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前回(前編)は手術支援ロボット「ダビンチ」の概要や特長、ロボット手術を取り巻く日本の実状を解説し、聖路加国際病院の協力でダビンチの実機を見せてもらった。聖路加国際病院は既に2011年頃からダビンチを導入し、泌尿器科を中心に2018年5月末時点で1,000件の手術を行ってきた実績がある。また昨年、ロボット手術センターを設立し、本格的にロボット支援手術の推進を始めている。



●技術的な課題は?


編集部:

操作において、内視鏡が見えづらかったり、アームの操作で遅延を感じたり、といった不便さは感じませんか?


服部医師:

視野についてはまったく不便さを感じません。3D映像で奥行きも把握できるので、ごく自然に扱うことができます。ロボットで手術をすると言っても同じ手術室内で操作しているので遅延もまったく感じません。


編集部:

現在のロボット支援手術において技術的な課題はなんでしょうか?


服部医師:

技術的に大きな課題は特に感じていません。あえて言うなら、ロボット操作に「触覚」がないことです。手術中に患部の硬さや柔らかさを知ることは重要な情報ですが、手で触るような触覚のフィードバックはありません。ただし、慣れてくるとロボットが押したりつまんだりしたときの映像を見て、すなわち視覚でそれらを判断できるようになりますので、ロボット手術の回数を重ねれば触覚がないことは問題にはなりません。
個人的にはアームがもう一本増えると操作性が更に向上して良いのでは、と感じています。
技術以外の課題としては、コストですね。絶対的に便利なシステムですので、コストが下がれば導入や症例は増えると思います。ランニングコストは一般の腹腔鏡手術よりもかかります。


編集部:

メンテナンスや故障についてはどうでしょうか。


服部医師:

メーカーによる定期メンテナンスのほか、臨床工学技士が術前と術後に必ず点検を行ったりセッティングに立ち会っています。当病院では故障等による手術の中断などは一回もありません。機械なので故障する可能性はもちろんありますが、予備部品を即座に交換することで今まで大事には至ったことはありません。



●ロボット手術は今後増える?


編集部:

今後は、ロボット支援手術の症例は増えていくと見込んでいますか?


服部医師:

間違いなく増えると思います。課題は今申し上げたとおりコストだけです。病院がロボットを導入する費用とランニングコスト、メンテナンス費用です。4月から保険の対象となる手術が増えたので、患者さんにとっては一般の腹腔鏡手術と同じ費用になって受けやすくなります。そういったことから泌尿器科以外でも導入が活発になると予想しています。
一般の外科医師にとって、ロボットは素晴らしい道具になり得ると思っています。先ほど説明した触覚がないことなどで、心配を感じる医師もいらっしゃると思いますが、一度使ってもらえばその良さは理解されると思います。当院内でもロボット手術センターを通じて、ロボット支援手術を積極的に訴求していきたいと思っています。



●遠く離れた遠隔地からのダビンチ操作で手術できる?
インタビューを通じて、ロボット支援手術の現状と実際がよく理解できた。今後についてだが、ダビンチはコクピットとロボット本体が別の機器で構成される、言わば遠隔操作ロボットだ。現在は同じ手術室の中で使用されているが、離れた遠隔地から手術ができるようになるのだろうか?


編集部:

例えば、九州の大きな病院にダビンチが稼働しているとします。難易度の高い手術が必要な患者がいる場合、服部先生が東京のダビンチのコクピットから九州の患者の手術することはできるのでしょうか


服部医師:

理論的にはできます。ダビンチは元々、戦場に近い病院で負傷した兵士を救うため、医師は戦場から離れた遠隔地から戦地の病院のロボットを使って手術を行うという発想から開発がはじまったものです。
しかし、実際にはそうはうまくはいきません。現状では通信のスピードの問題で画像の表示などにタイムラグが発生する可能性があります。わずかな画像の遅れやズレが違和感に繋がり、正確な手術にならない懸念があります。また手術は執刀医ひとりではなくチームで行うので、九州のチームがその手術に長けていて息の合ったメンバーでなければ、うまく進むことは限りません。
また、このご質問は将来、離島などに手術ロボットを設置して、専門医師が東京から遠隔で手術できるか、ということにも繋がると思いますが、現状ではロボットの維持コストやセッティングに臨床工学技士などの専門スタッフが必要など、様々な障壁があって使用頻度の低い病院にロボットが置いておくことは現実的ではありません。ただ、技術的には可能ですし、生命に関わる緊急の場合は将来の選択肢としては充分に考えられると思います。



●ダビンチとAIが連携することで進化する可能性は?


編集部:

医療分野とICT技術と言えば、「AI」が進出することに期待を寄せている人も多いと思います。先生はダビンチとAI技術が合わさって、今後に期待するようなことは現時点でありますか?


服部医師:

ダビンチにAIを加えるということは、おそらくロボット手術の完全自動化を目指す、という話になると思います。例えば、骨折した患部にボルトを入れて固定するような手術は自動化に向いているかもしれません。しかし、お腹や胸の中で行う外科手術の場合、ひとりひとり身体の内部の個人差はとても大きく、重要な血管が走っている場所も一様ではありません。そういうことから見ても内視鏡の画像からAIが正確に判断して、臓器などを切ったり縫っていくというのは相当高度な判断が必要なので、実現するのにはまだまだ時間がかかると思っています。
ただ、CT画像などの解析を学習したAIがナビゲーションするなど、医師の手術を支援するのは実現していく方向にあるかもしれませんね。トレーニングやシュミレーターにプロジェクションマッピングを使ったり、AIによって仮想のトラブルが発生するようなストーリーを組んだシュミレーションで、より実際の手術に近い学習ができるようになると素晴らしいですね。


小島医師はダビンチは手術を学習するトレーニングやシュミレータに期待を寄せる。


小島医師:

開腹手術は実際に立ち会って手術を見て学ぶことが中心になります。一般の腹腔鏡手術は内視鏡の映像が残るのでビデオ映像で振り返り学習することができる利点があります。更にロボット支援技術は映像が3Dになり、シミュレータで様々なケースを学習できるようになります。ダビンチのコクピットで仮想の手術を行いながら、操作に慣れたり、経験を積むトレーニングができる点は、今後の医療業界にとってとてもプラスになると感じています。



ダビンチを使ったトレーニングの様子 (写真提供:聖路加国際病院)



取材を通してロボット支援手術の有用性が明確に見えてきた。保険の適用範囲も拡がったことで、今後は泌尿器科や婦人科以外にもロボット支援による腹腔鏡手術が急速に拡大していくと見られている。
現状ではコストに課題があることが明確だが、今後、同様のロボットが数多く登場すれば、価格や費用は必然的に下がっていくだろう。
ロボスタ編集部としては、ロボットが医療分野でも活躍することを期待しつつ、引き続き注目していきたい。

※ 本記事はロボット支援手術の現状と実態をレポートしたものです。実際の医療に関する情報は専門文献で確認したり、病院や医師等にご相談ください。


(神崎 洋治)