東大の一部の学部では、「プレゼンによる推薦入試」があるといいます。それで合格した人は、何が違うのでしょうか(画像:haku/PIXTA)

偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。そんな彼にとって、東大入試最大の壁は「全科目記述式」という試験形式だったそうです。

「もともと、作文は『大嫌い』で『大の苦手』でした。でも、東大生がみんなやっている書き方に気づいた途端、『大好き』で『大の得意』になり、東大にも合格することができました」

「誰にでも伝わる文章がスラスラ書けるうえに、頭もよくなる作文術」を『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』にまとめた西岡氏が、作文と共通する「プレゼン術」を解説します。

みなさんは、プレゼンはお得意ですか? 僕は苦手です。


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自分の意図を相手に伝えて、相手を説得するのって非常に難しいですよね。自分の中では伝えきれたつもりでも、相手にはぜんぜん伝わっていない……みたいなことが、けっこう頻繁に起こってしまいます。

東大の中でも、授業でプレゼンを行う機会は多いのですが、やっぱりその中でも得意な人間・苦手な人間というのははっきりわかれてしまうものです。

そんな中で、「こいつは本当にプレゼンがうまいな!」と思わせられるのは、東大推薦入試で合格した東大生教授にプレゼンして東大に合格しているだけあって、彼ら彼女らはやっぱりプレゼンが上手なのです。

今回は、そんな東大に推薦で合格した人たちに、プレゼンのテクニックを聞いてみました。その中で見えてきた、3つのプレゼン術をみなさんにご紹介したいと思います。

まずは、プレゼンには必ず「自分」を入れるというテクニックです。

自分の経験を交えて語る

東大の推薦入試はグループで行われることが多いので、基本的にほかの人のプレゼンも聞くことになります。だから合格した人は、合格した人のプレゼンも、惜しくも不合格になってしまった人のプレゼンも、両方聞いている場合がほとんどなのです。

それを利用して今回僕は、推薦合格した人に対して「ぶっちゃけ、合格した受験生とそうでない受験生って、何が違ったんだと思う?」という、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみました。

どの東大生も「うーん……それは難しいな……」と悩んでいたのですが、最終的にはこういう回答をする人が多かったです。

「自分の経験を交えて語れていなかった人は、不合格になっていたと思う」と。

惜しくも不合格になってしまった人のプレゼンの中には、合格した東大生の目から見ても、非常によく勉強しているもの、プレゼンを見ているほうも非常に勉強になる内容のものも多かったそうです。

というか合格した東大生の中には「自分よりも勉強している(と思われる)学生も多かった」とまで語っている人もいました。「勉強量だけだったら自分のほうが劣っていたのではないか?」とすら考えている学生もいるくらいでした。

しかし、それでも落ちた人たちのプレゼンを後から振り返って考えてみると、「なぜほかでもない自分が、そう考えるようになったのか?」「そう考えた自分が高校時代に何をしていたのか?」というような、「自分」という要素が入っていなかったのだそうです。よく調べているのはわかったけど、「なぜあなたが語るのか」がわからないものばかりだったと。

例えば「今の世の中にはこういう問題があって、それに対してこういうことをすればいいと思います!」と語っている人がいたとして、その問題もその分析も、究極的に言ってしまえば調べればわかるものです。

東大の教授はそれ以上のことを知っているだろうし、考えているはずで、そこに価値はない。ほかの人でもそのプレゼンはできてしまうはずですし、それはもはや、プレゼンではなくただの「分析」なのです。

そうではなくて、「私はこういう体験をしてきて、だからこんなことを思いました。こういう活動をしてきて、その上で将来こういうことがしたいです」と、きちんと自分を絡めてプレゼンできているかどうかで、プレゼンの価値は変わってくるのです。自分という要素が入ると、その瞬間に「この世の中でその人以外は語れない意見」を作ることができます。

実際、合格者のプレゼンの内容を教えてもらうと、随所に「自分」という主語が入っていました。

分析的であり、論理的であったとしても、根本には「自分はこう思った」というものが存在し、自分にしかできないプレゼンをしていたのです。

・自分がどう思ったのか?
・そのプレゼンの内容が、自分の体験とどう結びついているのか?

