中国の鉄鋼需要急増が背景にあるともみられている(写真:周辺住民提供)

日本から中国に向けて盛んに輸出された「雑品」と呼ばれる金属スクラップの取引は、日本の法改正と中国の輸入禁止措置により、影を潜めた。しかし最近、首都圏郊外に再び雑品スクラップの山が出現し始めている。

家電リサイクル法や小型家電リサイクル法が扱う使用済み家電も含まれ、違法性が疑われる。鋼板で囲まれたヤードの外に汚水が流れ出したこともあり、周辺住民は気が気でない。「コロナ禍からの復興を急ぐ中国の鉄鋼需要の急増が背景にあるのでは」といった臆測も飛んでいる。

こつぜんと現れた雑品スクラップの山

埼玉県小川町中爪の国道254号バイパス沿いに、そのヤードはある。鋼板の囲いの上に堆積物の山が顔を出す。朝早くからパワーショベルを使ってトラックの積み荷を降ろすガシャン、ガシャンという音が響き渡る。

2020年3月下旬、空き地だったこの土地に高さ3メートルの鋼板が張り巡らされ、さまざまな金属スクラップが搬入され始めた。4月になると、堆積物には風呂釜、廃プリンター、使用済みパソコン、電気釜、洗濯機、ラジカセなどさまざまなものが混じり、紫色の廃液が排水溝〜道路の側溝〜沼へ流れ込んだのを付近の住民が確認した。


紫色の廃液は排水溝から道路の側溝へ流れ、側溝にあるトイを伝って沼に落ちていた(写真:周辺住民提供)

この付近には、山、川、田畑、森に囲まれた田園風景に魅せられて引っ越してきた住民も多い。毒々しい色の水に驚いた住民は、埼玉県東松山環境管理事務所に知らせた。しかし、「この土地を所有し、事業を行っているT社は廃棄物ではなく有価物を扱っていると説明し、購入伝票も示したので、法律には触れない」と言われたという。

6月になると、住民は冷蔵庫や洗濯機が搬入されたのを見た。冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機、家庭用エアコン、テレビの家電4品目は、家電リサイクル法により、使用済み家電の処理ルートや処理方法が定められている。

金を払い、「有価物」として購入したものであっても、これら4品目が混じるものを集めたり、保管したりする場合は都道府県への届け出が必要で、それ以外は違法になる。同様に、小型家電リサイクル法の対象となる28品目についても、県への届け出が必要だ。


ヤードには冷蔵庫と洗濯機があった(写真:周辺住民提供)

埼玉県東松山環境管理事務所は5月、T社から「家電リサイクル法や小型家電リサイクル法の対象となる使用済み家電は扱わない」という趣旨の覚書を出させた。ところがその後、県は覚書に反する状態を確認し、7月、T社の担当者に対し、説明(報告)を求める文書を手渡した。廃棄物処理法に基づく「報告の徴収」と呼ばれる手続きの一環で、8月7日までの回答を求めた。


今年5月に鋼板囲いの隙間から覗くと、スクラップの中に扇風機があった。(写真:周辺住民提供)

期限までに回答はなく、県は8月13日にヤードの立ち入り検査を実施。その結果、冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、扇風機、掃除機、ビデオデッキ、マッサージ器など家電リサイクル法と小型家電リサイクル法の対象となる使用済み家電が持ち込まれているのを確認した。

T社に対する県の行政指導は続いている。

雑品スクラップは、鉄、銅、アルミニウム、プラスチックなどがごちゃ混ぜになったスクラップのことをいう。英語でミックス・メタルと呼ばれる。1990年代後半から、人件費が安かった中国に輸出され、そこで手作業で解体・分別するリサイクル業が盛んになった。

雑品スクラップは、街中を車で回ったり、空き地にのぼりを立てて不用品を回収したりする不用品回収業者を経て、鉄板で囲ったヤードで作業をする「ヤード業者」が集め、スクラップ輸出業者に売られ、輸出された。輸出量は年数百万トンに及んだ。

ところが、屋外集積所や雑品スクラップを積んだ船舶の火災が各地で続発。輸出先の中国では、金属スクラップを解体・分別し、高く売れる金属を取り出した後の残骸が野焼きされるなど、環境汚染を引き起こして問題になった。

正規ルートで処理される使用済み家電は67%

家電リサイクル法を所管する環境省と経済産業省の推計によると、雑品として輸出された家電4品目は2012年度で計130万台に上った。この法律で定めた正規ルートで処理される使用済み家電は、2012年度調べで全排出量の67%にすぎず、残り3分の1は雑品輸出を含め不正に処理されているとみられた。

こうした問題に対処するため、政府は廃棄物処理法を改正(2018年4月施行)し、有害廃棄物の国際移動を規制するバーゼル条約の国内順守法(バーゼル法)も改正(2018年10月施行)。家電4品目と小型家電28品目、これに給湯器、コンプレッサーなどを加えたものが混ざった金属スクラップを保管または処分する事業者には、都道府県への届け出を義務付けた。

