起こっていなければ…」など、頭の中でぐるぐる考えてしまうことでしょう。

多くの場合、「もっとも辛いことは自分の価値を疑うような疑問を、自分に投げかけてしまうこと」と言うのは、就職紹介サービス「Ama La Vida」のディレクター、ジョン・ロッチャさん。

「『自分の能力不足か? 避けることはできなかったのか? できたとしたらどうやって?」などの自問自答は、これまでの自分のあらゆる判断をすべて振り返って、そこに失敗を見つけることにつながり、自尊心を傷つけることになりがちです」

続けて「拒絶されることに、慣れている人なんていませんから」と言うロッチャさん。

「人間関係、たとえば友人、雇い主、伴侶などとの関係が終わりを迎えるのは、自然なことでもあるんです。とはいえ、そう考えたからといって、予期しないことだったときの衝撃をやわらげてくれるわけではありませんからね」

現在はフリーランスのライター・編集者として活躍するジェニファー・ヴィシネフスキーさんは、そんな辛い「失業体験」をした一人。彼女が「退職勧告」を受けてからそのショックから立ち直るまでの経験を、専門家にアドバイスを求めながら<レッドブック>で語りました。

恋人に振られた時のような感情

※以下は、ジェニファーさんの独白です

職場で自分のポストが不要になったと聞いたとき、ひどいショックを受けた。何日も泣き暮らして、元同僚たちからの電話やメールを無視。恋愛で振られたときと、まったく同じ感情だったわ。

アメリカ合衆国労働統計局によると、2020年のコロナウイルス禍では、初期の6週間で3030万人が失業保険を申請したとのこと。たくさんの人が職を失う中、以前の私と同じような思いをしている人がいるのではないかと思う。

職場の友情ルール

以前にもレイオフされたことは何度かあったけれど、これほど傷ついたことはなかった…。今回は失恋よりもひどい。なぜかというと、今までにないほど強い心理的な結びつきを職場で築いてきたから。

同僚たちとは、友達のような関係だった。婚約したときは、朝早く職場にかけつけて、ボスに打ち明けたほど。彼女は私の友人の多くや親戚よりも先に、そのニュースを知ったの。結婚式にも職場の全員を招いたわ。

この仲間たちと人生を分かち合っていて、つながりは決して切れないと思ってしまっていた私。

「最初のうちは、多くの人が仕事とプライベートをきっちり分けようとするものです。けれども、年月が経つにつれ人としてお互いをよく知ると、その区切りがぼやけがちに。人間は社会的な動物なので、もともと区切りをきっちりつけるのは難しく、仕事の同僚にも人間としてのつながりを求める。これによって仕事がもっと意味を持ったり、楽しいものになったりしますが、この結果、レイオフの対象になってしまうと普通以上に傷つくことにもなるのです」と教えてくれたのは、心理学者でメンタルヘルス関連情報サイト<Psych Central>の編集長を務めるジョン・グロール博士。

“ただの仕事”とは思えなくても、実際は「仕事は仕事」だったというわけ。同僚は友達ではない。みんな“友達のように”フレンドリーだっただけ。プライベートと仕事の間のラインをぼやけさせたことの責任は、大いに自分にあった。

「仕事は仕事であるということを、きちんと覚えておきましょう」と言うのは、キャリア・アドバイスと転職エージェント「Optima Careers」のキャリアコーチを務めるマリアン・ルッジェーロさん。いわく「従業員にとって、仕事は契約なのだと忘れないで」とのこと。

つまり、そこで友情が生まれても、それは会社の必要性に基づいたもの。職場で親しくするのは悪いことではないけれど、職場は仕事を遂行するためにあるもの。その会社がわ自分の手をもう必要としないときがきたら、そこでの“友情”は終わると思ったほうがいいのだとか。

「悲しみの段階」をきちんと経験

恋愛でも友情でも、職業上の関係でも、大きな存在を失うことは心が深く傷つく出来事。

「自分のアイデンティティを仕事と結びつけている人が多いです。配偶者と結びつけている人と同じくらい多い。実を言うと、従事する仕事で『自分』というものの土台を形づくっている人もいるのです。それが自分の手から奪われてしまうと、非常な喪失感を覚えることになります」とグロール博士。

それが第1段階、私もそうだったわ。人生の一部を失ったように感じた。

そして次に来たのが「否定」の段階。「そんなに大した問題じゃない」と自分に言い聞かせようとする。「レイオフなんてみんなが経験していることよ」みたいに。次に、周囲に対して怒りを覚えた。最終的には、“それ”を決断した上層部に怒りの矛先を向けることに。やがて深いうつ状態へと進み、それが何ヶ月も続いた。

この感情について、就職紹介サービス企業のディレクター、ロッチャさんはこのようにアドバイス。

「最初にショックを覚え、次に怒りがわくのは自然な流れです。時に、こうした一連の感情を避けようとする人もいるでしょう。けれどもうまくいかず、落ち込んでしまう。この感情の変化はナチュラルな段階なのです。失恋もだんだん状況が変ったことを受け入れて、また次の人を探そうという気になるでしょう? それと同じで、また就活へとシフトしていくべきなんです」

