最近、「たい焼き店」「唐揚げ専門店」「たこ焼き店」などイートインスペースはなく、買って持ち帰る形態のお店が増えている。店舗展開コンサルタントの榎本篤史氏は「どれも意気込んで買いに行くものではない。それなのに行列ができるのは、立地と商品力にポイントがある」と説く――。

※本稿は、榎本篤史『東京エリア戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。

写真=iStock.com/SB
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SB

■街を歩けばビジネスチャンスが見える

私は店舗開発のコンサルタントをしています。仕事柄、出店候補の街の特性を知るために調査をするのですが、そのときに、数字データだけでなく、実際にその街を歩いて知ること、感じることの重要性が今、増しています。

街は生き物のように、少しずつ変化しています。街を見れば、最近の流行はもちろん、「働く人の心理」や「人々のライフスタイルの変化」、さらには「今後どんなビジネスが盛り上がりそうか」といったことまで、透かして見ることができるのです。

出店で考えるなら、「人が多いところに出すのが絶対法則だろう」と思われるかもしれませんが、必ずしもそれだけでうまくいくとは限りません。少子高齢化が進み、新しいビジネスモデルがどんどん登場する今、「ボリュームこそ正義」だった時代は幕を閉じました。だからこそ、大手飲食チェーンやコンビニエンスストアも悩んでいます。同時に、金融関係や教育関係の企業も、「どこにどんな店舗を出すか」を真剣に考えています。

今は、「感性的な鼻がきく人」、つまり「ボリューム」だけでなく、そこに掛け合わせる「質」を深く考えられる人のほうが、儲かるお店をつくることができていると感じます。

たとえばみなさんは最近、街角でどんなお店に行列ができているのを見ましたか? あるいは、実際に並んでみたでしょうか? そんな「なんとなく見た行列」や「なんとなく並んだ行列」も、「ビジネスモデル×エリア戦略」の視点から見てみると、面白いビジネスヒントが浮かび上がってくるのです。

■中途半端な大きさの物件で開業できる商売

ここ最近、街中で「たい焼き店」「唐揚げ専門店」「たこ焼き店」などを見かけることが増えたと思いませんか? イートインスペースはなく、買って持ち帰る形態のお店です。

榎本篤史『東京エリア戦略』(KADOKAWA)

特に駅前エリアで見かけるようなお店は、行列になっていることも珍しくありません。みなさんも、もしかすると並ばれたことがあるかもしれませんね。一体なぜ、街角のテイクアウト専門店が人気を博しているのか、考えてみたことがあるでしょうか。

まず、こうしたテイクアウト専門の店舗は、ちょっとしたスペースで開業できるのがポイントです。コンビニはだいたい40〜50坪が必要とされています。小さな飲食店でも10坪以上はないと難しいでしょう。

しかし、世の中には5坪や8坪といった中途半端な物件もあります。この小さなスペースでできる商売が「唐揚げ専門店」や「たこ焼き店」、そして「たい焼き店」といったお店です。今はここに「タピオカドリンク店」も入れられるでしょう。

■「わざわざ買いに行かないもの」を買わせるには

私は以前、あるたい焼き店の調査をしたことがありました。その調査のときにわかったことは、人々がたい焼き店にどういう理由で訪れるのかというと、「たまたま」だったり、「そこに店があったから」だったりと、多くの人が「高いモチベーションを持って買いに来ていない」ということでした。

あれだけ行列ができていますし、これには驚きましたが、確かに「今日はたい焼きを買うぞ!」と意気込んで買いに行くことは、あまりなさそうですよね。たまたま通りかかった道沿いに店舗があり、「お、たい焼きか。1個買ってみようかな?」くらいの気持ちで買うのではないでしょうか。

だからこそ、これらの小スペースな店舗は立地が重要です。わざわざ行かない店、モチベーション高く買いに行かない店なので、業態としては吸引力が強くない業態ということになります。そうなると、まずは目につくところに出店するのが肝心です。

■「おや? こんなところに」と思われた回数がチャンス

大勢の人通りがある商店街、目立ちやすいちょっとした角地、都内のエリアなら駅周辺など。「おや? こんなところに○○が」と思われた回数だけチャンスになります。売上は月200万〜300万円も売れればそれなりに手残りがあるので十分です。

「どうしても今日たい焼きを食べたい!」という人はほとんどいない。でも、見かけたら買う。なんなら、いくつも買ってしまう――。1個の値段も安いので、複数買うことにも抵抗はありません。目の前になければ買わないけれど、そこにたまたまお店があったら買う。だから、人通りの多いところにお店があれば商売になるということです。

では「結局、人通りが多ければ何でもいいのか」というと、これがそうでもありません。小スペースのスタンド系で成功しているものには、共通点があります。

■スタンドで売るなら「国民的人気」商品

タピオカドリンク店も小さなスペースで出店していますが、たい焼き店などと少し違う点があります。写真を撮ってSNSにアップできるような内装や、ドリンクそのものの見た目を非常に意識している点です。

壁がオシャレに飾ってあってちょっとした撮影スポットになっていたり、店舗の外装も写真映えするようなものになっていたりします。たい焼き店やたこ焼き店ではほとんど見られない取り組みです。

SNSを意識しているのは、タピオカドリンクがことさら流行り廃りのあるものだからでしょう。タピオカドリンクは、好んで飲む客層が若い女性に偏っています。そうであれば、若い女性に来てもらうために、味だけでなく、SNS映えを狙ったアプローチをしなければいけないというわけです。

一方のたい焼きやたこ焼きは、好き嫌いが少ない、日本で万人受けする、年齢層も問わない食べものといえるでしょう。小腹が空いたときにちょうどよく、スナック感覚で食べられます。その場で食べ歩きすることも可能ですし、家に持って帰って食べることもできるので重宝します。唐揚げも、老若男女問わず好まれる一品ですね。夕食の「もう一品」としても活躍していることでしょう。

店があったら売れるタイプの小スペースのスタンド系スナック飲食店で長く成功するためには、エリアと立地に加え、流行り廃りのない、根強い人気がある商品、言ってみれば「国民的人気」があるような商品を選ぶことがポイントだと言えるでしょう。斬新でとがったものである必要は、むしろないのです。

アイデア次第で、ちょっとしたスペースの店舗でも商売になる、今はそんなチャンスがある時代ととらえられます。

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榎本 篤史(えのもと・あつし)
ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役
2004年、ディー・アイ・コンサルタンツ入社。小売業、外食、サービス業、生活関連サービス・娯楽業など、流通全般の成長支援プロジェクトに参画。2017年より現職。著書に『立地の科学』(楠本貴弘との共著、ダイヤモンド社)、『すごい立地戦略』(PHPビジネス新書)などがある。
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(ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役 榎本 篤史)