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英国一番乗りはダイハツ・コンパーノ

text:Andrew Robrts(アンドリュー・ロバーツ)photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1964年、英国の自動車ディーラー、デュファイ・モータースがダイハツ製モデルの販売を始めた。それは、英国での自動車革命の始まりを、静かに宣言するものだった。

その頃、日本の自動車産業全体で1年間に生産していたクルマの数は、170万2496台に達していた。それでも、ツイード製のジャケットを着ていたような英国人は、ダイハツ・コンパーノ800を珍しい存在として受け止めた。

ダイハツ・コンパーノ800(1965年−1970年)

ダイハツが英国にやって来てから11年後、日出ずる国、日本で生産された自動車は英国でも大きな成功を掴む。英国の自動車製造販売協会が、日本からの輸入車に対する規制を申し出るほど。

英国へ大きな変化をもたらした日本車だが、先駆的な開拓者を取り上げるなら、やはりダイハツ・コンパーノが適している。1965年に初めて正規輸入されたモデルだ。ナンバーは CGH 8B。

当時の自動車評論家は、「良くできているが、技術的には高度ではない」とコンパーノを評価していた。もっとも、当時のボクソール・ビバHAも、決して最先端と呼べる技術は積んでいなかった。

強い向かい風の中では、1.6kmの直線があっても、96km/hに届かないと批判した。確かにそうかも知れないが、高速道路の移動ではなく、垢抜けたシティカーとしてコンパーノは訴求力があったと思う。

英国へ初めて上陸したこのブルーの日本車は、英国ソリハルのインターナショナル・モータース本社が今は保有している。管理するスティーブ・アードリーは、運転がとても簡単だと認める。特にコラム4速のデキが良いらしい。

当初輸入されたのはわずかに8台

コンパーノが登場したのは1963年。少し古いフィアット風のスタイリングを持つボディが、セパレートシャシーに載っている。800ccのモデルは1970年まで製造が続いた。

第二次世界大戦が終了してから20年ほどは、日本車の海外での販売は難しい状況にあった。しかもコンパーノの当時の英国価格は、799ポンド。フォード・アングリア123Eよりも高価だった。

ダイハツ・コンパーノ800(1965年−1970年)

そのかわり標準装備は充実していた。好印象な見た目だけでなく、フォグライトやバックライト、ラジオにホワイトウォール・タイヤなどを、ディーラーは強みとして売りに出した。

アードリーは、英国での販売体制が妥当だったのなら、英国でも成功できたと考えている。「デュファイ・モータースが当初英国に輸入したのは8台だけ。メーカーへのクルマの代金は、実際に売れるまで求められませんでした」

「ダイハツの本社は、クルマの代金を肩代わりしたことに、ディーラーは感謝していると考えていました。しかしクルマが売れてからも、大阪のダイハツへはお金が入らなかったようです」

CGH 8Bのコンパーノを見ると、機会を失った寂しさを漂わせているようだ。同時に、未来の予兆も感じさせる。

小さなダイハツに続いて、英国人へアプローチしてきた日本の自動車メーカーは、トヨタだった。1965年のロンドン・モーターショーへ、4台のモデルを持ち込んだ。1966年までに、毎月150台から200台の販売が目指された。

日本車への抵抗をなくしたトヨタ

1964年、トヨタは3代目のT40型コロナを発表。先代のT20型とT30型は、どちらかといえばアメリカ・デトロイト風のボディラインを持っていたが、3代目ではデザイナーにピニンファリーナを起用した。

いま見ると、トヨタのボディデザインは華やかで万人受けするように見える。公式にはアロー・ラインと表現されていた。

トヨタ・コロナ(T40型・1965年−1968年)

このトヨタ・コロナには、AUTOCARが1966年に試乗している。「活発な走行性能を備え、作りの良い家族向け4シーター」 だとまとめている。

T40型コロナは、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカなどでも製造。その展開ぶりに、当時のブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の海外販売部門は驚いたという。

今回登場願ったトヨタ・コロナは、デラックス仕様。インテリアの時計にラジオ、熱線入りリアガラスが備わる豪華版だ。

贅沢な装備を持ったコロナに、好奇心の強いドライバーが関心を示した。試乗の機会が用意されたが、実際はヒルマン・ミンクスではなくトヨタ・コロナを選ぶことに対して、社会的な見られ方を気にする必要があった。

日本製のトヨタを運転すると、近所の人から愛国心がない、と陰口を叩かれる心配があったのだ。それでも1970年代に入り、T40型からT80型へと交代する頃には、英国人が「ガイシャ」を購入する抵抗感もなくなっていた。

