大河ドラマ「麒麟がくる」で物議をかもした女性たちの「立て膝座り」って実際どうだったの?

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近年、歴史の新解釈によって、物議をかもすことが多くなったように感じる大河ドラマや時代劇。

令和二2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」では、女性たちが片膝を立てて座っている描写(立て膝座り)が物議をかもした(orかもしている)そうですが、実際のところはどうなのでしょうか。

立て膝座りもOKだけど……

立膝で座る北条夫人。息子(武田信勝)の前でリラックスしている様子。

結論から言えば、戦国時代の女性が片膝を立てて座ることは間々あったようで、実際にそうした肖像画などが遺っていることから、少なくともタブーではなかったことが判ります。

もちろん胡坐(あぐら)をかくこともあったでしょうし、両膝をついたいわゆる正座(せいざ)を礼儀正しい座り方(だから文字通り正座と言うのですが)とする作法が確立されるのは、もう少しあと(江戸時代以降)になります。

とは言うものの、彼女たちもTPO(時と場所と状況)と無関係にそのように座っていた訳ではなく、改まった場面では相応の座り方をしていたはずです。

※大河ドラマ『麒麟がくる』では、婚礼の席で胡坐をかく花婿に対して、花嫁が立て膝で座る場面があったそうですが、それは流石にやり過ぎだと思います。

もちろんそれは両膝をついた正座でなくても、胡坐だって構やしないのですが、片膝立ちでは膝が邪魔になって深くお辞儀が出来ないためで、山賊の親分などが傲岸不遜な態度をアピールしたいならともかく、目上の者に対して首だけヒョコっと傾ける「チンピラお辞儀」では、どうにも格好がつきません。

また、片膝を立てて座っているとどうしても猫背になりがちで、がんばって背筋を伸ばし続けると背中や腰を痛めてしまいます(加えて骨盤に圧迫されてお尻も痛くなります。よかったら、試しに30分ほどやってみて下さい)。

そもそも膝を立てて座るのは、現代の私たちでも「疲れた身体を膝で支えたい(見栄えはあまり気にしない)」「足がだるい(ちょっとポジションを変えたい)」、要するに「身体をリラックスさせたい」からすることが多く、片膝を立てて座りながら(威厳を保つべく)背筋を伸ばす、という行為は本末転倒と言えるでしょう。

※まぁ、その辺は見る人の価値観によるのかも知れませんが、威厳を演出したいのであれば、正座なり胡坐なり、左右対称に整った姿勢の方がより有効に感じます。

みんな自由に座っていた、大らかな時代

時に、こうした事例をもって「戦国時代、高貴な女性は片膝を立てて座るのがスタンダードだったのだ」とする意見にふれることもありますが、それは流石にいかがなものかと思います。

お市の方。裾の中が正座か胡坐かは判りません(胡坐っぽい?)が、少なくとも立膝ではなさそう。

先ほど言った通り、仕草や立ち居振る舞いに関するマナーが確立されていない戦国時代にあって、人々に座り方をあれこれと指図する基準はありません(少なくとも明文化はされていません)。

もちろん、家庭で親が躾けたり、インフルエンサー的存在がいれば、その所作が流行ったりすることはあったでしょうが、基本みんな自由に(あるいは周囲の空気を読みながら)座っていた筈なのです。

正座にしたい気分もあれば、胡坐の方がいい感じな時もあって、そんな中のいち選択肢として「立て膝座り」もあった、というのが実際のところではないのでしょうか。

近ごろは、声の大きなインフルエンサーに右ならえで「知らないの?おっくれてるー!」「こんなの歴史通の間では常識!」などと得意げな言説も散見されますが、だったらなぜ昔から主張しなかったのか、こういう賢しらな「後出しジャンケン」な態度はどうかと思います。

【戦国時代における女性の座り方・まとめ】

一、立て膝座りは、別にOKだった
一、でも、改まった場面では胡坐なり正座で臨んだものと推測される
一、なぜなら、立膝座りはリラックスしたい時の座り方だから
一、立て膝座りだと深くお辞儀はできないし、長時間姿勢を正すのは非常に苦痛
⇒だからしょっちゅうポジションを変えたくなり、落ち着きがなくカッコ悪い
一、そもそもマナーが確立されておらず、みんな状況に応じて座り方を選んでいたはず
⇒TPO無関係に立て膝座り、というのは流石に不自然すぎる

ともあれ、戦国時代の女性たちが状況に応じて自由な座り方をしていたように、現代の私たちも様々な歴史解釈を大らかに楽しむのが、時代劇との上手な付き合い方(距離感)ではないでしょうか。

※参考文献:
矢田部英正『日本人の坐り方』集英社新書、2011年2月