21年ぶりとなる自力でのワールドカップ出場を決めた日本代表。8月31日から中国で開催される本大会へ向け、日本人2人目のNBAプレイヤーであり、日本代表の主軸、渡邊雄太が、その意気込みを語った――。
※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。


ワールドカップに向けて語った渡邊雄太

 2017年11月から始まったワールドカップアジア予選。日本代表は開幕から4連敗を喫し、本戦出場どころか1次予選敗退濃厚の危機的状況に立たされた。そこから、オーストラリアやイランといった強豪を撃破し会心の8連勝。21年ぶりとなる自力でのワールドカップ出場は、奇跡と呼んでおかしくないだろう。

 そして、いよいよ8月31日からワールドカップ本大会が始まる。

 1次ラウンド、グループEに属する世界ランク48位の日本は、同17位のトルコ、同24位のチェコ、そして世界ランク1位に君臨するアメリカと戦う。

 過去の国際舞台で日本は、アメリカはもちろん、ヨーロッパ勢から白星を上げたことがない。1次ラウンド全試合で苦戦は必至。しかし、日本をワールドカップに導いた立役者のひとり、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ/G−F)は目標をこう語った。

「予選ラウンド突破は、最低限超えなければいけないラインだと思っています。個人的には2勝して次のラウンドに進みたい。今の日本なら、それが達成できるレベルだと思っています。個人的なスタッツは目標にしません。勝つためのプレーをします。

 自分が無理に30点、40点取る必要はないと思います。(八村)塁や、他にも点を取れる選手がたくさんいるので。チームを勝たせるために自分の役割を徹底したうえで、スタッツも残せていけたらなという感じです」

 奇跡の物語の本編はこれからだ――。

 強気にすら思える目標設定も、渡邊の1年間の軌跡を辿れば納得できる。昨季、グリズリーズと2Way契約を結んだ渡邊は、NBAのレギュラーシーズン15試合、Gリーグのレギュラーシーズン33試合、プレーオフに2試合に出場。Gリーグではレギュラーシーズンで平均33.9分プレーし、14.1得点、7.3リバウンドを記録、チームの主軸としてプレーしている。

「慢心じゃないですけど、Gリーグのレベルならやれる。あとは、できることをどれくらいNBAに持っていけるか。磨かなければいけない部分はたくさんあります。まずは3ポイント。スリーを高確率で決めることができれば、十分上で使ってもらえると思っています。あとは継続してトレーニングを続け、フィジカルを強くしていくことです」

 Gリーグでは2桁得点が当たり前となった渡邊だが、NBAとなると平均出場時間が11.6分ではあることも影響するが、平均2.6得点、2.1リバウンドまでスタッツは下がってしまう。GリーグとNBAの差を、本人はどう感じているのか?

「正直、体つきはひと回り違う。そこはトレーニングを積んで、もっと体を大きくしていかなければいけない。ただ、今は2Way契約があるので、Gリーグでプレーする選手の中にもNBA経験者が多くいます。確実にレベル差はありますが思っていた程ではない。ただ、上に上がった時、昨シーズンはコート上で考えすぎた部分がたくさんありました。経験を積んだ今なら、もっと違ったプレーができる」

 実際に今夏、渡邊はNBAの若手、そして今ドラフト上位選手たちも多く出場するサマーリーグ4試合に出場し、平均24.5分のプレー、14.8得点、7.3リバウンドを記録している。

「スキルは確実に上がっていますし、体が強くなった分、リム(リング)周りのフィニッシュ力もかなりついたと思います。経験を積んで視野も広がり、余裕を持ってプレーできています。スキル、フィジカル、経験、全部の成長が組み合わさり、サマーリーグでのプレーになったのかなと。

 サマーリーグ後半は欠場しましたが、プレーできないことはない状態でした。でも、グリズリーズサイドから『かなりいいプレーができることを証明してくれた。このあとはワールドカップも控えているから無理しないでいい』と言われたので休みました。シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)と診断されましたが、そもそもふくらはぎに多少の痛みがあったので検査に行ったら、脛の内側の骨が痛んでいることがわかったという程度のものです。だから、ワールドカップへの影響はまったく心配していません。ベストな状態で大会を迎えられる」


