パブリッシャーは、自分たちのメーター制ペイウォールに、「新たなリンゴ型の穴」が空いているのに気づいてしまった。

9月下旬にユーザーへの配信が始まったAppleのブラウザ、Safariの最新バージョンでは、プライベートブラウズモードをオンにしているユーザーがサイトを訪問しても、サイト側ではそれが検出できないようになっている。Chromeでいうところのシークレットモードであるこのプライベートブラウズモードは、パブリッシャーによる読者のスマートフォンやパソコンへのCookieの読み取りや書き込みを、一時的にできなくするものだ。そうなると、読者がどれだけのコンテンツを消費したのかペイウォールで検出できなくなり、メーターが使い物にならなくなってしまう。

このプライベートブラウズモードはまた、多くのニュースパブリッシャーが、シークレットモードでのサイト閲覧をやめさせようと配備してきた各種対策もすり抜けてしまうのだという。たとえば、Chromeのシークレットモードを使って米紙ボストン・グローブ(The Boston Globe)のサイトに掲載されている記事を読み込もうとすると、ユーザー登録するか、シークレットモードをオフにするよう要求するメッセージウィンドウが表示され、記事は読めないようになっている。

しかし、最新バージョンのSafariに搭載されたプライベートブラウズモードを使うと、このメッセージは表示されず、毎回新しいプライベートタブで記事を開くだけで、ボストン・グローブの記事をいくらでも好きなだけ読むことができるのだ。

魅力的なSafariユーザー

米国におけるSafariのシェアは、GoogleのChromeに比べるとはるかに小さい。スタットカウンター(Statcounter)の調査によれば、米国のデスクトップブラウザ市場におけるSafariのシェアは9%だという(モバイルデバイスの場合は話が変わってくる。同じくスタットカウンターによれば、この9月時点での米国モバイルブラウザ市場におけるSafariのシェアは53%に達しているという。同月、Chromeのシェアは40%だった)。

だが、その圧倒的多数がAppleデバイスの保有者であるSafariユーザーには、このシェアに不釣り合いなほど大きな価値がある。なぜなら、どちらかというと裕福な人が多く、ニュースにお金を払いがちだからだ。Appleユーザーは標準より多くニュースを購読している傾向がある、と語るのは、FTIコンサルティング(FTI Consulting)で電気通信、メディア、テクノロジー部門のマネージングディレクターを務めるピート・ドゥセット氏だ。そして多くのニュースパブリッシャーで、有料購読者の大半をAppleユーザーが占めているという。

今回のアップデートがあってからまだ日が浅いこともあり、これがビジネスに悪影響を及ぼしていると判断したパブリッシャーはまだほとんどいない。メーター制ペイウォールを設置しているあるニュースパブリッシャーの幹部は、プライベートモードユーザーからのサブスクリプション売り上げは、今週末「やや動きが悪かった」と指摘したが、全体数が少なすぎて、何か結論を出すには至っていないとしている。

悩ましいブラウザの更新

もっと広い範囲の話で言えば、今回のSafariのアップデートで、読者に購読料を払ってもらおうと、それでなくても苦心しているサブスクリプション重視のパブリッシャーの長いToDoリストに、また新たな項目がひとつ加わってしまったことになる。「すべての読者に厳しいペイウォールを課さなければならなくなるし、コンテンツの収益化もより困難になる」と、ニュースメディアアライアンス(News Media Alliance)の戦略的イニシアチブ担当SVP、ダニエル・コーフィー氏は語る。「読者のプライバシーも守りたいが、投資した分の収益がないと、良質なジャーナリズムは維持できない」。

パブリッシャー各社は今年、ブラウザのアップデートが広告と有料購読の両方に及ぼす影響に悩まされ続けている。7月下旬には、GoogleがChromeに加えた変更により、ユーザーがシークレットモードでサイトを閲覧しているかを検出する新たな方法を探さざるを得なくなった。この変更は、パブリッシャー側が何カ月もGoogleに不満を訴え、抗議したにもかかわらず導入されたものだ。また、Firefoxがアンチトラッキング機能を強化したことで、ドイツなどの国では、このブラウザで表示されるパブリッシャーの広告インベントリー(在庫)の価格が15%以上低下したという。

こうした事態に対応するため、パブリッシャーは新たに、匿名読者の数を減らすことに目を向けはじめている。なかでも注目を集めているのが「会員登録ウォール」だ。

Safariだけでは終わらない

ただ、こうした取り組みも急ぐ必要があるだろう。というのも、観測筋によれば、消費者と規制当局に気に入られようとブラウザがプライバシーを重視し続けるなか、今回のような動きはSafariだけでは終わらないと予測されるからだ。

「近いうちにFirefoxやオペラ・ソフトウェア(Opera Software)のブラウザOperaにも、こうした機能が搭載されると予測している」と、ペイウォールベンターのナヴィガ(Naviga)で、エンゲージメントプロダクツ部門のディレクターを務めるダエル・ジャクソン氏は語る。「プライバシーはブラウザにとって大きな焦点になりつつある。今後も、あくまでプライバシーを守ろうとするだろう」。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)