写真=iStock.com/kuppa_rock

写真拡大

「かれこれ21年間、昼食を食べない生活を続けているが、メリットばかり」。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はそういう。昼休みを取らなければ、エレベーターの混雑や入店待ちの行列にイラつくことはない。うわさ話や説教に付き合わされることもなく、昼休みの静かなオフィスで業務に集中できる。しかも健康管理にも有用。そんなメリットばかりの「1日2食」のすすめとは──。

■昼食なんていらない

私には社会人1年目から21年間ほど続けている習慣があり、これがいかに人生にとって有益だったかとしみじみ感じている。それは「昼食を食べない」という習慣である。

もともと「摂取したカロリーよりも消費カロリーが多ければ太らない」というダイエットにおける大原則は強く意識していた。そして当たり前のことだが「食べ物の摂取量を減らせば、消費しなければならないカロリー量が少なくて済む」とも考えていた。それを実践するもっとも手っ取り早い方法が「一食抜く」だった。開始してすぐ「こりゃいいわ」と思うに至り、結局、昼食ナシ人生を21年も続けている。

この習慣を長期間継続できたのは、「太りたくない」という気持ちがあったことに加え、「腹が減っていなかったら、わざわざ食べる必要はない」ということを理解したからである。

入社1年目のとある春の日。朝食を9時に食べた後、昼休みの12時に同僚からランチに誘われた。しかし、朝食からまだ3時間しかたっていないため、腹が減っていないので断った。「新入社員のくせに、先輩からの誘いを断るなんて生意気だ」と思われたかもしれない。とはいえ腹が減っていないどころか、まだ朝食を完全に消化しきれていないような状態では、食べ物をさらに胃袋へ追加する気になどなれるわけもない。

■昼休みの静かな職場で仕事がはかどる

結局、その日は昼休み中も仕事を続けたのだが、余計な電話に追い立てられることもなく、静かな環境で作業を進めることができた。当時はまだ「電話文化」が色濃かった時代であり、ビジネスアワーのオフィスには電話がジャンジャンかかっていた。新入社員である私は半ば電話番のような役割もあり、電話の取り次ぎに多くの時間を取られていた。

でも、ビジネスの現場には「基本的に昼休みには取引先に電話をかけない」といった暗黙の了解があるので、12時から13時ごろの時間帯にはあまり電話が鳴らなかった。すると仕事が大変はかどるのである。

さすがに15時あたりになると腹が減ってきたが、あめ玉をなめたら空腹感は抑えられたような気がした。そうして19時におなかペコペコの状態でおいしく夕食を食べることができた。9時の朝食から夕食までの10時間、あめ玉以外の食べ物はこれといって摂取していない。そして思った。「別に昼食っていらないじゃん」と。

■「1日2食」の恩恵

ほぼ強制的にとらなければならない学校給食の時代も含め、それまで23年間、朝・昼・晩と3回食べることを受け入れていたのだが、朝・晩の2回でも別に問題はないことに気付いたのである。1回食事を減らせばそのぶんカネは浮くし、同行者と余計なうわさ話などに興じる必要もなくなる。しかも昼時のオフィスに残れば、静かな環境で一人ぼっちで仕事ができるのだ。昼休みで大混雑するエレベーター絡みのストレスも避けられる。

ここから私は「一日2食」にすることを決めた。その後もランチに誘われることはあったが、何度か断っているうちに「中川は昼ご飯を食べない人」という認識を周囲に持ってもらえるようになった。だから日常的に誘われることはほぼなくなったのだが、大事なプレゼンを前にして相談事があるときや、「失恋したので愚痴を聞いてほしい」なんてときには声をかけられることもあった。

そんなランチの誘いが当日前にあった際は朝食を抜くようにし、12時ではなく11時30分くらいに行くようお願いをした。たかが30分とはいえ、朝からずっと空腹状態で過ごすのはキツかったからだ。

会社に所属していた頃は「○月×日にランチしよう」と約束を交わした場合を除き、ほとんど昼ご飯を食べなかった。会社を4年で辞めてからは個人の裁量で時間を使えるようになったため、一切昼ご飯は食べなくなった。

■昼時のオフィス街で見かける残念な光景

現在、ランチの時間にオフィス街に行くと、サラリーマンの上司部下が連れ立って店を探している様子をみかける。先日、印象に残ったのは、「ウオッホン、ワシは役員じゃ」風の胸を反り返らしたデブのオッサンが、いかにも出世から遠そうな子分らしいオッサンと店頭メニューを眺めながら、その店に入るかどうかを検討している様子だ。想像するに、このときの会話はこんな感じなのだろう。

役員風:マァッ、コノー、今日は肉か魚かでいえば、肉かな。この店には親子丼もあれば、カツ丼もあるしな。うん、この小鉢にヒジキが入っているのもいいねー。

子分風:ハハーッ、常務、私も今日は肉の気分であります。

役員風:ふむ、今日はやはり、天丼よりも親子丼かカツ丼の気分だなァ。オッ、しかも親子丼は名古屋コーチンを使っていて、カツ丼のカツは鹿児島の黒豚かッ! な、なぬ! カツ丼のつゆのダシは枕崎のカツオを使っておると! いやぁ、今日はカツ丼しかないな!

