「猫を飼うと結婚できない」説は本当か徹底検証
猫と一緒に暮らすと愛情欲求が満たされて……(alkir/PIXTA)
「独身の1人暮らしが猫を飼い始めたら、もうおしまい」
そんなことが、婚活男女の間では、都市伝説のように噂されています。そう言われてしまうと「そうかもな」と思ってしまう人も多いのではないでしょうか。不思議なのは、「犬を飼ったらおしまい」とはあまり言われず、あくまで猫限定であることです。はたしてこの言説は正しいのでしょうか。
今回は、「犬好きか、猫好きか」という嗜好と結婚との間の関係性について、真面目に検討したいと思います。
犬の飼育数は減少傾向
現在、日本におけるペットとしての犬猫の飼育数は、犬より猫が上回っています。もともと、犬のほうが多かったのですが、ペットフード協会が実施している全国犬猫飼育実態調査によれば、2017年に猫が犬を逆転しました。
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その後も、猫が犬を上回り、最新の2019年の調査では犬879万7000頭、猫977万8000頭とその差を徐々に広げています。全体的に、犬の飼育数は減少傾向にあります。
さらに、犬猫の飼育比率を年代別にみると、興味深い事実が浮き彫りになります。猫より犬の数が多かった2015年と2019年とを比較したところ、犬はどの年代も全体的に大きく減少しています。特に、50〜60代での落ち込み具合が大きい。
対して、猫は同様に50〜60代はやや減少しているものの、20〜40代で逆に増えていることがわかります。つまり、高齢者が犬を飼わなくなり、若年から中年世代が猫を飼うようになったことで、犬猫の逆転現象を生んだということでしょう。
ところで、犬猫数の増減とソロ社会化との間には奇妙な相関があります。有配偶および独身(離別・死別含む)人口と世帯類型のうちの「夫婦と子」世帯と単身世帯とで比較してみましょう。国勢調査の確定データがあるのは2015年までなので、2000年から2015年との増減率で比較してみました。
この15年間に、犬の頭数は、マイナス6%であるのに対し、猫はプラス20%と大きく増えています。一方、配偶関係では、有配偶がマイナス3%、独身がプラス5%、世帯類型では、夫婦と子世帯はマイナス4%で、単身世帯がプラス43%でした。「犬・有配偶・夫婦と子世帯」がすべてマイナスであり、逆に「猫・独身・単身」がすべてプラスとなっています。
家族は圧倒的に犬を飼う率が高い
つまり、やや乱暴に言えば、家族の数が減ったのに合わせて犬の数が減り、独身や1人暮らしの数が増えたのに合わせて猫の数を増えたとみることもできます。事実、ペットフード協会の調査では2009年まで、世帯別の犬猫飼育率を調査していましたが、それよると、単身世帯は犬も猫も同じ7%ずつであるのに対し、2人以上の世帯は24%が犬を飼い、猫は13%です。家族は圧倒的に犬を飼う率が高いのです。
とはいえ、もちろん、これはあくまで相関なので、「猫が増えたのは非婚化が進んだからだ」とか「非婚化が進むと猫が増える」といった因果とはなりません。
実際、住居条件によって、ペットを飼いたくてもままならない場合もあります。そこで、飼育状態に関係なく、「犬好き」か「猫好き」かについて、未婚と既婚との間に違いがあるのかについて調べてみます。私のラボ(ソロもんラボ)で2018〜2019年にかけて、全国20〜50代未既婚男女約3100名に対して行った調査の結果がこちらです。
男女とも各年代を通じて、未婚より既婚のほうが明らかに「犬好き」であることがわかります。特に、20代既婚女性の犬好き率は55%と過半数を占めますし、50代既婚男性の猫好き率は15%と全体の最低を記録しています。やはり、既婚者は、猫より犬のほうが好きなようです。
犬好き・猫好き、恋人がいる率が多いのは?
