弘中綾香アナ

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「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。

第31回 弘中綾香アナ

 テレビ朝日の弘中綾香アナと言えば、好き嫌いの分かれるアナウンサーのようです。

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 '18年12月に発表されたORICON NEWS調査の「好きな女性アナウンサー」ランキングでは2位にランクインしていますが、今年5月の『FLASH』(光文社)による「嫌いな女子アナ」ランキングでは1位を獲得しています。

 愛くるしい顔に似合わぬ毒舌が「好き」という人もいれば、「苦手だ」という人もいる。「夢は革命家」と公言しているあたりも、いかにもヤバい感じ。そんな弘中アナが8月31日放送の『オールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で一夜限りのパーソナリティーを務めると知り、さっそく聴いてみました。

 私の感想は、女子アナとしては最高、テレビ朝日の社員としても最高、ただし社会人としてはヤベェなと思いました。

 女子アナは人気商売ですから、「好きな女性アナウンサーランキング」の上位を獲得した弘中アナは優秀と言えるでしょう。「嫌いな女子アナ」のトップであるということはアンチもいるということですが、それだけ注目度が高いことの証拠でもあります。これは名誉だと考えていいでしょう。人気アナを抱えているということは、テレビ朝日にとっても喜ばしいはず。

 しかし、彼女が社会人としてはどうか、毒舌家と言っていいのかというと首をひねらざるをえないのです。

 9月10日放送の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)で「深夜の家庭訪問」と題して、にゃんこスターの家を突撃するという企画がありました。弘中アナも出演していましたが、にゃんこスターについて「なわとびを跳ぶ人としか思っていない」と発言し、笑いが起きます。

『キングオブコント2017』で2位になり一躍脚光を浴びたものの、現在はあまりテレビで見ることはなくなった、にゃんこスター。同じく「なわとびを跳ぶ人」と思っている視聴者も多いかもしれません。しかし、それを言うのが許されるのは、お客さん(この場合、視聴者)か、にゃんこスターの実力を判断できる人、つまり芸人ではないでしょうか? 少なくとも、局アナの言うべきことではないと私は思います。弘中アナは、誰かれかまわず、他人を貶(おとし)めることが毒舌と思っているのではないでしょうか。

「オジサンだから」というセクハラ

 弘中アナの毒舌は、ひとりしゃべりの『オールナイトニッポン0』でも健在でした。

 水曜レギュラーとして『オールナイトニッポン0』のパーソナリティーを担当しており、『ゴッドタン』などテレビ東京の看板番組を手がけた佐久間宣行氏について、「テレビ東京のすごいプロデューサーなのか知らないですけど、はっきり言ってただのオジサンですよね」と、けなす。ニッポン放送が、MixChannelで佐久間プロデューサーの動画をライブ配信していることについては、「何が楽しくて、オジサンのビジュアルを3時間流しているんだよ」と、けちょんけちょん。

 佐久間プロデューサーがパーソナリティーをしているのは、ニッポン放送が「人気や実力があるので、高い聴取率が見込める」と踏んだから。つまり、オジサンであるかどうかは関係ありません。

 #MeToo運動以降、セクハラをやめようという流れが起きています。セクハラというと、男性が女性にするものというイメージを持つ人も多いでしょうが、女性が男性にセクハラをすることあります。「オジサンだから」という理由で、佐久間氏をいじる弘中発言は、女性が男性にしがちな典型的セクハラではないでしょうか。

 アナウンサーとして、ちょっと意識が低いのではないかと思いますが、もしかしたら、女子アナだからこそ、こういう発想に至るのではないかとも思うのです。

「毒舌キャラ」の男性アナがいない理由

 TBSラジオ『小島慶子のキラ☆キラ』での毒舌ウリで大ブレイクし、タレントに転向した元TBSアナウンサーの小島慶子。プロデューサーから降板を告げられた際、連絡が遅いことに納得がいかず、用意されたコーヒーを「あなたからもらったコーヒーは飲めません」と流しに捨てた元TBSアナウンサー・宇垣美里。そして弘中アナと、上に盾(たて)突く女性や毒舌は一定の人気がありますが、男性アナウンサーで、「毒舌キャラ」を掲げる人はいません。

 '18年12月に発表されたORICON NEWSの「好きな男性アナウンサー」で1位に輝いたフリーアナウンサー・羽鳥慎一は「プライベートはダメダメ」という非リア充キャラで売っています。同ランキングで五連覇を達成し、殿堂入りした日本テレビ・桝太一アナは恐妻家キャラを掲げるなど、男性アナウンサーは威圧感のないキャラが上位に来ているのです。

 女性の毒舌ウリはあるけど、男性にはいない。なぜこのような差がなぜ生まれるかというと、テレビ番組のトップが男性だからではないでしょうか。

 多くの情報番組、バラエティー番組でメインMCを張るのは男性芸能人です(女性芸能人がメインMCの番組は、数えるほどしかありません)。男性アナウンサーが毒舌を吐けば、メインMCの男性が「生意気だ」と気分を害してトラブルになるかもしれません。しかし、女子アナが毒を吐いた場合、男性芸能人は女子アナという異性を前にすると、異性故にどう叱ったらいいかわからない、もしくは叱って嫌われたらどうしようと躊躇(ちゅうちょ)する場合もあります。

「美人は内面もよい」というバイアスのかかった男性MCや視聴者の場合、毒舌を「頭がいい」「面白い」「大物だ」とポジティブ変換することもあるでしょう。本人にそのつもりがなくても、女子アナの毒舌キャラは「女性だから」「美人だから」という理由で許され、守られているケースもあるのではないでしょうか。

 その辺りの機微に気づかないと、「私は面白い!」「もっと過激なことを言ってやる!」と女子アナ側がヤバいやる気を加速させてしまうのだと思うのです。

後ろ盾のある人が毒舌を語るのは、ムシがいい

 今でこそ、『さよなら!ハラスメント』(晶文社)を上梓(じょうし)し、ハラスメントNOの最先端に立って旗をふる小島慶子ですが、かつて『ごきげんよう』(フジテレビ系)に出演した際、司会の小堺一機の髪を見て、「あれ? また減りました? 髪の毛」と指摘したことがあります。

 のちに小島はツイートで反省の言葉とともに《使い古された「ハゲネタ」を言って、バラエティが分かったつもりになっていました。こういうのがウケるのだろうと思い込んでいました(原文ママ)》と説明していましたが、毒舌ウリしている女子アナは、周囲に甘やかされた結果、自分に甘かったり、無神経になってしまう部分があると思うのです。

 毒舌ウリしている女子アナを甘やかすものは、職場の男性だけではありません。背後にあるテレビ局という組織です。

 冒頭の弘中アナのにゃんこスターに対する「なわとびを跳ぶ人」発言ですが、仮ににゃんこスターがこの発言を不快に思っても、弘中アナに抗議をすることはできないでしょう。なぜなら、弘中アナに抗議をすることは、テレビ朝日に文句を言うのと同じ行為だから。よっぽどの大物は別として、タレントはテレビ局からお声をかけてもらう立場ですから、そこの局アナにも丁寧に接するはず。弘中アナの毒舌が面白いと言われたのは、一緒に組む芸人が気を遣って面白くしてあげている可能性もあるのではないでしょうか。

 そもそも、大組織という後ろ盾をもった人物が毒舌を語るのは、ちょっとムシがいい話ではないかと思うのです。自分も返り血を浴びる覚悟のあるポジションでないと、ただの「上から目線の人」ではないでしょうか。

 弘中アナが真の毒舌家か、それともヤバい女子アナなのか。それは彼女がフリーになったときにわかることかもしれません。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。