「メスト・エジル通りはこちら」。彼の両親の実家があるトルコのデブレク市では、例の写真を街のシンボルのように飾っている。捉え方はさまざまだ。(C)Getty Images

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 ドイツ代表からの引退を表明した、アーセナルのMFメスト・エジル。事の発端は、ワールドカップ開幕前にロンドンでトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談した際に撮影した複数の写真だ。それが本人の意思とは無関係にトルコ政府によって広く公開された。あたかも政治的意思を込めたものと捉えられ、ファンやメディア、さらにはDFB(ドイツ・サッカー連盟)からも批判を受けたのである。
 
 大会中もバッシングの声は止まず、しまいにエジルは、ドイツ代表がグループリーグで敗退した最大の元凶とまで名指しされた。選手本人は月曜日、ついに重い口を開き、長文の声明をSNSで展開。自身のルーツはトルコにある点、政治的意思など皆無だったこと、一連のメディアやDFBの対応への反論を綴り、そしてなによりも人種差別に対する怒りを滲ませた。そして最後に、代表引退を表明したのだ。
 
 ドイツ国内はこの告発文で揺れに揺れた。賛否両論が飛び交い、代表チームの仲間たちがこぞってサポートの声を上げる一方で、バイエルン会長が辛辣な言葉を浴びせ、DFBが遺憾の意を示すなど騒動はエスカレートしている。ドイツ国内に内在するデリケートな問題でもあるからだ。

 
 そんななか、エルドアン大統領が公の場に姿を見せた。怒り心頭にこう地元メディアにぶちまけたのだ。
 
「このような人種差別的な扱いは受け入れがたい! ドイツ代表のために全身全霊を捧げてきた若者に対してなんたる仕打ちだろうか。イルカイ・ギュンドアン、センク・トスンとともにメスト・エジルは、彼らのルーツであるトルコをリスペクトし、写真に収まっただけなのだ。それ以上のなにがあると言うんだい? まったく腹に据えかねる。だが、確固たるスタンスでメストを支持する政治家たちがいることを忘れないでほしい」
 
 ではなぜ、大統領の政党であるAKP(公正発展党)は例の写真をプロパガンダのように活用したのか、と問いたくもなるが……。
 
 いずれにせよ、エルドアン大統領の再登場によって、事態はもうひと波乱もふた波乱もありそうな気配だ。