しかし、だからといって、「犬好きは結婚できる」「猫好きは生涯独身」とまでは言えません。同調査から、未婚男女だけを抽出し、犬好きと猫好きとを分けて、各々どちらが現在恋人がいるのかをクロス集計してみました。
年代別に多少バラつきはありますが、未婚でも恋人がいる男女は、全体的に「犬好き」が多いことがわかります。特に、40代男性は40%以上、30代女性はなんと60%以上も犬好きのほうが多くなっています。反対に、「今まで一度も恋人がいたことのない」グループは一部「犬好き」が上回っている部分はありますが、20代男性と30代女性では約20%も「猫好き」が多いようです。つまり、犬好きのほうが恋愛強者が多いということです。
さらに深掘りりしていきます。配偶関係別の性格によって違いはあるか、についてです。
ここでは、ビッグファイブという最も信憑性があるとされている性格分析の理論を活用します。ビッグファイブとは、アメリカのオレゴン大学名誉教授であるルイス・ゴールドバーグが提唱した「私たちの性格は次の5つの性格因子の組み合わせによって決定される」という考え方で、5つの因子とは、「協調性」「開放性」「誠実性」「外向性」「精神安定性」となります。
それによると、おもしろいことに猫好きと犬好きとで明確な違いが出ました。犬好きは、猫好きと比較して、未既婚問わず圧倒的に「協調性」が高くなっています。一般的に、未婚より既婚の方が協調性因子は高いのですが、こと犬好きに関しては、未婚の方が既婚を上回ります。
未婚の猫好きと犬好きを比較した場合、猫好きは「外向性」「情緒安定性」がマイナスです。つまり、猫好きは、内気でコミュ力が弱く、加えてややメンタル耐性が低いという傾向があるようです。
猫好きの方が「開放性」が高い
一方で、犬好きよりも猫好きの方が「開放性」が高く、これは、豊かな想像力、拡散的思考力と芸術的感受性が強いということを表します。「誠実性」も未既婚で逆です。これは真面目さを表す指標ですが、猫好きは1つのことに集中しやすく、犬好きは飽きっぽいという傾向があることを示唆します。一つひとつ確認すればするほど、なるほどと納得してしまいます。
大ざっぱに結論付けるとすれば、犬好きの性格とは、人と共同で何かをするのが好きで、共感力があり、社交性にあふれているのに対し、猫好きは、1人で黙々と創造的作業をするのが好きな職人気質ということがいえるでしょうか。
今までいろいろなデータを見てきてわかるとおり、「犬と結婚と家族」「猫と独身と1人」という親和性はかなり高いものがあると言っていいでしょう。しかし、だからといって、「猫好きは結婚できない」というわけではないし、「既婚者は犬好きしかいない」わけではありません。犬好きか猫好きかが結婚に結びつくというよりは、どちらかといえば本人の性格によるというほうが正しいかもしれません。
未婚と既婚とで幸福度に大きな差
未婚と既婚とでは幸福度に大きな差があります。一般的に、既婚の方が未婚より幸福度が高いのですが(詳細はこちら『なぜか自己肯定感が低い日本の未婚男性の実像』)、その要因の1つに、ストレスホルモンの分泌を抑制する効果のあるオキシトシン分泌量の違いがあります。
オキシトシンは人間同士のスキンシップによって分泌されるホルモンでもあり、別名「愛情ホルモン」と呼ばれます。スキンシップのできる配偶者や子がいる既婚とそれらのいない未婚との違いが幸福度の違いになっている点も否定はできません。
しかし、オキシトシンの分泌は、人間同士だけではなく、ペットとのスキンシップでも促進されます。未婚化、非婚化に伴うソロ社会化で、特に20〜40代の飼い主で猫飼育数が増えているという事実は、ある意味「結婚以外でオキシトシンを獲得する」という1つの代替行動なのかもしれません。「恋人がいない」方が猫好きが多いというのも、恋人がいなくても猫によって愛情欲求が満たされてしまうからとも考えられます。
とすると、単に「猫が好き」というだけならまだしも、猫をペットとして共に暮らしてしまうと、愛情が満たされてしまい、恋愛や結婚をする必要性を失うということになります。となると、「猫好きは結婚できない」という言説もあながち間違いではないということになります。
それはそれで1つのしあわせのカタチですが、とはいえ、中には猫好きだけれどどうしても結婚はしたいという人もいるでしょう。そういう方は、猫を飼うのではなく、ネットの動画を見ることまででとどめておいたほうがいいのかもしれません。