川崎市の登戸駅付近で起きた19人殺傷事件。小学生らを切りつけた後、自ら首を刺して死亡した岩崎隆一容疑者について、親族から相談を受けていたという川崎市の会見から、その姿が徐々に浮かび上がってきた。


 岩崎容疑者は幼少期に両親が離婚、伯父夫婦に引き取られ、いとこにあたる兄姉が独立後は80歳代になる伯父伯母との3人暮らしだったといい、市では一昨年11月に親族から相談を受けて以降、伯父・伯母との面会を8回、電話相談を6回行った。ただ、岩崎容疑者本人との接触はなく、担当者は「長期間就労していない、引きこもりの傾向にあって、家の中に閉じこもっているような生活環境」「伯父・伯母の方から、あまり刺激したくないという意向があった。こちらとしてはなるべく家族内での関係が不安定にならないように配慮しながら関わっていた」と説明した。

 2010年までに判決が出た52人の無差別殺傷事犯について法務省がまとめた資料(2013年)によれば、犯行前に見られた問題行動として、自殺企図(犯行前)が23人、引きこもり12人となっており、犯行時の家族との関係・接触状況については「家族との関係不良」が26人、「希薄」が27人となっている。
 


 こうした点から、岩崎容疑者の犯行は、関係ない人たちを道連れにしてしまう「拡大自殺」だったのではないか、との見方も出ている。そんな中、ネット上では「メンズカウンセラー」として活動する中村カズノリ氏による体験談の連続ツイートが「この視点は知っておくべき『マジで通り魔やるか』と決意しかけてやめた話」としてまとめられ、話題を呼んでいる。

 それによると、中村氏は約3年半前に過眠症を発症、最大で24時間も眠ることがあったという。原因は勤務先のシステム開発会社でのストレスが疑われ、検査入院もした。月に2、3回は無断欠勤することになってしまい、時短勤務によって、手取りは10万円を切ることもあったという。
 
 「体調管理をしっかりしてくださいと言われても、どうしっかりしていいか分からない。遅刻するから休むと言うこともできず、無断欠勤してしまっていた。社内での立場も悪くなっていき、どんどん袋小路に追い込まれていった。自己嫌悪が募り、それが順調に朝起きられて、会社に来られて、仕事もできている人への怒りに変わっていった。"なんでお前、そんなにできるんだ。こんちくしょう"と。ぶん殴ってやりたい、とまで思うようになった」。


 半年後、会社に自己都合を迫られ退職届を提出すると、人事担当者は「思いつめて自殺なんてしないでね」と苦笑したという。

 「もちろん人事の方は病気のことを気にかけてくれていたし、死なれたら悲しいという思いもあったんだと思う。でもその一言によって、"この人、何を言っているんだろう"と、30秒くらい何も考えられず、言葉を発せなかった。そして、普通に朝起きて会社に来られているヤツが憎い、という気持ちがワッと膨らんで爆発した。"お前は、夜寝て夕方起きる時の絶望を知ってんのか。どうせ気持ちまで分からないよね。俺なんて替えのきく存在だし"と、どんどん思考がネガティブな方向に行き、怒りに転化した」。

 中村氏の中で「何かがスッと覚める感覚」があり、殺すなら会社の人間だ、という考えが頭をもたげた。中村さんの中に「よし、ここでコイツを殺そう」と考えが芽生え、笑いながら「僕、自殺するくらいなら殺しますから」と言い放ってしまう。

 「目の前で"自殺しないでね"と言った人をぶち殺して、Twitterに声明をあげようと。社会的制裁を受けてもいいや、と思った。それくらい自分の境遇がしんどかったし、目の前の人事の方、会社の方、そして世の中にそのことを知って欲しいと思った。もちろん今となっては、なんてことを考えたのだろうという思いはあるし、現実的に考えれば無理な話だが、とにかく見てほしい、知ってほしい。"他にもしんどい人がいたら、俺に続いてこい”という思いがあった」。

 5年前に離婚を経験、実家とは縁を切っていた中村さん。危機感を覚え、離婚時に相談に乗ってもらったカウンセラーの味沢道明氏にすぐに電話をかけ、会社の人に対する殺意を覚えたこと、金銭面の不安などを相談した。「泣きながら電話した。"アイツを殺したいんだけど"。"どうやって殺してやろうか"、と。"大丈夫だよ"という言葉に安心した。もし味沢さんとつながってなかったら、ペンで襲いかかっていたと思う」。

 今回の事件を受け、中村さんは「何が起きたかということはニュースで確認しているが、それをまともに受け止められない。受け止めるにはあまりにもしんどすぎる。自分の中で咀嚼できていない」と話す。味沢氏は「生育の中で、人を信じられるか、信じられないかというところだと思う。人それぞれに一概には言えないが、誰か分かってくれる人がいるという体験をした人と、誰も分かってくれないと思っている人は違う。分かってくれる人がいたら、死ぬ必要がない。殺す必要がない。分かってくれないと実行するしかなくなる。中村さんはギリギリのところでつながってくれたので良かった」と振り返った。


 元経産官僚で、医療AIベンチャーに携わる野村将揮氏は「容疑者を擁護するつもりはないが、社会構造の問題を孕んでいるという視点は大事だと思う。社会全体の歪みが家庭や個人の精神状況に影響を与えている部分があると思うので、それを踏まえた政策や対応を考えていく必要がある」とコメント。

 ジャーナリストの堀潤氏は「秋葉原無差別殺傷事件の取材をしている中で、"堀さんは会社員だし、将来の夢を描くことができていいですね。私は今日の生活をどうするか、そしてそのことを話す相手もいないんですよ"と言われ、言葉を返せなかった。でも、会社を辞めた途端に、お金がない、語り合える仲間も限られているという状況になった。そんな時、満員電車で肩が触れ、ものすごくイラッとしたことがあった。他人事じゃないと思った。テロ行為などを未然に防ぐための捜査はできても、心の問題を抱えた方などについての対策を本格的にやろうとすれば、それはある意味で人権を制限するような方向に行きかねないし、そういう捜査に対して言論機関としては声を挙げなければいけないというジレンマもあると思う。一朝一夕には回答を導き出せないが、非常におおざっぱに言えば、いかに余裕のある社会を生み出すかという、という視点で向き合わなければならないと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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