詳しいメカニズムは同書を参照していただきたいのだが、要は、うつは脳の炎症反応だということだ。ここで「どうもピンと来ない」という人がいるとすると、同書によれば、それは「心身二元論」にとらわれているからだ。心身二元論というのは、17世紀フランスの哲学者ルネ・デカルトが最初に提唱したもので、ざっくり言うと「心は心で、体は体」。人間には身体と精神という二つの領域があり、両者はつながっていない、とする考え方だ。

 ところが近年は、デカルトの発想とは異なり、精神と身体は「つながっている」と考えた方が、科学的に納得がいくケースが増えている。
 
「炎症→ストレス→うつ」ではなく「ストレス→炎症→うつ」
『「うつ」は炎症で起きる』の内容に照らし合わせると、冒頭のお笑い芸人のうつ病は、手術のストレスが「心」を痛めつけた結果とは限らないことになる。手術の過程で体に炎症反応があり、それがうつの原因になった可能性もあるのだ。

 ここで、少しややこしいのだが、ストレスでうつになる、というのは、まったくの間違いというわけではない。実は、身内の不幸などの心理的なストレスが「炎症」の原因になる、という研究結果もあるのだ。

 その「ストレスが原因の炎症」がうつを発症させることも十分考えられる。つまり、「ストレス→炎症→うつ」という因果関係だ。この場合、間に「炎症」を挟んで、間接的にストレスがうつの原因になっている。心と体の関係で言えば「心→体→心」となる。

 私たちは、つい「ストレス→うつ」すなわち「心→心」と考え、炎症(体)を無関係なものと扱う。あるいは「炎症(病気)→ストレス→うつ」(体→心→心)と考える。

 しかし「ストレス→うつ」と決めつけることで、うつ病の医学的治療が難しくなっている面もあるのではないだろうか。

 ブルモア医師は、うつ病の治療において、どんな原因で発症しようとも同じ抗うつ薬が使われてきたことを指摘している。彼は、すべてのうつの原因が「炎症」であると言っているわけではない。炎症が原因ではない「うつ」もある。その場合は従来の抗うつ薬でいいのかもしれない。だが、炎症が原因の場合、効果はあまり期待できない。

 「ストレス→炎症→うつ」の証拠が得られれば、炎症を治療することで、うつ病の症状を抑えられる可能性が高くなる。うつ病の治療に新しい道が開けるのである。

 また、うつの原因の一つに「炎症」があることが一般に広まれば、「うつは甘え」「心の弱い人がうつになる」といった偏見に近い見方が減っていくかもしれない。

 うつの原因が炎症であれば、うつ特有の落ち込みや希死念慮は「体の故障」の症状の一つであり、性格やものの考え方とは関係ない場合がある。そのことが少しでも周囲の人たちに理解されれば、うつ病患者の苦しみも軽減されることだろう。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『「うつ」は炎症で起きる』
エドワード・ブルモア 著
藤井 良江 訳
草思社
240p 1,600円(税別)