小児が集団感染の引き金になる可能性も指摘されている ※写真はイメージ(写真:財新記者 丁剛)

「小児は感染しにくい」という見方もあった新型コロナウイルスだが、そうした楽観を戒める論文が登場。中国の独立系メディア「財新」取材班が徹底分析した。

中国の、新型コロナウイルスに感染した小児患者に関する最大規模のデータによると、1月中旬から2月初旬にかけて、中国では2000を超える小児が新型コロナウイルスに感染した。大多数の小児患者は軽度または中度の症状だが、一部の小児――とくに幼児や乳児(訳注:1歳未満の子ども)の重症化率が高い。

小児患者の疫学的特徴に関する初の研究

このほど、上海交通大学医学院小児医学センターの童世廬教授のチームは、国際的に権威のある小児科ジャーナル『Pediatrics』でWeb論文を掲載した。タイトルは『中国における新型コロナウイルス疾患の小児患者2143人(訳注:18歳未満が調査対象)の疫学的特徴(Epidemiological Characteristics of 2143 Pediatric Patients With 2019 Coronavirus Disease in China)』である。


本記事は「財新」の提供記事です

中国における新型コロナウイルスに感染した小児患者の、疫学(訳注:地域や集団内で、疾患や健康に関する事象の発生原因や変動するさまを明らかにする学問)的特徴などに関する初めての研究だ。研究サンプルには、中国疾病予防管理センターが1月16日から2月8日にかけて受け取った、新型コロナウイルスへの感染疑いまたは感染が確定した2143人の小児患者の症例が含まれている(訳注:2月8日時点の中国本土での患者数は3万4546人)。

これまで小児は、相対的に新型コロナウイルス肺炎に罹患(りかん)しづらいと思われていた。だが、この研究は、全年齢の小児が新型コロナウイルスに容易に感染することを示している。国際的に感染が蔓延する中、小児、とくに乳幼児の保護にいっそう注意すべきだ。

3月11日、欧州小児・新生児集中治療学会(ESPNIC)呼吸器分科会の元トップであるダニエル・デ・ルカ氏は財新記者に、「ウイルスの核酸検査(訳注:PCR検査など)が陽性だった新生児はいるものの、今のところ小児患者には症状が現れていない」と語っていた。

しかし、直近の1週間で、イギリスでは少なくとも3人の乳児が新型コロナウイルスに感染している。さらに今回の研究によると、新型コロナウイルスに感染した1歳未満の患者のうち、10%超が重症または危篤状態となった。


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これと呼応するかのように、3月18日、武漢小児病院などの医療機関が「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」において、『小児の新型コロナウイルス肺炎感染(SARS-CoV-2 Infection in Children)』という論文を発表した。

同医療機関のチームが1月28日から2月26日にかけて検査を行った1391人の小児のうち、171人の新型コロナウイルスへの感染が確認されたという。そのうち9人は重症または危篤状態となり、3人は集中治療室(ICU)での治療などが必要とされ、生後10カ月の乳児1人が死亡した。 

患者の平均年齢は7歳で1歳以下も多い

冒頭の小児科ジャーナル『Pediatrics』の論文によると、2143人の小児患者は平均年齢が7歳。そのうち379人は1歳以下だ。男子(1213人、56.6%)が女子(930人、43.4%)より若干多いが、明らかな差はない。感染確定が731人(34.1%)、感染疑いは1412人(65.9%)だ。

同論文によれば、小児の新型コロナウイルスの感染症状が最も早く確認されたのは2019年12月26日。1月20日には小児の新型コロナウイルス肺炎患者が初めて確認された。その後、患者の数は著しく増加して2月1日前後にピークに達し、それから少しずつ減少した。

一方、2143人のうち90%を超える小児患者が、無症状(4.4%)、軽度(50.9%)あるいは中度(38.8%)の患者だった。重症または危篤状態となった小児患者は5.9%で、重症化率は成人患者の18.5%と比べて低い。

ただ、幼児、とくに乳児の重症化率は比較的高い。1歳未満の患者が重症または危篤状態となる割合は合計10.6%。1〜5歳は7.3%で、6〜10歳、11〜15歳、16歳以上はそれぞれ4.2%、4.1%、3.0%だった。

学校や家庭で集団感染を起こす可能性も

その他の疾病を持つ小児は、より重症化しやすい。前出の武漢小児病院などの研究によれば、3人の小児患者が武漢小児病院の集中治療室で治療を受けた。その3人は新型コロナウイルス肺炎以外に、それぞれ水腎症(訳注:尿が腎臓にたまってはれる病気)、白血病(訳注:血液中の白血球が異常に増加する病気)、腸重積症(訳注:腸管が閉塞され血行が妨げられる病気)を患っていた。


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腸重積症を患っていた生後10カ月の小児患者は、入院から4週間後に死亡した。先天性疾患などの複合的な要素が、小児患者の病状悪化を引き起こすのだ。

同研究はさらに、小児が社区(訳注:団地のようなコミュニティー)の中で感染を広げる重大な原因であるかもしれないと警告を発している。現有のデータによれば、小児は伝染性の強い上気道感染症になることが多い。また、診断後の数週間以内に、一部の小児の糞便が核酸検査で陽性になっている。

これは、ウイルスが消化器系で複製できることを示す。乳児や小児の一部がまだトイレトレーニングを受けていないことや、自らを守ろうとする意識が低いこと、鼻汁や糞便などさまざまな要素を考慮すると、幼稚園や学校、家庭内で集団感染を引き起こす可能性がある。

(財新記者:曾毓坤、黄螵昭)
※原文は3月20日の現地時間13:11配信

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