イオンは豚バラ肉やナマズを使用したかば焼き商品の販売に力を入れている(写真:イオン

GMS(総合スーパー)や食品スーパーの店頭では、7月20日と8月1日の「土用の丑(うし)の日」に向けて、ウナギの販売が本格化している。今年の特徴は、“ウナギ以外”のかば焼き商品が一段と増えていることだ。

GMS最大手のイオンは、ナマズや骨取りサバ、そして豚バラ肉を使用したかば焼きをウナギの代替商品として投入した。これらの一部は昨年からNB(ナショナルブランド)で販売していたが、今年は主にPB(プライベートブランド)の「トップバリュ」として開発し、本格的に展開している。

完全養殖が確立していないウナギ

こうしたウナギの代替商品は需要が増加傾向にあり、イオンでは昨年の関連商品売り上げが、前年比2ケタ増だった。イオンリテールの松本金蔵・水産商品部長は「(今年も)同程度の伸びを目指す」と意気込む。都内のあるイオン店舗の食品売り場で骨取りサバのかば焼きの試食販売を行っていた女性スタッフは、「新しい味や食感を楽しめるので、『食卓の献立バリエーションが増えますよ』と顧客に提案している」と話す。

セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂も、サンマや豚肉、イワシといった代替商品を特設コーナーで積極的に展開。埼玉を地盤とする食品スーパーのヤオコーも、昨年からアナゴやサンマのかば焼きを販売していたが、今年はサバの照り焼きを代替品として新たにラインナップに加えた。「ウナギが苦手な顧客もいる。加えて、最近は代替需要が増えているので、そういったニーズに今後も対応していきたい」(ヤオコーの広報担当者)。

スーパー各社がウナギ代替商品の品ぞろえを強化する背景には、ウナギの生産量が急減している事情がある。

ウナギは生態がほとんど解明されておらず、卵を産ませて育てるといった完全養殖による量産方法が確立されていない。そのため、毎年冬から春にかけて稚魚であるシラスウナギを捕獲して成魚に育てるしかない。日本で生産されるほとんどがニホンウナギという種で、90%以上が養殖物だ。

昨今の乱獲などが原因で、ニホンウナギの稚魚採補量は減少傾向が続いている。今年日本で養殖場に供給された稚魚の量は輸入も含めて約14トンと、2013年以来の少なさだった。こういった要因から、2000年ごろには年間約16万トンだったニホンウナギの国内供給量は、最近は年間5万トンの水準にまで落ち込んでいる。

GMSや食品スーパーは、これまで主に扱ってきた二ホンウナギの生産量が減少している影響をまともに受けている。イオンでは、ウナギの販売量は2001年をピークに下降線をたどる。足元ではピーク時の約10分の1にまで減少した。 

資源保護や安定調達に乗り出す

輸入物に頼ろうにも、二ホンウナギだけでなく、中国で養殖が増えているアメリカウナギも、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されている。IUCNの指定には法的拘束力はないものの、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約が保護対象の参考にしている。すでに同条約によりEU(欧州連合)が輸出入を禁止しているヨーロッパウナギと同様に、ニホンウナギやアメリカウナギの国際取引を規制する動きが、今後いっそう強まる可能性もある。


6月下旬、イオンの店舗ではサバのかば焼きの試食販売が行われていた(記者撮影)

イオンは目下、2012年に販売を開始し、現在販売量の約30%を占めているインドネシアウナギ(ビカーラ種)の取り扱いを増やすことで対応している。インドネシアウナギは二ホンウナギと見た目がほぼ変わらず価格も割安だ。ただ、IUCNが準絶滅危惧種に指定していることから、むやみに販売量を増やしていくわけにはいかない。
 
こうした危機的な状況を受け、イオンは代替品の開発強化だけでなく、ウナギの資源保護や安定調達に向けた取り組みも本格化する。

販売するウナギの種類は、今年から二ホンウナギとインドネシアウナギに限定。そのうえで、インドネシアウナギについては、絶滅させないためのプロジェクトを推進する。世界自然保護基金(WWF)ジャパンやインドネシアの大手養殖事業者と連携し、稚魚を取りすぎないように、環境に配慮しながら安定調達するための資源管理計画を策定する。


ニホンウナギの深刻な不漁で、販売価格の高騰が懸念される(写真:ささざわ / PIXTA)

二ホンウナギについてはトレーサビリティ(生産履歴の追跡可能性)確保を徹底する。イオンは現在、養殖池に入れた後のウナギについてはトレースしているが、生態が不明瞭で、かつ流通経路が極めて複雑な稚魚まではトレースできていなかった。

WWFジャパンなどとの共同によるインドネシアウナギの保全プロジェクトで得るノウハウを稚魚のトレースにも応用する構えで、2023年までに100%トレースできるウナギのみを扱えるようにすることを目指す。イオンの三宅香執行役は「日本のウナギ文化をいかに守っていくのかが、企業にとって重要だ」と強調する。

求められる他社との連携

ただ、一連の取り組みを効果として発現させるためには、数多くの課題がある。WWFジャパンの山内愛子氏はインドネシアウナギの保全プロジェクトについて、「ウナギは、供給持続の可能性を探るのが最も難しい種の1つ。生態が不明なだけでなく、漁業者も零細企業が多くて実態がつかみづらい」と話す。

イオンリテールの水産商品部担当者も「二ホンウナギに代わる種として期待するインドネシアウナギを保全していくが、それでも全体に占める約30%の販売量を維持していくのがやっとではないか」と吐露する。

稚魚についても、イオンの1社だけでは到底実態をつかめないため、他社との連携が求められるが、具体的な提携先は現時点では決まっていない。日本人が好むウナギを食する文化を維持していく取り組みに期待が高まるが、危機的状況を打開するまでの道のりは容易ではなさそうだ。