最近はやりの超高張力鋼板は修理がむずかしい

 どんなに気をつけていてもクルマをぶつけてしまうことはある。そうなれば、普通は修理をすることになる。手の平サイズぐらいならいわゆる簡易板金でもリペアは可能だが、ボディがベコベコになるような大きな修理となると、板金塗装が必須となる。この費用がいま、高騰中なのだ。

 以前であれば、ヘコミを直して塗装した場合の料金の目安はパネル1枚3万円といわれていた。これなら自分で負担するにしても仕方がないか、とあきらめがつくレベルだが、最近はパネル1枚で10万円近くいくことも。もちろん程度によるのでそこまではかからないこともあるが、いずれにしても3万円で直せる時代ではないのは確かだ。その背景にあるのは一体なんなのだろうか?

 まず素材が問題だ。超高張力鋼板は、いまや軽量化に欠かせないものとしてもてはやされているが、張りが強いために叩いて元に戻すのは非常にむずかしい。熟練した職人であれば直せるが、そこまでのレベルの人は滅多にいない。そのため修理するのではなく、パネルごと交換するのが最近の主流だ。

 しかも、パネルを止めるために使う溶接機は専用のものでないとダメで、これがまた高いしそもそもいままでの溶接機が使えなくなるので、買い替えの負担が増える。そしてパテも超高張力鋼板専用を使わないとダメと、三重苦だ。

いまのクルマの板金を行うには新たな設備投資が必要

 そして、直し方自体も手間が増えている。もちろんいい加減な業者は守らないだろうが、最近の大掛かりな板金修理ではメーカーからの指示に基づいて直さなくはならないのだ。理由は本来の衝突安全性能を落とさないようにするためで、細かいリペアマニュアルがメーカーから支給される。以前であれば、経験やカンを頼りにして元通りに直していたが、それが通じなくなってきているのだ。

 作業での負担増はこれだけではない。水性塗料の使用が増えてきていて、これがまた手間がかかる。ちなみに近い将来、水性塗料の使用は義務化されるだろう。水性塗料はなぜ手間がかかるのか? 油性と水性という違いだけで塗るのは同じと思うかもしれないが、水性の場合は強制乾燥できるブースでの塗装が必須となる。囲っただけの簡易ブースでは塗ることはできない。そうなると当然、設備投資が必要だ。ついていけない業者は非常に厳しいだろう。

 そして最後は人件費の高騰だ。ごたぶんに漏れず人手不足で、手間のかかる板金塗装業界を目指す若手はかなり少ないといっていい。こうなると人件費がかさみ、これは当然費用に上乗せされてくる。

 ここまで見ただけでも、高くなることはあっても、安くなることはないというのはわかるだろう。できるなら車両保険に入っておきたいが、保険会社は支払いを渋る傾向にあるのが実際。また支払い額を抑えるために指定工場への入庫を強力に押し進めるなど、こちらでも大きな変化は起きている。いずれにしても、できるだけぶつけないようにするのが基本だ。