影響を大きく広げている、EUの一般データ保護規則(GDPR)は、もともとはリターゲティング広告を終わらせるはずであった。だが、5月25日により施行が開始されたいま、リターゲティング広告はいまだ成長を見せている。

施行から2カ月近くが経ったいま、広告エグゼクティブたちの話によると、リターゲティングへの支出は増えているようだ。匿名を条件に英DIGIDAYに語ってくれた3人のエグゼクティブたちは、プロスペクティング(潜在顧客を対象にして配信する広告)キャンペーンに対する支出をブランドたちが減らし、リターゲティング自体は依然として続けていると語った。

プログラマティックにおけるプロスペクティングはリーチとスケールを達成するために通常、サードパーティのデータを利用するが、これが果たして合法に入手されたのか、という点で広告主にとってリスクが高すぎる。その一方で、リターゲティングの場合はGDPRに準拠する安全なビジネスへと支出を移行させたブランドにとっては、確実なエリアとなっているのだ。

インタラクティブ広告協議会(IAB)のコンテンツフレームワークが4月にローンチされたとき、パブリッシャーやメジャーなプレイヤーたちによって広く採用された。そして情報がちゃんと伝えられたときには、ユーザーの大部分がオプトインするという結果を見せた。そのため、リターゲティングに対するGDPRの影響は、業界関係者たちが予測していたよりも小さくなっているのだ。

「データターゲティングとファーストパーティによるリターゲティングが(GDPRの)影響を受けたことは確かだ。オーディエンスの減少率は50%にまで達した。そして、支出もそれに比例して減少している。しかし、これはユーザーたちが新しい利用規約に同意していくにつれて、通常の規模へと復活するだろう」とメ、ディアバイヤーであるザ・セブン・スターズ(the7stars)の戦略部門責任者であるドム・ブラックロック氏は言う。

実際は二人三脚



アドテク企業のアドフォーム(Adform)においてはリターゲティングのレベルは安定しており、先月において大きな減少は無かったと、最高執行責任者であるオリバー・ウィッテン氏は言う。「(減少が起きなかったことは)GDPRが施行される前に多くの企業が準備をし、業界プロトコルを遵守したことが大きな要因だと思う」と、彼は語った。

リターゲティング広告がGDPRの影響下でも生き残っている一方で、プロスペクティングが大幅に消えゆく要因を規則だけに求めるのは不正確だろう。プロスペクティングキャンペーン自体はまだ行われているが、変わったのは彼らがお金と時間をかけてプロスペクティング(潜在顧客をターゲットにする)したオーディエンスに対しては、リターゲットする方が理にかなっていると経験あるプログラマティックマーケターたちが気付いている点だ。そのため表面上ではプログラマティックの予算はプロスペクティングからリターゲティングに移ったように見えるが、実際は二人三脚で動いているというのが実態だ、とウィッテン氏は言う。

「クライアント側で確認できているのは、ファーストパーティのオーディエンスを拡大するためのルックアライク(似た者)モデルの活用だ」と、彼は言った。

GDPRの一番困難な点



リターゲティングのすべてが規則に準拠できているわけでもないだろう。広告業界で働く、すべての人がGDPRにまつわるリスクを分散したいと考えているのが現状だ。プログラマティックにどのような影響を与えるかはまだこれから明らかになるだろう。サードパーティオーディエンスのターゲティングやデータ企業関連のポリシーがブランドを安全に保つための条件を満たすのかどうか、広告主のあいだでは緊張が走っている。

「GDPRの一番困難な点は、我々がコントロールできないところがたくさんあることだ。我々のデータや顧客に関しては確定をしたが、データを独自に集めるあらゆる種類のベンダーたちと、パートナー契約も結んでいる。最終的にサードパーティによってウェブページ上に広告が登場したとして、その広告に対する責任はどこに存在するのか? 私の恐怖は、人々は最終的にはそれは広告主だと考えることだ。それが、私の恐怖だ」と、ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)のメディア部門グローバル責任者であるダン・サルズマン氏は語った。

GDPR施行をめぐるリターゲティングの耐久力は、同意管理プラットフォーム(CMP)を完全に稼働させるために、多くのパブリッシャーによる組織化をさらに進化させるための時間がまだ存在していると、マーケットが気付いていることによって起きている。その一方で、関係する企業はすべて、収益が減らないかどうか心配を抱えている。

「透明性、信頼、そしてブランド安全性にまつわる懸念があるにも関わらず、スケールとコストという点におけるプログラマティックのメリットが勝っているため、予算は引き続き自動化されたバイイングへと移り続けるだろう。GDPRの最初の段階から、プログラマティック活動において最初に減少が生まれた。いまではパブリッシャー、エージェンシー、そしてブランドたちが、マーケットにすぐに何らかの影響が生まれることはないと気づいてきたため、プログラマティックの活動も横ばいになりつつある。関係者は誰しもが、正当な関心を装っている状態だ」と、アドテク企業スマートロジー(Smartology)のCEOであるマーク・ベンブリッジ氏は言った。

Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)