楽天モバイルのショップ。大手キャリアにどのように対抗していくのか(写真:楽天モバイル

10月1日から自前の通信設備を用いたキャリア(MNO)としての事業を開始する楽天モバイルが、いよいよ9月6日に料金プランを発表する。得意のポイント付与も含めて、既存の大手キャリア(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)よりも安いプランを投入し、幅広く顧客を奪いにくるとみられる。

ただ、この土壇場にきてもなお、インフラ整備の遅れが指摘されている。8月26日には、総務省が楽天モバイルに対し、同省に提出している事業計画に間に合うように、基地局の設置場所の確保や、工事を進捗させるための体制整備を求めた。3、7月に続き、これで3度目の行政指導になる。

「スモールスタート」にとどめる

こうした整備の遅れも踏まえてなのか、楽天モバイルはサービスの開始時には利用者を極一部に限定する「スモールスタート」にとどめることを明らかにしている。1〜2カ月後にはオンラインで、さらにその後に実店舗での受け付けを順次開始する方針だ。

総務省が楽天モバイルに対して目下求めているのは、あくまでも年度末に事業計画どおりに3432局を整備し、かつ安定した通信品質にすること。フルで開始できる時期が多少後ろにずれようが、それは楽天モバイルの自由だ。多少のタイミングのずれよりも、どれだけ競争力を持てるのかが重要になる。

その競争力の観点で、気にかかることがある。それは楽天モバイルが目指す成長ペースに合わせて、販売代理店が運営する店舗を増やせるかどうかだ。

通信業界では、キャリアは携帯ショップの運営をなるべく販売代理店に任せている。NTTドコモ関係者は「雇用も含めて地場の代理店に任せたほうが効率的であることに加え、自前で多くの店舗を持つことで固定費が膨らむリスクを軽減できる」とフランチャイズビジネスの典型的な理由を挙げたうえで、「直営にせずに代理店同士での競争を促すことで、販売力を高める目的も大きい」と業界ならではの背景を説明する。

現に8月時点の大手キャリアの全店に占める直営比率はドコモが約2300店中54店で2.3%、KDDIが約2500店中13店で0.5%、ソフトバンクは約2300店中9店で0.4%にとどまる(ドコモの場合、正確には代理店以外はドコモの完全子会社ドコモCSが運営)。残りはすべて代理店が運営している。

大手キャリアは代理店に対し、非常に厳しい相対評価を課して競わせている。ほかの代理店よりも優れた数字を出したところには支援金やインセンティブの形で大きな金額を与える一方、逆に劣っていれば金額を絞り、時には閉店まで追い詰めることもある。

このアメとムチが、現場に緊張感を持たせ、「売る力」につながっている。ある代理店関係者は「今の仕組みの中で生き残るためには、とにかく必死にやらないといけない。直営店にはそこまでの危機感はないだろう」と語る。

楽天モバイルの直営店はいちばん多い

これに対し、楽天モバイルは5月時点で約500店中、58店が直営で、その比率は11.6%に上る。


楽天モバイルの直営店の1つである渋谷公園通り店(写真:楽天モバイル

ショップの数ではまだ大手キャリアの4分の1にすぎないが、直営の数はいちばん多い。先述のドコモ関係者のコメントを踏まえても、業界の常識に照らせば今後は店舗網を広げていく中で、徐々に直営比率を下げていくことが重要となる。

ただ、代理店関係者の声を聞くと、楽天モバイルについて、さまざまな負の事情が浮かび上がってくる。

複数のキャリアショップを手広く展開するある販売代理店の幹部は、「楽天のショップを出したときに、すぐにauやソフトバンクの担当者が飛んできて、『なんで楽天の店なんか出したんだ』と怒鳴られたことがある」と明かす。楽天ショップを出そうとしたときのキャリアからの横やりは、しばしばあるのだという。

そもそも代理店の中には、楽天のキャリア事業自体の成功を疑問視しているところもある。

別の代理店幹部は「楽天が自前でやる東京・名古屋・大阪はネットワークが悪くて、ローミングでauから借りる地方はネットワークがいいような状態がしばらく続くのではないか」と予想したうえで、「歴史的にみても、日本ではインフラがだめな通信会社はうまくいかない」とシビアにみている。このようなところは、楽天モバイルが出店をお願いしてもやすやすとは動かないだろう。

ショップを通じた販売力の重要性

キャリアの顧客獲得競争において、料金やサービス品質が重要なのは当然だが、ショップを通じた販売力の重要性も決して小さくはない。


4月に総務省で行われた5G開設計画の認定交付式に参加した楽天の三木谷浩史社長(左)(編集部撮影)

楽天の三木谷浩史社長は常々、最新技術などを導入できることから「後発者メリットは大きい」と語っているが、販売力や店舗網の整備スピードにも直結する代理店を通じた出店には逆風が吹いているようだ。

大手キャリアと楽天のショップの差は数字や代理店関係者らの証言から透けて見えるが、パワーバランスで有利に立つ大手キャリアに対して、ほかにも表には出てこない後発者デメリットは多々あるはずだ。楽天が「第4のキャリア」として成功するためには、こうしたハードルも越えていかなければならない。