夏の甲子園100回大会は、大阪桐蔭の春夏連覇で幕を閉じたが、金足農のエース・吉田輝星(こうせい)の力投や、甲子園で自己最速となる151キロをマークした大阪桐蔭の柿木蓮など、投手陣の活躍が目立った。

 なかでも、ネット裏に陣取ったプロスカウトたちを驚かせたのが、2年生の投手たちである。あるスカウトは「投手に関しては、3年生よりも2年生に将来有望な選手が揃っていた」と語るほどだ。


開幕試合で150キロをマークした星稜の奥川恭伸

 創成館(長崎)戦で16三振を奪い、4安打完封した創志学園(岡山)の西純矢の投げっぷりは見事というしかなかった。

 まず、グラブでボールを隠すワインドアップがいい。ここできれいに背筋が伸びるから、軸足で立った時の姿勢が美しく、そのあとのボディーバランス抜群のフォームの連動を生むのだ。

 しかもストレートと変化球がまったく同じ腕の振りで放たれるため、バッターは見分けがつきにくい。さらに、打者に近い位置で変化するため、ストレートと思ってスイングしたら急に曲がり出した……打者にとってはまさにこんな感覚だろう。

 2回戦でガッツポーズを審判に注意されて制球を乱すなど、まだ精神的な脆さはあるが、素材は超一級品。おそらく、来年のドラフトの目玉になることは間違いないだろう。

 左投手なら、横浜の及川雅貴(およかわ・まさき)に目を奪われた。初戦は1イニングだけのマウンドだったが、初球にいきなり145キロをマーク(最速は152キロ)。しかも右打者の懐に食い込むクロスファイアーだ。

 ボールのキレ、ベース上での勢い、なにより左から放たれる150キロのストレートはそれだけで武器だ。このままケガなく順調に過ごせば、及川もまたドラフト上位で消える逸材だろう。

 開幕試合に勝利した星稜の2年生エース・奥川恭伸(やすのぶ)を見るたびに思うのは「本当はもっと身長が高いのではないか」ということだ。甲子園出場校の名鑑によると、身長は183センチとなっているのだが、マウンドでの奥川の姿はそれよりも明らかに大きく見える。

 奥川を大きく見せている正体は角度だ。相手打者がボールと思うような低めの球が、ベース付近で垂れずにグッと伸びてくる。この最後の伸びが、奥川を実物以上に大きく見せているのだ。150キロのストレートもすごいが、角度こそ奥川の最大の武器といえる。

 奥川に続き、この夏の甲子園で150キロをマークした2年生投手が、日大三の井上広輝。昨年秋の新チームの頃は”エース”で、春のセンバツでも初戦の三重戦に先発。だがその後、右ヒジを痛めて西東京大会は登板なし。だから、2回戦の奈良大付戦で先発したことに、まず驚いた。

 そんな久しぶりのマウンドで、しかも甲子園という大舞台。それでも井上は「ずっと投げてきました」みたいな日常感を漂わせながら、3イニングを1人のランナーも出さずに4奪三振。これ以上ない形で2番手の河村唯人へとつないだ。

 昨年の秋と比べて、体が変わっていた。ヒジを痛めて投げられない間、きっと走り込んで足腰を鍛えたのだろう。軽く投げているように見えて、145キロ前後。まさに”快腕”である。

 そしてこの夏、最も印象に残った”快腕”が羽黒の篠田怜汰だ。初戦の奈良大付戦で8回2/3を投げて12安打、4失点とほろ苦い甲子園デビューとなったが、随所に大器の片鱗をのぞかせた。

 第一印象は「線が細いなぁ……」ということ。大人顔負けのたくましさを感じさせる投手が多いなか、篠田の体つきはまだ子どもっぽさを残している。表情もあどけなく、一見すると中学生に見えなくもない。

 それがいざマウンドに上がると、140キロ中盤のストレートが両サイドに決まる。フォームに力感はないが、踏み込んだ左足にしっかり体重を乗せながら腕が振れる。その腕の振りが実にしなやかで、無理して投げている感じがまるでない。ゆったりと美しいフォームこそ、豊かな将来性そのものである。

 このほかにも、日大三の廣澤優は準々決勝の龍谷大平安戦で先発し、148キロをマークするなど潜在能力の高さを見せつけ、近江の左腕・林優樹は魔球・チェンジアップを武器に強打者をキリキリ舞いさせた。また、この夏の甲子園出場は果たせなかったが、大船渡の佐々木朗希(ろうき)は岩手県大会で154キロをマーク。注目度の高さは、甲子園に出た選手よりも上かもしれない。

 はたして、来年のドラフトの主役に躍り出るのは誰なのか。ハイレベルな2年生投手の覇権争いから目が離せない。