「そのTシャツは“植物”からつくられ、わずか12週間で土に還る」の写真・リンク付きの記事はこちら

着古された大量の衣類がごみ箱に捨てられる。その大半は何らかの合成素材を含み、リサイクルや焼却処理が容易ではない。合成皮革ですら、ほとんどがプラスティックでできているのだ。英国では毎年、推定35万トンの衣類が埋め立て処分されているという。

コットンやウールのような天然素材は、プラスティックよりもはるかに早く傷むため、通常は1年もつことなく生分解される。そして植物と藻類はいま、ファッション産業が抱える大量廃棄の問題に対し、より環境に配慮した解決策になりうるのだという。冒険家向けのファッションブランド「Vollebak」がつくったのは、ユーカリ、ブナ、トウヒのパルプを原料とするTシャツである。このTシャツは、3カ月で完全に生分解されるのだ。

藻類でつくるインク

Vollebakは、従来の合成インクではなく藻類から開発した印刷可能なインクを使って、Tシャツの前身頃に大きな緑色の長方形を描いた。藻類は日光と二酸化炭素と水さえあれば非常に速いスピードで成長し、湖や海では1日で繁茂する。「藻類こそ、わたしたちが使うべき天然素材です。驚くほど多く存在し、信じられない速さで増殖します」と、Vollebakを創業した双子の兄弟のひとり、スティーヴ・ティッドボールは言う。

藻類はバイオリアクターで培養され、フィルターにかけられる。ドロっとしたペーストの状態から、乾燥させて細かい粉末になるのだ。この乾燥粉末を水溶性の結合剤と混ぜ合わせると、緑色をした藻のインクが完成する。そして木材パルプでできた生地に、このインクで印刷できる。

藻類は水なしでは生きられないため、Tシャツのインクになった藻は“まだ生きている”わけではない。また、藻の天然色素は化学染料よりもかなり繊細で、Tシャツごとに緑のインクの色合いが異なる場合や、緑というより青に見える場合もあるかもしれない。

「藻は空気に触れた途端に酸化し、色が変わり始めます。1週間後とその翌週を比較してみても、藻の色褪せ具合は変わり、Tシャツの見た目も変化するでしょう」と、ティッドボールは説明する。そしてこの特徴こそが、唯一無二のTシャツを生み出しているのだ。そんなふうに前向きに捉えてもらいたいと、続けて語る。

Tシャツが日光に晒されたり洗濯にかけられたりすると、やがて緑色のインクはTシャツの生地そのものと同色になる。なるべく洗剤は使わず冷水で手洗いすると、色褪せるスピードは遅くなってインクも長もちする。

PHOTOGRAPH BY VOKELBAK

庭にコンポストできるTシャツ

Tシャツに寿命がきたらコンポストすること、つまり庭に埋めることだけは忘れないでほしい。「そうすればTシャツは生分解されて土に還り、新たな植物の生育に役立ちます」とティッドボールは話す。

Vollebakは、可視スペクトルのあらゆる色に反射して光る「Black Squid Jacket(黒イカジャケット)」で話題のブランドだが、ファッションに藻類を取り入れた最初のアパレルメーカーというわけではない。昨年3月、H&Mがサステナブルなファッションラインの導入を発表した際に、BLOOM FOAMの藻類を原料とする靴底を採用している。

植物と藻類でつくられたこのTシャツは、85ポンド(約12,287円)で販売されている。Vollebakは以前から、100パーセント天然素材で、100パーセント生分解される衣類をつくりたいと考えていた。

「だから、庭に埋められるようにデザインされているのです」とティットボールは言う。「着古したTシャツが虫の餌になれば、持続可能性についてイメージしやすくなります」。VollebakはこのTシャツ以外にも、閉ループ型システム[編註:使用後の製品のリサイクルなどによって埋め立て処分される廃棄物をゼロにする仕組み]に沿った製品の研究開発を進めている。

創業5年のスタートアップであるVollebakは、最先端の素材を用いた衣類をつくることで知られている。同社には、熱を伝導し、体温を逃がさないグラフェンという素材を使ったジャケットから、セラミックを使い、よろいのように耐久性の優れた“不滅”のパーカーまでさまざまな製品がある。

木のパルプや藻類のような天然素材を使用することは、最先端の技術活用だとティッドボールは言う。また水生生物は、持続可能な燃料や食料、惑星間旅行に必要な酸素をつくる鍵となりうるともいう。「だからこそ、わたしたちは藻類を衣類に導入する“旅”に乗り出したかったのです」