再び「就活」市場へ

私は新しい仕事を探し始めたけれど、よくある反動を起こしてしまった。まず自分の心構えを整えるということをせず、「できるようになるまで、できるふりをする」ことでごまかせると思ったのだ。

「新しい職を探すなら、ベストな印象を与えないといけません。でも、同時に悲しみや怒り、失望などの感情を感じていけないわけではないのです」と説明してくれたのは、心理学博士のジャンナ・コレッツさん。

私の場合はこうした感情が圧倒的で、自分の良い面を見せる力を押さえ込んでしまう羽目に。結果、面接では冷淡で感謝の念が薄いように見えてしまった。そういうことは面接する側に伝わってしまうもの。つまり、先に進む準備ができていなかったため、したくもない仕事に応募していたのよ。一度そこで立ち止まり、前職で傷ついた面についてじっくり深く考えてみたわ。

今振り返ると、この時期はとても大事なものになったと思う。自分の感情と向き合う時間がとれたのは幸運だった。前の職で何がダメだったのか、集中して考えることもできた。「考えたことを書き出して、日記にしてみましょう」と勧めてくれたのは、キャリアコーチのルッジェーロさん。

「(書くことで)自分の心から、不満や不安を切りはなすことができます。失恋のときと同じ。自分のショックや怒りをすべて表現していい。それをどこか別のところにしまうのです。その本を閉じて、前へと進みましょう」

なにがダメだったのか?

レイオフにいたるすべての出来事について考えてみるのは、自分にとって大きな気づきでもあった。その過程で犯してしまった間違いを整理することができ、次は失敗しないようにできたのだ。

グロール博士は、この過程について次のように解説。

「解雇やレイオフは、自分のキャリア上の大失敗と見る人が多いのですが、もしかしたら自分のプロとしての職業倫理や行動、能力について、考えるべきこと、改善の余地があるということに気づくチャンスなのかもしれないのです。この経験のおかげで、将来の雇用主にとっては、あなたがより良い働き手になれることもあるわけですから」

私の場合、失業のダメージを克服するのに長い時間がかかった。新しい仕事についてからも、元同僚たちがどうすごしているのだろうかとよく考えてしまったわ。以前の会社が順調に成長する情報を追いかけ、苦い気持ちになったりもした。そして、苦い経験からの反動で、新しい職場では前と正反対の態度をとって、人と深く関わらないようにしていたのだけれど、これは大きな間違いだったよう。

「職場との感情的な結びつきは、人生のパートナーとのそれと変わらないのです」とロッチャさん。

「心を閉ざしてしまって自分の周りに壁を作れば、別れの辛さは減らせるかもしれません。ですが、真のつながりを持とうとしなければ、次の別れの原因を起こすことになりかねません。1日8時間、何年か働き続ければ、職場やそこで作った人間関係が大事になるのは自然なことなのです」

正しく前進

私はやがて立ち直り、思ったよりは長くかかったけれど、職探しの中で落着きどころを見つけた。

「悲しみの各段階を越えて、先に進むようにしましょう。なるべく早く受け入れることできるといいですね」と言うのはグロール博士。

「信頼できる友人や、レイオフされた人のためのオンラインのサポートグループなど、他人の助けを借りることもできます。心の傷を乗り越えるのが難しい場合は、セラピストやキャリアカウンセラーに相談してみることを考えてみてください」

時間が経つと、あれはやはり「ただの仕事だった」と思えるようになった。自分の仕事を客観的に見られず、なんでもバラ色に見てしまっていたのよ。

「まったくの青天の霹靂、ということは珍しいんです」と教えてくれたのはロッチャさん。

「どこかで、終わりが近づいているということの“手がかりになるなにか”を、見るとか聞くとかしたはずなんです。それなのに、きっと気づかなかったり受け入れなかったりした。信じたくなかったのですね。自分自身についても環境についても、この経験から学ぶ最大のことは『どこに注意するべきか』ということなんです」

一番大きかったのは、その状況にいつまでも沈んでいるのを止めたこと。愚痴っても気分はよくならないばかりか、現実を変えられるわけでもない。「レイオフされたからといって、また同じことになるのだと決めつけたりするのはやめましょう」とロッチャさんは言う。

「恋人との辛い別れを経験した後に、恋愛をいっさい止めようとしてしまうのと同じでそれは間違い。レイオフされた時、もちろん怒りは感じていい。でも、それを自分で正直に受け取り、受け入れましょう。そして適切な場所に『しまう』こと」

そうしたことで、わたしもレイオフ体験を本当に受け入れることができた。そこから、健康な、バランスのとれた立ち位置を見つけ、先に進むことができたの!

※この翻訳は、抄訳です。

Translation:Sasaki Noriko(Office Miyazaki Inc.)

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