完全に客観的な評価を下せる製品レヴュアーなど存在しない。個人的にもひとりのレヴュアーとして客観的であろうと心がけてきたが、スマートリング「Oura Ring」を巡る騒動にはつい反応してしまった。

「スマートリング「Oura Ring」は“発症予測”こそできないが、優秀な健康トラッカーとして機能する:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

Oura Ringの価格は299ドル(約31,600円)と、決して安くはない。睡眠のモニタリングを売りにしているが、それはほかの多くのウェアラブルデヴァイスにもできることだ。

さらにOura Ringのメーカーは、「ツイッターの最高経営責任者(CEO)ジャック・ドーシーや英国のハリー王子も愛用中!」といった具合に、ある種の特権的な神秘性を演出しようとしている。個人的にこうした点も好きにはなれなかった。Oura Ringをはめている人を見ると、シリコンヴァレーの大金もちで、身体改造マニアで、朝食に生卵白を6個分飲んだり、氷風呂に入ったりするようなタイプに違いないと思ってしまう。

これらの背景もあり、この比較的高価なスマートリングが新型コロナウイルス感染症の発症を無症状の段階から予測できるとしてもてはやされたことは、少なくとも個人的には驚きだった。

3月には、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者が、このスマートリングを使って医療従事者の感染を予測しようという試みを始めている。米国のプロバスケットボール・リーグであるNBAとWNBAも、所属プレイヤーのために数千個のOura Ringを購入している。挙げ句の果てには、モータースポーツ統括団体のNASCARが、Oura Ringをドライヴァーやスタッフのために使い始めたのだ。

こうした状況もあって、Oura Ringを嫌いになる気満々だった。ところが実際に1カ月ほど使ってみると、金もちが好むこのリングが非常に優れた製品であると認められるようになった。ただし、活動を記録するフィットネストラッカーとしてではなく、小さくスマートで便利なヘルストラッカーとしてだ。Oura Ringは、ほかの大多数のデヴァイスがチェックしないような健康データをモニターしてくれるのである。

基準となるデータの作成に2週間

Oura Ringがほかのヘルストラッカーと明らかに異なる点は、手首ではなく指に装着することだ。おかげで、手首にくっきりついていた腕時計型の日焼け跡はすっかり消えてしまった。

Oura Ringを注文すると、さまざまなサイズのサンプル品が入ったキットが届き、自分の指に合ったものを24時間はめて試すよう指示される。ワークアウト中や就寝中には指がむくむからだ。

サイズを選んで実際の製品が届いたら、今度はそれをしばらく身に着けなければならない。基準となる健康データを作成するためには、最低2週間は指にはめたままにする必要があるという。

Oura Ringには、赤外線LEDセンサーが2つと、NTCサーミスター(負の温度特性を示す感熱素子)が2つ、3D加速度計とジャイロスコープが1つずつ搭載されている。小さいわりに、高感度なセンサーがたくさん詰まっているのだ。

Oura Ringは、測定データをそのまま表示する代わりに、基準となる健康データとの差を測定する。健康状態をチェックするには、スマートでわかりやすい方法だ。心拍数が突然180に上昇して不安になる人もいるだろうが、個人的にはトレイルランをすると(あるいは、非常に不快なTwitterの投稿を見ると)これくらいの心拍数になることが多い。

専用のアプリを使えば、睡眠の状態や歩数、心拍数、体温のばらつきなどあらゆるデータを確認できる。ただし、これらのデータは活動(Activity)、レディネス(Readiness)、睡眠(Sleep)という3つのカテゴリーに分けて表示される。

レディネスは、Oura Ringならではの指標ではない。これは、ガーミンの「ボディーバッテリー」機能のように、安静時の心拍数、呼吸数、活動レヴェル、睡眠といった要素を考慮して、その日の体調をスコアリングしてくれるものだ。ただし、人々の平均的なスコアと比べるのではなく、ユーザーの基準となる健康データと比較してスコアを算出する。

PHOTOGRAPH BY OURA

短期的な変化より、長期的な傾向に注目

これまでテストしてきたフィットネストラッカーとは違い、Oura Ringは指輪タイプなので、データの確認にはスマートフォンが必要になる。朝起きがけにトラッカーの画面をスワイプしてデータを表示させたり、壁にデータを投影したりといったことはできない。