子分風:ハイッ、小生もカツ丼が食べたくなりました!(チッ、本当は刺し身が食いたかったのに……)

■昼メシは「楽しみ」にも「苦痛」にもなる

そんな調子で入店しても、子分風の男はずっと気をつかい続けるだけで、店内にいる時間も楽しくないだろう。アクの強そうな上司とそれに付き従う従順そうな部下、なんてグループを昼時のオフィス街で見るにつけ、「自分は昼メシを食わない人間になれてよかった」とつくづく思う。昼食がサラリーマンにとってどんな存在なのかについては、漫画『美味しんぼ』3巻に掲載されている『昼メシの効果』というエピソードで富井副部長がこう述べている。

「昼メシというのはサラリーマンにとって最大の楽しみであると同時に、苦しみでもありますな。食べるのは楽しいが、その日その日の気分と体調に合わせて、何を食べるか選ぶのが一仕事だし、お目当ての店に来ても満席で入れなかったりもするし……」

昼食が「サラリーマンにとって最大の楽しみ」などといえるのは、人間関係がよい職場限定の話だろう。人間関係が一概によくない職場にいた場合、「最大の楽しみ」とはならない。本来、昼休みはその名の通り、休んでリラックスするための時間である。にもかかわらず、説教をされたり、嫌いなものを食べさせられたりしてしまう。そんな苦痛をもたらすこともあるのが、昼食のひとときなのだ。

「断捨離」という言葉もあるように、人生において無駄なことはどんどん捨てていくほうが、生きるのはラクになる。面倒なだけの人間関係、勢いでそろえてしまい“場所ふさぎ”になってしまった家具、買い過ぎて置き場のない趣味のプラモデルやらフィギュア、もう二度と読まないであろう本などは容赦なく捨てていいわけだが、同様に「昼メシ」というものも、人生から排除してしまって何ら問題ない。実際、自分はそれで21年間やってきたし、多分これからも一生昼メシは食べないと思う。旅行のときでさえ、昼メシは絶対に食べない。

■周囲の人々には諦めてもらう

人生で非常に重要なのは、周囲から「あの人は○○な人」というレッテルを貼られ、諦めてもらうことである。レッテルというとネガティブなイメージもあるかもしれないが、周囲から寄せられる「無駄な期待感」を排除できるという利点がある。

「あの人は遅刻をする人。だからもう、自分たちだけで会議を進めてしまい、決まったことを事後報告すればいいよ。別にそれで文句を言われるわけでもないし」「あの人はいつも『お金がない』と誘いを断る人。たまに来ても『高い』と嫌みばかり。だから誘わないでいいよ」「あの人はとにかく趣味に没頭する人。だから週末に声をかけるのはやめておこうよ」──こんな感じで、自分も周囲も幸せになれる選択ができるのである。

私の場合は「中川は昼ご飯を食べない人」というレッテルを貼ってもらえたため、ランチの誘いがなく非常に快適である。一方で酒を飲むのは好きなため、「中川は飲み屋で酒を入れながら打ち合わせをする人」というレッテルが貼られており、打ち合わせは大抵17時以降、渋谷の居酒屋でやることとなる。これが自分にとっては実に心地よい。

■昼休みを取らない社員には遅刻・早退を許す

「昼ご飯を食べない」という選択をしたことで、心の平穏とスムーズな仕事の進行がもたらされた。それに加えて、1日2食生活により、体形がまったく変わらないという副次的な恩恵にもあずかっている。この15年ほど身長168cmで体重53〜54.5kgを維持しており、肝臓の数値を除けば完全に健康である。

ここからは若干妄想も入ってくるが、たとえば「昼食を食べない」「昼休みはいらない」と宣言をした社員については、1時間出社を遅らせるか、1時間早く退社できる制度を導入してはいかがだろうか。

ほとんどの会社には一応「昼休み」の時間が設定されている。それを忠実に守っているかはさておき、12時から13時にかけては「仕事をしない時間」ということになっている。この時間も業務を継続するのであれば、1時間の遅刻か1時間の早退を許すのである。

労働に詳しい法律家や研究者は「1時間の休みはナントカカントカ協定に書かれている」などと主張するかもしれない。そんな決まりがあるのであれば、撤廃してしまえばいい。

----------

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・昼食をとらず、昼休みを挟まなくなったことで、自分のペースで効率よく仕事を進められるようになった。ダイエットに悩まされることもなく、健康体を維持できている。
・サラリーマンにとって、昼食は楽しみや憩いになる一方で、ストレスや悩みのタネにもなる。「昼食を食べない自由」があってもいい。
・「この人は○○な人」というレッテルを貼ってもらい、諦めてもらうと人生がラクになる。
・昼休みを取らない社員には、1時間の遅刻もしくは早退を許す制度を導入してはどうか。

----------

----------

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

----------

(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)