定食チェーンとして知られる大戸屋だが、近年は業績低迷が続いている(記者撮影)

2週間のスピード展開だ。

7月9日、外食大手のコロワイドは19.16%の株式を保有する定食チェーン・大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)に対し、株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。

ちょうど2週間前の6月25日、コロワイドは大戸屋の定時株主総会で、取締役の刷新を求める株主提案を否決されたばかり。この株主提案を巡っては、コロワイド側と大戸屋の現経営陣が真っ向から対立、結果的に会社提案が支持された。今回のTOBに対する大戸屋の意見はまだ表明されていないが、敵対的TOBに発展することは確実だ。

45%もプレミアムを付けた買収価格

再びの防戦を迫られた大戸屋幹部は「前々から準備していたのだろう。想定より早く動いてきた」と話した。コロワイド側は「大戸屋執行部との協議の機会を得られなかったため、4月末から株主総会の成否にかかわらず、TOBの検討を始めていた」と、株主総会以前からTOBの準備を進めてきたことを明かした。

コロワイドによる買い付け価格は、1株3081円。前日7月8日の終値が2113円なので、45%近くも上乗せした価格だ。7月10日から8月25日までの間に、最大32.16%の株式を追加取得し、すでに保有する19.16%と合わせて過半数の51.32%を握ることで、大戸屋を子会社化する計画だ。TOBが成立すれば、経営陣の入れ替えを要求し、”コロワイド流”で大戸屋の立て直しを図る。

株主総会では大戸屋の個人株主の8割以上がコロワイドの提案に反対した。とはいえ、このときすでにコロワイドがTOBを仕掛ける観測が浮上していた。そのため、株主総会ではコロワイドの株主提案に反対しておいて、いざTOBの段になったら高値で売却できると踏んでいた株主も多い。

ある40代の男性株主は「(買い付け価格が)3000円を超えるのであれば、売る方向だ」と話す。コロワイドが提示した破格の買い取り価格に応じ、このタイミングで売却しなければ、その後株価が大きく下がることも予想されるからだ。「過去最高益のときの1株当たり純利益に対しても、株価3000円であればPER(株価収益率)は60倍にもなる。さすがに高すぎる」(同)。

大戸屋にとってはホワイトナイト(白馬の騎士)による対抗TOBや、ファンドとのMBO(経営陣による買収)といった対抗措置が考えられるが、「あの価格だと助けてくれるところはないだろう。大戸屋にしてみればかなり厳しい状況」(ある法人株主)。ともかくもコロワイドのTOB価格が高いのだ。さらなるプレミアムを付けることは難しい。

コロワイドによるTOBが成立する可能性はかなり高いといえそうだ。

従業員やFC店が離反する懸念

ただ、買収が成功したとして、コロワイドは大戸屋の抵抗に手を焼くことになるかもしれない。大戸屋は6月5日に「当社従業員による意見表明」「当社フランチャイズ加盟店による意見表明」を発表している。それぞれ、「コロワイド社の買収が成功しようものなら、退職も辞さない覚悟」「フランチャイズ加盟店の離脱が起こり、当社の企業価値が大きく損なわれるおそれがある」という意見があった。

多くの企業買収によって規模を拡大してきたコロワイドは「これまでの経験値から、しっかり説明すればご理解いただけると認識している」とするものの、大戸屋の看板を手に入れることができても、従業員やフランチャイズ加盟店の人心が離れては、店舗の運営に苦労しそうだ。


窮地に立たされた大戸屋HDの窪田健一社長(記者撮影)

加えてコロワイドの財務状況も懸念される。今回のTOBでの買い付け金額は最大で71.8億円にのぼる。すでに保有している約19%分の取得額と合わせて、100億円程度の額になる。対して、大戸屋の純資産は3月末時点で32.7億円しかないうえ、4〜6月のコロナ禍によって赤字を計上し、さらに純資産が痛んでいると見られる。

コロワイドは、買収によって70億〜80億円の「のれん」を計上することになる。コロワイドのバランスシートを見ると、すでにのれんが717億円あるが、自己資本は388億円しかない。さらにのれんを増やすことは、財務上のリスク増加につながる。

膨らむのれんについては「計画しているシナジーや事業再建がしっかり履行できれば問題ないと考えている」(コロワイド)と説明するが、9日のコロワイドの株価は前日比2.4%値下がりして1372円となった。株式市場は、コロワイドが大戸屋を子会社化することを歓迎したとは言えない。

株主総会における否決からわずか2週間でのTOBは、決して行儀がいいものではない。そんな批判は百も承知で、コロワイドは大戸屋を取りにきた。大戸屋の現経営陣は、一転して窮地に立たされた。