XTB 341Dのナンバーを付けた白いコロナは、2006年に英国トヨタ・ヘリテイジ部門の車両に加わった。広報担当のリチャード・シーモアは、現代の交通にも充分についていける、1.5Lエンジンを載せたサルーンを気に入っているという。

世界最高のクルマを目指したホンダ

ブレーキの操作は少し難しい。充分に強力な制動力を示すが、「オン・オフ」スイッチのように急に効くため。それでも54才を迎える古いトヨタは、日常的に気軽に乗れる、好印象なクラシックモデルだといえる。

トヨタが英国の郊外に姿を表す頃、トライアンフやMG、オースチン・ヒーレーのディーラーは、別の日本車の存在に懸念を示していた。当時のAUTOCARが「小さなロケット」と表現していた、ホンダS800だ。

トヨタ・コロナ(T40型・1965年−1968年)

1960年代、英国人ライダーの多くは、日本製バイクは平均以下だとみなしていた。だが1962年には、英国に設立されたホンダUKが販売するバイクの台数は5桁へと飛躍。そして1963年、ホンダUKは小さなスポーツカーのS500を英国へ持ち込んだ。

創業者の本田宗一郎は、日本でベストのクルマを生み出すと決心していた。「そのためには、世界で最高のクルマを作る必要があります」 と話している。

S500は1964年になるとS600へと排気量を拡大。クーペボディも追加となり、1965年にはS800が導入された。

1966年にロンドン・モーターショーへ姿を表したホンダのオープンカーは、1967年から英国での販売を開始。リアはリジッドアスクルで、フロントにはディスクブレーキが採用されていた。

当時のモータースポーツ誌は強い感銘を受けている。「ローラーベアリングを備えたアルミ製のツインカムエンジンは、鋳鉄製のプッシュロッド・ユニットより、はるかに魅力的です」 と。

英国人の注目を集めたホンダ・エンジン

1968年になると、S800はS800Mへと進化。デュアルサーキット・ブレーキを獲得し、1970年まで製造が続けられた。今回のホンダは、フィリップ・ジョイスが4年ほど保有する1969年式クーペだ。

「多くの人が驚き、金属でできた本物をはじめて見ました、という反応をしてくれます。また、本当にエンジンは1万rpmまで回るのか、と聞かれることも多いですね」 とジョイスは話す。

ホンダS800(1966年−1970年)

事実、1万1000rpmまで切られたタコメーターは、当時の自動車評論家の注目を集める存在だった。エンジンノイズは6000rpmを超えるとヒステリックなものへ変化するといわれていたが、ホンダ製ユニットは終始素晴らしい。

キャビンはコンパクトながら可憐。ジョイスはホンダのこのコンパクトさが、多くの長所を引き出していると考えている。「狭い道でも車線をはみ出すことなく、レーシングラインを取って走れます」 50年ほど前、当時の英国人も同じ意見を持っていた。

そして、世界最速の量産1.0Lモデルといわれたクルマが、英国人の日本車に対するイメージを確立させた。この4台目の日本車、読者の方は何かお分かりになるだろうか。

この続き、残りの3台は後編にてご紹介したい。

ダイハツ、トヨタ、ホンダ 3台のスペック

ダイハツ・コンパーノ800(1965年−1970年)のスペック

価格:新車時 799ポンド/現在 8000ポンド(108万円)以上
英国販売台数:8台
全長:3800mm
全幅:1425mm
全高:1430mm
最高速度:109km/h
0-96km/h加速:23.9秒
燃費:23.0km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:740kg
パワートレイン:直列4気筒797cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:40ps/5000rpm
最大トルク:6.4kg-m/3600rpm
ギアボックス:4速マニュアル

トヨタ・コロナ(T40型・1965年−1968年)のスペック

価格:新車時 777ポンド/現在 6000ポンド(81万円)以上
英国販売台数:91台
全長:4110mm
全幅:1550mm
全高:1420mm
最高速度:140km/h
0-96km/h加速:17.2秒
燃費:9.4km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:978kg
パワートレイン:直列4気筒1490cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:75ps/5000rpm
最大トルク:11.7kg-m/2600rpm
ギアボックス:4速マニュアル

ホンダS800(1966年−1970年)のスペック

ホンダS800(1966年−1970年)

価格:新車時 778ポンド/現在 1万5000ポンド(202万円)以上
生産台数:1万1536台
全長:3355mm
全幅:1400mm
全高:1215mm
最高速度:156km/h
0-96km/h加速:13.6秒
燃費:9.9km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:706kg
パワートレイン:直列4気筒791cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:71ps/8000rpm
最大トルク:6.7kg-m/6000rpm
ギアボックス:4速マニュアル