■文在寅、最後の切札が「反日政策」

韓国、文在寅大統領の支持率が5月の71%から急落し47%となりました。『南北統一』と『反日政策』を基盤にしている文大統領の支持率を下げている要因は何なのでしょう。

写真=iStock.com/kemalbas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kemalbas

直近では、対北朝鮮関係での「つまづき」が文大統領を追い込んでいます。融和政策を推進してきた文政権ですが、「南北融和の象徴」である南北共同連絡事務所を北朝鮮により爆破され、南北間の緊張が高まっています。この不協和音に加えて、韓国経済の冷え込みにより、企業と家計の債務が増加しています。「外向き」も「内向き」も逆風が強くなる中で、支持率を食い止める“最後の切札”が『反日政策』となります。今後、日本への風当たりは強まると考えてよいでしょう。

さらに韓国は、元徴用工に係る資産差し押さえをしており、その現金化手続きは8月4日以降、可能になります。これを受けて、韓国の裁判所は差し押さえた資産を強制的に売却する可能性があり、期限まで残り1週間。反日感情が高まりそうです。

■WTOトップ選挙出馬も反日政策の一環か

新しい動きとして、7月16日に世界貿易機関(WTO)の次期事務局長選挙に産業通商資源省の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長が挑んでいます。中央日報によれば、兪明希氏はスイス・ジュネーブWTO本部で開かれた事務局長候補者の記者会見で、「日本に向けて『事務局長候補を見る時、誰がWTOを改革する適任者なのか能力と資質を見ると判断する』と述べた」と伝えており、日本に協力を呼びかけています。

しかし、もしWTO事務局長に兪明希氏が選出されれば、日本に対してさまざまな要求を突きつける可能性があります。例えば、今年6月には、韓国に対する日本の輸出管理の厳格化措置について世界貿易機関(WTO)に提訴する手続きを再開するなどの動きがありました。文政権にとっては、国際機関のトップに人材を送り込むことで物事を有利に進め、またWTOで日本を批判する地盤を固めることにより、支持率維持を目論んでいるといったところでしょう。

文大統領は『南北統一』と『反日政策』によって国内の支持を受けています。『南北統一』がうまくいかない可能性が高まっていることに鑑み、今後は『反日姿勢』を強める可能性があります。

■なぜ文政権は「北朝鮮融和策」を取るのか?

南北統一は、北朝鮮にとっては所得水準が高まり、韓国にとっては新しい市場の開拓の可能性というメリットがあります。閉塞感が強まる中で、韓国経済が勢いを取り戻すための秘策なのです。文大統領は、就任演説では「朝鮮半島の平和のためなら、どんなことでもする」と語っていました。民族の統一を掲げることに対しては共感する人も多く、文大統領は韓国の指導者として初めて、北朝鮮市民に向けて朝鮮半島統一を訴えるスピーチを披露し、北朝鮮側も当初はこの姿勢を歓迎していました。こうした南北融和の関係から「南北経済協力のシンボル」である、南北共同連絡事務所が崩れさる事態になるまでの経緯を見ていきましょう。

北朝鮮は、韓国に対してフラストレーションの限界を迎えていたのです。始まりは18年6月にシンガポールで開催された米朝初の首脳会談の後です。19年2月のハノイでの2回目の米朝首脳会談が物別れに終わって以降、風向きが変わっていきました。米国は、北朝鮮の非核化が「不十分」として、北朝鮮の制裁解除を拒否したのです。制裁が解除されれば、南北の鉄道と道路の連結や開城工業団地を再開するなどの経済協力が盛り込まれていましたが、それが叶わない状態になってしまったのです。

北朝鮮にとっては、文氏の言うままに行動してみたが、米国との交渉がうまくいかず、韓国との経済協力も進まない苛立ちを抱えていたと言えるでしょう。最後は、脱北者団体による「金委員長らを批判する」ビラ配布が怒りに触れ、爆破に至ったわけです。これを受けて、韓国国内の革新勢力からは、米国の意向に縛られずに、南北融和を進めるべきだとの声も大きくなってきており、文政権としても国内統制が難しくなってきています。