今年のサマーリーグでもしっかりと存在感を残した

 成長を実感しながらも、その上昇速度を緩めることはできない。世界最高峰のNBAを目指す者として、一瞬たりとも立ち止まれないことを渡邊は知っている。

 6月のドラフトで話題を呼んだザイオン・ウィリアムソン(ニューオリンズ・ペリカンズ/F)のみならず、渡邊の所属するグリズリーズに1巡目2位で指名されたジャ・モラント(G)のように、毎年のように未来のスーパースター候補がNBAの門を叩く。NBAに居場所を確保しようとする者にとって、現状維持は即脱落を意味する。それでも過酷な生存競争を「楽しいです」と渡邊は笑う。

「そこが、自分がずっと行きたかった世界です。最初からこうなることはわかって挑戦しているので。焦りというか、やらなければ落とされるという危機感を常に持ちながら、今の状況を楽しめています」

 ただ、今の日本代表をけん引するのは渡邊だけでない。

 今夏、日本人選手は渡邊を含め、ドラフト1巡目9位でワシントン・ウィザーズに指名された八村塁(F)、馬場雄大(アルバルク東京/SF)、比江島慎(宇都宮ブレックス/G)の4人と史上最多人数がサマーリーグに参加した。

 中でも八村は3試合に出場し、平均19.3点、7.0リバウンド、1.7ブロックのスタッツを残しサマーリーグのセカンドチームに選出されている。これほど多くの日本人選手がサマーリーグで活躍するとは、数年前なら予想すらできなかった。しかし、渡邊はどこまでも冷静だ。

「過去との比較はできないので時代が変わりつつあるという実感は、さほどありません。ただ、ここ数年で、確実に僕や日本代表がレベルアップしていると感じます。でも、ここで満足しないで、これからどれだけあとに続く人たちにつなげられるかが大事。そのためにも、これからも日本を引っ張っていくひとりになれたらと思います」

 もし冒頭の「予選ラウンド2勝」が現実になれば、日本代表は予選1位通過をかけてアメリカ代表と全勝対決となることが濃厚だ。もちろん、渡邊はアメリカの強さを肌で知っている。

「ジェームス・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ/SG)やアンソニー・デイビス(ロサンゼルス・レイカーズ/PF)といった何人かは代表を辞退していますが、アメリカにはいくらでもスターがいるので、強いことに変わりはないです」

 アメリカ代表との対戦時、渡邊はジェイソン・テイタム(ボストン・セルティックス/F)、カイル・クズマ(レイカーズ/F)などの次世代のスーパースター候補とマッチアップが有力だ。

「ライバルという感覚はないですけど、ボストンで試合をした時はベンチに入っていたので、テイタムのプレーを生で見ています。見習う部分はたくさんありました。長身でいろんなプレーができるので、ベンチで見ながらいろいろ勉強させてもらいました。ただ、もしマッチアップする機会があるなら、ガチンコでやりたいと思っています」

 今大会、絶対王者であるアメリカに土をつけるチームは現れるか? そして、それが日本の可能性はあるのか?

 7月、サマーリーグが開催されたラスベガスでの夜。渡邊は八村、馬場、比江島に声をかけ食事会を開いている。

「やっぱりチェコ、トルコは倒さないといけないよね。2勝した状態でアメリカ戦を迎えるのが、ベストだねと話し合いました」

 日本はアジア予選で強豪オーストラリアに、渡邊不在ながら競り勝った。

 しかし、その試合、オーストラリアは2016年リオ五輪の主力メンバーも、ベン・シモンズ(フィラデルフィア・76ers/G)も不在だった。イランに勝った2戦にしても、日本もフルメンバーではなかったが、イランは絶対エース、ハメド・ハダディ(C)が出場していない。日本代表は、まだ本気の世界Aクラスから勝ち星を挙げたことはない。だからこそ、今はまだ黙って牙を研ぐ時間だ。

 アメリカは強い。2006年に日本で開催された世界選手権の準決勝でギリシャに敗れたのを最後に、ワールドカップ、オリンピックといった大舞台で無敗を続けている。

 ただし、サマーリーグに出場した4選手、さらに昨年、日本国籍を取得したニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース/C)を要し、歴代最強の日本代表も一発勝負なら何かが起こることを期待していいだけのメンバーは揃った。21年ぶりとなる自力でのワールドカップ出場は奇跡の序章。来る9月5日、対アメリカ戦。渡邊が、日本代表が、世界を驚かせる準備はできている。