こうしたポイントを入れることで、自分にしかできないプレゼンになるのではないでしょうか。

次のポイントは、「質問を想定し、それを徹底的に考え抜く」というものです。

想定質問を徹底的に考え抜く

東大の推薦入試というのは、学部によってかなりシステムが違います。1つの論題についてグループディスカッションをする学部もあれば、教授と1時間以上面談して合否を判定するという学部もあります。

そんな中でひときわ面白いシステムなのが、教育学部です。教育学部では、自分の持ち込んだポスターを基に7分間プレゼンをして、8分間、ほかの受験者から質問を受け付け、その様子を教授が見て合否を判断する、というシステムを採用しているのです。

「ポスターを持ち込むことができる」というのもビックリですし、「ほかの受験者から質問を受ける」という形式もすごいですよね。

そんな教育学部の推薦入試に受かった東大生の中で多かったのは、「想定される質問を複数個持っておく」というテクニックを使っていた学生です。

持ち込めるポスターできちんと説明ができるようにするのは大前提。そのうえで、周りの学生からどういう問いが来るのか、来たときにどのように答えるのかを想定しておくのです。

「自分のプレゼンがどういう点で突っ込まれそうか?」「どこが他人に理解してもらえなそうか?」「何がいちばん伝わりにくいか?」

そういうことをあらかじめきちんと考えておくわけです。

なんてったって、プレゼンする時間よりも質問を受ける時間のほうが長いので、プレゼンをきちんと語ることだけに重きを置いている学生はバッサリ不合格になってしまうのです。多い人は、これを20個以上考え、どう聞かれても大丈夫なようにしてプレゼンに臨んでいました。

また、きちんとそうした想定質問を作ると、プレゼン自体にもいい効果が生まれると言います。

「ここが突っ込まれそうなら、きちんとこの論拠を補強しないと」「この点をわかりやすく伝えるためには、こうしたほうがいいかも」

そうやって、想定質問から逆算して自分のプレゼンをわかりやすくしたり、もっとすごい東大生だと、「この点で質問してもらいたいから、ここをぼかしてプレゼンしよう!」と、わざと自分のプレゼンに穴を作って質問を誘発させていた学生もいました。

僕もそうなのですが、プレゼンを作るときって「プレゼンをきちんと作って、語る」ということにばかり注意が行きがちで、「どんな質問が来るか?」ということに意識を向けている余裕ってなかなかないですよね。

でも、「想定される質問をあらかじめしっかり考えておく」「想定される質問を元に、プレゼンのクオリティを高める努力をする」ことで、より良いプレゼンが可能になるのです。

最後に大切なのは、「言葉の定義をはっきりさせる」ことです。

言葉の定義をはっきりさせる

私たちは言葉を何気なく使っていますが、実はその何気なく使っている言葉こそが、プレゼンにおいて肝になってくることがあるのです。

例えば、今年東大教育学部に推薦で合格した女性は、先ほどの「ポスタープレゼン」で「子どもの自己肯定感を育めるような教育が必要なのではないか」ということを、自分の高校時代の活動に立脚して語ったそうです。質問もある程度想定どおりにこなすことができたそうなのですが、その後の東大教授との会話の中で、予想外の質問に驚いたと言います。

「あなたはプレゼンの中で、『自己肯定感』という言葉を使っていましたが、その言葉が一般的に認知されている言葉の定義と、違う部分があるかもしれないと考えたことはありますか?

20個以上質問を想定していた彼女でも、この質問は完全にノーマークだったそうです。

私たちは何気なく言葉を使っていますが、言葉の意味は人によって齟齬があることが多いです。そして、プレゼンがなかなか伝わらなかったり、話が噛み合わないときというのは往々にして、言葉の定義が異なってしまっている場合が多いです。

「自信」という意味で「自己肯定感」という言葉を使う人もいれば、「前向き」という意味で使う人もいるでしょう。また、「期待」とか「信頼」とか「信用」とか、微妙に意味が異なっているけれど使い分けることが難しい言葉というのも存在しますよね。

東大の教授のこの質問は、そういうことを気づかせてくれる質問だったのだと思います。彼女はこの質問に対して、自分の使っている言葉の意味と一般的な解釈で、共通な部分と異なっている部分を説明し、どう異なっていたのかを示し、合格することができたと言います。

そして合格した今でも、そうした言葉に対する感度を高めるために、日々言葉に気をつけて生活しているそうです。

・プレゼンの中で、解釈が異なりそうな言葉・意味が微妙に違ってくる言葉をあらかじめマークしておく
・その言葉の定義を、自分の中できちんと語れるように努力をし、もっと適切な言葉がないかを探す

こうすることで、相手と齟齬のないプレゼンができると思います。

いかがでしょうか? 今回取材に協力してくれた東大の友達はみんな話がわかりやすくて面白い人ばかりでした。みなさんもご紹介したテクニックをプレゼンに役立ててもらえればと思います。