NTTドコモがモーターショーで見せたかったことは、通信と自動車との新しい関係だ

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2020年、通信業界ではいよいよ「5G(ファイブジー)」がスタートする。NTTドコモや、ソフトバンク、au、の5G新料金プランや5G対応モデルなど、通信事業者からの発表も待ち遠しい。

5Gは現在の4Gよりも高速通信が可能なだけではなく、低遅延、多接続などメリットが大きく、スマートフォンだけではなく様々な業界からも利用方法やサービスの提供について注目が集まっている。

NTTドコモは、昨年東京ビッグサイトで開催された「第46回東京モーターショー2019」に、自動車関連のソリューション展示をしていたことをご存じだろうか。

今回は、5Gに深く関わりをもつNTTドコモの東京モーターショーでの展示について紹介したいと思う。




メインの展示は5Gの高速・低遅延通信という特徴を活かした「5G遠隔運転」だ。
この展示では、神奈川県・横須賀市の自動車を、会場から遠隔操作するというものだ。




ドライブシミュレーターのような機械には、現地から送信された映像が表示され、アクセルとハンドル操作で、その場に居るかのように自動車を運転していた。




この技術はヴァレオが開発した「DRIVE 4U REMOTE」をドコモの5Gで行っている。自動車には、以下のセンサー類を搭載する。
・ AI アルゴリズムを使用する高度なソフトウェア
・ 6 台の Valeo SCALA 1 3D レーザースキャナー
・ 1 台の Valeo SCALA 2 3D レーザースキャナー
・ 1 台のヴァレオ製フロントカメラ
・ 4 台のヴァレオ製サラウンドビューカメラと 6 個のヴァレオ製遠隔操作用カメラ
・ 4 台のヴァレオ製コーナーレーダー
・ 12 個のヴァレオ製超音波センサー
実は遠隔操作とはいえ、搭載されたセンサーがカメラでは見えない障害物を常に検知しており、緊急時には自動ブレーキによる停止する。安全性も確保されているというわけである。

将来的には、自動運転と合わせて緊急時に自動車を遠隔操作するというサービスや、需要が高まる物流業界、施設内での乗り物・配送など様々な分野に応用できる技術である。

自動運転の実現には、様々な状況の判断や機械の制御、法整備、さらに開発や実際の製品に採用されたときのコスト増など、ハードルも高い。
こうした自動運転の状況が難しい一方で、遠隔操作であれば技術的には実現可能な領域まできている。

もちろん公道での遠隔操作は、法整備や安全性の確保などですぐに実現できるわけではないが、私有地などのクローズドスペースでの運用や工場・倉庫内などでの運用であれば、早い段階で実現できる可能性がある。




5Gを利用した遠隔運転を後押しする技術としては、5Gの車載アンテナがある。
「車載用5Gガラスアンテナ」は、AGCが設計・開発したガラス一体型の5Gアンテナで、一見普通のガラスにしか見えず、車載としてもガラスと一体化するため景観を損ねない。


パッと見ただけでは、どこのガラスアンテナが付いているのかわからない


アンテナといえば、棒状のものが突き出ているというイメージを持つが、このガラスアンテナは、フロントガラスやガラス面に取り付けることで5Gのアンテナとして利用できる。
このため、突起物など外側に取り付ける必要がないため、自動車のデザインを損ねることもない。

このアンテナは高い周波数の28GHz帯の電波の送受信が可能だ。
28GHz帯はミリ波とも呼ばれており、その特徴は高速で大容量のデータ伝送に適している。
一方で、伝送距離が短く、そして直進性が強いため建物などを回り込まない。
このため3Gや4Gなど、従来の低い周波数帯域と比べると扱いにくいのである。




しかし、車載のガラス面をアンテナにすれば複数のアンテナを搭載することで改善できる。
例えばフロントガラスだけではなく4面のガラスに取り付ければ、移動しながらでも様々な方向から来る電波を掴みながら通信が可能となるのである。
また、複数のアンテナを束ねて高速にデータ通信をするMassive MIMOにも対応する。

固定回線よりも高速な1Gbpsを超える高速通信が可能なこのアンテナを使った5G接続は、自動車同士のネットワーク接続による自動運転や前述した遠隔運転などに活用できる技術でもある。

今回のNTTドコモの展示はあくまで技術展示であり、実際に自動車メーカーが搭載しているわけではない。
しかし自動車メーカーとAIや音声認識などITに強い企業、そして通信事業者とコラボレーションから次世代の自動車は生まれていくのだろう。こうした得意分野による共創は、5Gの強みを活かしたいNTTドコモのひとつの提案にすぎない。それだけ5Gにはまだまだ可能性があるといえる。

自動車業界は、従来の自動車を作って売る産業から、様々な業種の最先端技術を集めて、移動の手段と方法、そして安全性などを提供することで、自動車で社会の繋がりを作るという産業への変革の時を迎えている。


トヨタは未来の移動手段や運送、動くものと社会の繋がりをアピールしていた


どのような企業と繋がることで、さらに新しい技術が生まれていくのか?
NTTドコモの取り組みと、そして日本の自動車メーカーの今後に期待したい。


執筆  mi2_303