■失業率悪化、不動産高騰、一方で政府高官はぼろ儲け

また、今回の大幅な支持率低下には、韓国の国内経済情勢があります。以前、「韓国『最悪の失業率』で地獄が到来…何もできない文在寅でヘルコリアが加速」でも言及しましたが、韓国の失業率は悪化の一途を辿っているうえに、若者の失業率が全体に比べ2.5倍高く、若者の就職先が限られた社会となっています。文政権は公約として「81万人の雇用創出」を掲げていましたが、高齢層の雇用拡大は一定程度進み、若者の雇用状況は改善されていない状態で、将来を悲観する人が増えています。

この国内の不満に、拍車をかけているのが不動産高騰の問題です。特に、ソウルでは不動産の高騰が止まらず、文在寅政権の発足から3年でマンション価格は5割上昇し、不動産を持つ人と持たない人の資産格差が急拡大しています。このような背景から、不動産価格の高騰で家の購入をあきらめるしかない若い層が、文大統領の支持層から離れていっているのです。

その一方で、政府高官が複数の住宅を所有し、資産を増やして財テクを行っていた事実が発覚しました。不動産を購入できずに困窮している国民が多い中で、投資用の家を何戸も所有する高官の存在に、国民は怒りとともに呆れかえったのです。

■文大統領、不動産問題にメスをいれるも……

この状況を重く見た、文大統領は6月17日に不動産対策の発表を行っています。「不動産投機の抑制」と「住宅価格の安定」のために複数の住宅所有者には税の負担を引き上げる対策で、具体的には投機目的の住宅保有者の負担強化、住宅供給拡大、初めて住宅を購入する人の税金負担緩和の追加対策づくりを指示しています。これによって、不動産投機による金儲けができないように意図しています。

また、聯合ニュースによれば、政府与党が「国会議員や高位公職者に複数の不動産を保有する場合は1つを除いて処分するように求める劇薬処方に乗り出した」と報じています。

しかし、国会議員や高位公職者が売却する不動産の数では依然、不動産は足りないうえに、上記の不動産対策の施策がうまくいったとしても、定着するまでにはしばらく時間がかかるでしょう。今すぐに不動産価格の高騰を是正できるわけではないことから、国民の不満は収まらないのです。

■格差是正も南北統一も叶わず反日政策に出る

新型コロナウイルスの影響によって、韓国の経済成長を支えてきた輸出にも影響が出ており、1〜3月期の韓国GDP成長率は前期比1.4%減となっています。これは、08年の金融危機以来の大幅なマイナス成長となり、個人消費と企業活動への打撃が生じています。実際に、統計庁によると、今年6月基準の自営業者数は昨年末比で13万8000人減少しており、これは、金融危機当時の2009年上半期に20万4000人減少した以降で最悪の数値となっています。韓国経済は、輸出依存型であるため、この影響が4〜6月に拡大する可能性があることを考えると、今後さらに悪い数字が出てくる可能性があります。

韓国経済は半導体を中心とした経済であり、その貿易相手国のメインが中国となっているため中国依存度の高い構造になっています。しかし、中国は2025年までに世界の製造強国の仲間入りを目標にしており、2018年は15.5%にすぎなかった半導体自給率を25年までに70%に引き上げるという計画を示しています。5G、半導体、IoT、自動運転、EV(電気自動車)、AI(人工知能)の全ての分野で中国は主役になることを計画しています。韓国は基幹産業である半導体ですら、中国に取って代わられるところまで来ているのです。

格差・経済への不満、掲げていた南北統一も叶わない、いま、文大統領は国内の支持を獲得するためにも『反日姿勢』を全面に出しかねないのです。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)