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渋谷の再開発がめざましい。ドカドカと高いビルを建てては、似たような横文字の名前をつけている。桜丘町のあたりなど、店はおろか道すら消えた。この春から我が家は「最寄り駅:渋谷」で暮らしているのだが、そんな様子を期待と少しの不安をもって間近で見つめている。さて、再開発とは不思議なもので、ひとたびそこに新しい街ができてしまえば、以前の風景などすっかり忘れてしまう。写真を見てやっと「ああ、こんな感じだったね」と思うくらいだ。

今回訪れたのは神泉の「麺KAWAKEI」。1960年創業。2015年に再開発にて立ち退き、2017年に現在の場所で再開されるまでは渋谷のガード下にあり、24時間営業の「渋谷ソウルフード」的そば屋だったらしい。「らしい」というのは、恥ずかしながら以前の店にはおじゃましたことがないからだ。そのため以前との比較はできないがご容赦願いたい。

○個性的な店が軒を連ねる「神泉」の一角にあり

京王井の頭線「神泉」駅徒歩1分。住所としては円山町。近隣にはライブハウスやラブホテルとともに、個性的な飲食店も多い。隣はうに専門の居酒屋らしい。青いのれんと看板。奥に進んだ先、左手のドアから店に入る。店内はいくつかのテーブル席と半円のカウンター席。並ぶ酒瓶。筆文字で書かれた酒肴。入口の雰囲気から薄々気づいていたが、ここは居酒屋である。11時半の開店と同時に一番乗り。カウンターに通される。

テーブルに置かれたメニューを眺める。そばはやはり主力のようで「鶏みぞれそば」や「冷やし鶏唐そば」など変わったメニューからごぼう天、かき揚げ、ちくわ天、春菊天など安心のラインナップも。ほかにも、タンタン麺やカレー、丼ものなど実にバリエーションは豊富だった。オーダーは「ネギバカそば(冷)」(830円)に決めていた。立ち食いそばの書籍を多数執筆されている本橋隆司氏のツイッターで知った、オリジナルメニューだ。

○「ネギ:そば」の割合が「6:4」の衝撃的な一杯

注文して2〜3分、到着。この連載で、丼が自席まで運ばれてくる店は珍しい。丼のサイズはやや小ぶりか。何はともあれ、この圧倒的なビジュアルよ。薬味のネギだけが運ばれてきたと言っても不思議ではない。ラー油で和えた白髪ネギの中央に細ネギとゴマ。脇には揚げネギ。具材は以上である。天地返しをするようにして、まずそばをすする。うむ、さっぱりとおいしい冷そばだ。ツユは少し甘めか。次はネギと一緒に。ネギのシャキシャキとした歯ざわりと辛みが口いっぱいに広がる。ゴマは少量だが香ばしさがあり、揚げネギは甘くてこれまたうまい。おおよそ「ネギ:そば」は「6:4」くらいでネギが多い。普通に食べ進めるとネギが余るのだ。後半、ネギしか食べていない時間がある。これはちょっと衝撃的だった。

というわけで、現在は店の業態も価格帯も、一般的な立ち食いそば店とは少し距離があったが、渋谷は街も店も変わっていく。ネギ好きを自負されている方々にはぜひ一度ご賞味いただきたい一杯だ。

○著者:高山洋介

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作