交通系ICカードのチャージ上限額は2万円だ(写真:y_seki / PIXTA)

Suicaをはじめとする交通系ICカードのチャージ上限額は2万円。少ないか十分かといえば、それは使う人それぞれだ。

だが、Suicaなどの交通系ICカードと同じソニーの非接触カード「FeliCa」の技術を使用した「楽天Edy」やセブン&アイの「nanaco」、イオンの「WAON」などは、これよりも多くの金額をチャージできる。

交通系ICカードのチャージ上限額は、なぜ2万円になっているのだろうか。

確かに2万円分乗り通すことはない

現在の代表的な交通系ICカードといえばJR東日本のSuicaである。なぜチャージの上限額が2万円なのかをJR東日本に問い合わせてみると、「利用実態や、再発行ができない無記名Suicaを紛失した場合のお客様の損失、不正利用やセキュリティの観点から、上限額を2万円としております」との回答だった。

確かにこれは納得のいく理由である。Suicaは首都圏はもちろん、新潟や仙台などの各エリアで使えるが、エリアをまたいで使うことはできない。例えば東京からSuicaを利用して新潟や仙台に行くことはできない。特に広い首都圏エリアの両端である松本―いわき間を乗り通しても7344円しかかからない。

JRの運賃がおおむね2万円となるのは、営業キロ1961〜2000kmの区間で、片道運賃は1万9870円である。Suicaの各エリアはもちろん、その他の交通系ICカードのエリアでも、こんな運賃に達するほどの移動は不可能だ。

もしもJR東日本の全線全エリアをSuicaで乗り通せるようになったとしても、東京から新潟・秋田経由で青森まで向かっても1万0800円であり、現在の金額設定でも十分間に合う。

現在の鉄道運賃では、よほどの長距離移動をしない限り、ICカードで2万円という金額を使うことは困難である。きっぷの代替手段として活用されるということであれば、この金額は妥当であろう。

そもそも、多くのSuica利用者は数百円の距離でしか使わないのが普通だ。無記名のSuicaを紛失した場合や、不正に利用された場合の損失を考えると、高額のチャージを可能とするのはリスクが高い。一気に高額のチャージをしておけば使うたびに残額を気にすることがなく便利かもしれないが、クレジットカードとリンクさせればオートチャージもできる。

電子マネーとしての利用は増えている

だが、同じ「FeliCa」の電子マネーである楽天Edy、nanacoはチャージの上限額が5万円で、WAONも設定変更することで2万円から5万円に引き上げられる。

これらは高額の買い物も想定されるショッピングのための電子マネーであり、少額な運賃決済のためのSuicaとは異なる。だが、最近は交通系ICカードを電子マネーとして利用できる店も増えてきた。書店や衣料品店、家電量販店などでは、駅ナカや駅ビル、街中を問わず多く見られる。

JR東日本をはじめ交通系ICカードを展開する各社は、電子マネーとしての利用拡大を図っている。2018年3月末現在の交通系電子マネー使用可能店舗数は47万6300件に達しており、同年5月18日には、交通系電子マネーの1日利用件数が700万件を突破した。また、総務省の「家計消費状況調査結果」によると、電子マネーを利用した1世帯(2人以上世帯)の1カ月あたり使用金額は平均1万7644円(2017年)で、その額は年々増えている。

電子マネーの利用件数、そして平均利用額がこれだけ増えてきていれば、交通系ICカードについても再発行可能な記名式のものや定期券などでは、2万円以上のチャージを可能にしてもいいのではないかとも思える。電子マネー間の競争がある中で、交通系ICカードが勝ち抜くためにはチャージ上限額もほかと同じレベルになってもよさそうだ。

実際に、チャージ上限額のアップを求める声はあるようだ。JR東日本に聞くと、「電子マネー加盟店の拡大に伴い、上限額の増額を希望するご意見をいただいていることは承知しております」といい、「上限の引き上げについては現時点では予定しておりませんが、利用状況を見ながら検討してまいります」との回答だった。


FeliCaの電子マネーでも、楽天Edyやnanaco、WAONは2万円以上チャージ可能だ(撮影:今井康一)

では、技術的にチャージの上限額はどこまで設定することが可能なのか。交通系ICカードに使用されている「FeliCa」を開発したソニーによると、上限額は決まっておらず、いくらでも設定できるという。

なんと100万円や1000万円という額でも問題はなく、もっと大きな金額でも大丈夫ということだ。

いずれは可能性があるかも?

さすがにそんな高額をチャージする人はいないだろうが、技術的に問題がないのであれば、交通系ICカードの上限額の増額も可能性はあるのではないだろうか。

もしそうなった場合、ほかの電子マネーに合わせて5万円とするか、電子マネー間の競争に打ち勝つ要素としてもっと大きな額にするかは、交通系ICカードを発行している各社局の話し合いの中で決まっていくことになるだろう。

Suicaの発行枚数は2018年3月末で6942万枚に達しており、その他の交通系ICカードも合わせればその枚数は相当なものになる。電子マネーとしての利用場面が増える中、すでにチャージ金額を増やしてほしいという声がJRに寄せられていることを考えると、そう遠くない将来に上限額の引き上げが行われたとしても不思議ではない。