あまりに長い間スマートウォッチを身に着けてきたことで、今回はOura Ringを使いこなせるようになるまでずいぶん時間がかかった。実際、完璧に使いこなせるようになったのは、レヴュー用のOura Ringを返却し「Apple Watch」の使用を再開する3日前のことである。

個人的には手を動かすことが多いほうなので、重いバッグを複数抱えたり、鶏の骨を砕いたりすることがよくある。そんなときに硬い指輪をはめていると、どうしても指が痛くなる。結婚指輪さえ着けていないので、当初はOura Ringを痛みを感じない位置に動かすようにしていた。

だが、しばらくすると、Oura Ringがいかに存在感が控えめになるように設計されているかがわかり、同時にその独特なアルゴリズムも高く評価するようになった。

一般的なウェアラブル端末はユーザーの過去のデータを考慮することなく、その日のフィットネスデータだけを算出する。個人的には常に自分の体調に気を遣うタイプなので、パンデミックでよく眠れなかった翌朝などにガーミンのボディーバッテリーのスコアが100点満点中「8点」になっているのを見て、多少ショックを受けたりしたものだ。

これに対してOura Ringは、そのときどきのデータではなく全体的な傾向に注目する。こうした独特のアルゴリズムに慣れるまでに、少し時間がかかった。Oura Ringの場合、寝付きが悪い夜が一度あったからといって、睡眠スコアがすぐに下がることはないのだ。

この点について、開発元であるOura Health OyのCEOのハープリート・シン・ライに尋ねてみたところ、カクテルを飲んで寝た翌日のデータよりも、過去2週間のデータから得られる基準となる健康データのほうが重要であると改めて教えてくれた。さまざまな場面で役立ちそうな話である。

Oura Ringのセンサーは極めて正確だ。新型コロナウイルス感染症の発症を予測することはなかったが、生理前の体温の低下は正確に検出した。このような体温の低下はごくわずかなので、ほとんどの女性は高感度な基礎体温計を使っている。女性のホルモンの変化を追跡する医学調査でOura Ringが使われたことがあるのは、ガーミンやフィットビットでは測れず、被験者が自分で記録しなくてはならないデータも自動で計測できるからだろう。

また、Oura Ringのバッテリーは「Apple Watch Series 5」とは異なり、1日以上もつ。ただし、製品の仕様にあるように1週間充電せずに使うことは難しかった。それでも、5日間はバッテリーがもつので数日は着けっぱなしにでき、睡眠トラッカーとしては極めて便利である。またFitbitのように、アプリで詳細なデータを入手したり追加の機能を利用したりするために、サブスクリプション料金をとられることもない。

PHOTOGRAPH BY OURA

発症予測には使えずとも

ほかのフィットネス用のウェアラブル端末でも言えることだが、Oura Ringは新型コロナウイルスに感染したかどうかプッシュ通知で知らせてくれるわけではない。NBAとWNBAはOura Ringのデータだけを利用しているわけではなく、綿棒を使った検査も実施し、その結果と組み合わせて利用している。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の調査でも、問診票とOura Ringのデータを組み合わせているという。

新型コロナウイルスに感染した人の大半が、無症状か極めて軽症であることを考えれば、この点は特に重要だ。感染したかもしれないという不安がある人は、今後も綿棒での検査が必要だろう。

また、スマートウォッチを会議に遅れないために使ったり、Apple Watchの「アクティビティリング」機能のために必要としている人にとっても、Oura Ringを使うメリットは少ないかもしれない。

いずれにしても、Oura Ringを好きになれそうもないと最初は思っていたというのに、Oura Ringが極めて高性能で、しかもファッショナブルなヘルスケア用ウェアラブル端末であることはよくわかった。生理が始まる時期を知りたい女性にとっては、特に便利だろう。

何より、ビールを1〜2杯飲んだところで健康に関するデータに影響することがないのは素晴らしい。パンデミックが続くなか、ビールを飲むことがいちばんの楽しみなのだから。

◎WIREDな点
ウェアラブル端末の名にふさわしく、身に着けやすい。ユーザーの過去の健康データを基準にするというアイデアは素晴らしい。特に女性に役立つウェアラブル端末というのは珍しい製品だ。センサーの感度と精度も優れている。

△TIREDな点
健康管理以外の用途では使えない。価格が高い。リングという形態は万人向けではない。

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