一方、同じころの2018年4月、中国政府は固体廃棄物の段階的な輸入停止方針を公表。同年12月末に、廃電子機器、廃電線・ケーブルなどの輸入を停止し、事実上、雑品スクラップの輸入の禁止措置をとった。数年前から、世界的に海洋プラスチックが問題化し、中国による廃プラスチックの輸入禁止に注目が集まったが、このとき、雑品スクラップの輸入も禁止されていた。

輸出側の日本、輸入側の中国と双方で規制を強めたことから、雑品スクラップを扱う業者は激減した。それは、取引価格へ顕著に表れている。

中国政府は本格的な輸入停止に踏み切る前の2017年、中国国内の違法業者を淘汰し、資源輸入量を縮小する措置をとった。

日刊市況通信によると、この措置がとられる前には、雑品はキロ40円台の値がつくことが多く、鉄スクラップの20〜30円に比べて高かった。リーマン・ショック前の2007年には、キロ70円を超えたときもあるという。現在、雑品価格は低迷。日刊市況通信のデータでは、2020年7月は17〜19円で、鉄スクラップの22〜23円に比べて低い数字で推移している。


雑品スクラップの輸出が盛んだったころ、国内で不用品回収業者から使用済み家電が混じる雑品を買い取る「雑品屋」と呼ばれる業者には、中国系の人が多かった。「ヤード」と呼ばれる集積所で働く人も中国系が多く、「言葉が通じないので実態がよくわからない」と嘆く自治体も多かった。リサイクル業界関係者の間では、日本にいる中国系の雑品屋は約5000人ともいわれた。

埼玉県小川町のケース以外にも、使用済み家電を含む雑品ビジネスが再開されつつあることを示す兆候がある。埼玉県では川島町でも同様の事例があり、8月31日、県は改善命令を出した。群馬、茨木県などでも同様の動きがある。

輸入禁止措置をかいくぐって

政府による雑品スクラップ輸出の規制強化に協力した日本鉄リサイクル工業会は最近、会員企業からそうした報告を受けた。

「いま雑品スクラップの価格は安いので、目端の利く人がリスクをとって中国への輸出を再開しているのではないか、という噂を耳にしました。輸入禁止措置をかいくぐって中国に持ち込めれば、売り先はあるでしょう。中国の粗鋼生産は増えていますし、中国はコロナ禍からの立ち上がりが早く、GNPの上昇を鉄鋼生産が担っている面もあります」と、関係者は話している。

リサイクル関係者の中には、中国側で輸入禁止の目こぼしが出てきたのではないか、と勘繰る向きもある。「それは絶対にありません」と否定するのは、非鉄金属の輸出商社、東京資源の布村文雄社長。しかし、「中国以外のタイやマレーシアに輸出されている可能性はある。また同時に、いまは雑品スクラップの値が安いので、輸出せず、国内で解体・分別して売れば採算が合うのではないか」という。

埼玉県小川町にヤードがあるT社の社長は「県が立ち入り検査を行ったときに敷地内にあった冷蔵庫や洗濯機は、たまたま間違えて(荷から)下ろしたものがあったということ。今は、ありません。法律的に問題になるものは扱わない、さわらないつもりだ」と話す。

つまり、家電リサイクル法、小型家電リサイクル法の対象となる使用済み家電を含まなければ、雑多なものが混じったスクラップを集め、解体・分別し、資源として売ることは合法になるのでそうする、ということだ。

県に届け出をすれば、家電リサイクル、小型家電リサイクル法が扱う使用済み家電を含む雑品スクラップを扱うことができる。なぜそうしないのか。「届け出をすると、囲いや掲示板の設置、保管する堆積物の量や高さ、土壌や地下水の汚染防止、強風による飛散防止など、さまざまな処理基準やルールを守らなければいけなくなる」(リサイクル業界関係者)と思われているからのようだ。

約3分の2の事業場が廃業か無届け

実際、届け出件数は少ない。環境省によると、2019年10月1日時点で届け出を済ませた事業場は、全国で405(うち363事業場は保管のみ、42事業場は保管と処分を行う)。法律改正が検討されていたころ、全国で雑品スクラップを扱っていたヤード業者は約1300とされた。約3分の2が廃業したか無届けのまま続けている計算になる。

無届けの事業場の場合、周辺環境に悪影響を及ぼすことが多い。埼玉県小川町のT社は無届けで、紫色の廃液を敷地外に流出させた。埼玉県が改善命令を出した川島町の事業場も無届けで、堆積物の重みで鋼板囲いが敷地外の路上に倒れこみそうな状況だった。


左側の鋼板の内側には堆積物が積まれており、 その重みに押され、鋼板が傾いている(埼玉県川島町で)

「無届けの業者には、処理基準やルールを守る義務はない」と考えるのは、誤りだ。無届けであっても、2つの法律が扱う使用済み家電を扱っている場合、処理基準やルールを守る義務がある。廃棄物処理法には、届け出をしない場合、罰金30万円の定めもある。

夏が終わり、日本列島は台風シーズン真っただ中。台風でなくとも強風、突風、大雨が増えている。最近は、強風にあおられて飛んできたものが架線に引っかかり、鉄道が止まるといった事例も増えた。雑品の堆積物が周辺に飛び散るリスクも抑えてほしい。


紫色の廃液がヤードの外に流れ出したのは、大雨の翌日だった(写真:周辺住民提供)