バラエティプロデューサーの角田陽一郎さん

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「開運の仕組みは論理的に説明できる」。バラエティプロデューサーの角田陽一郎氏は、「運がつきまくっている人」を長年みてきた経験からそういいます。今回ご紹介するのは明石家さんまさんの例。角田氏は、明石家さんまさんの車にカーナビがついていないことに気づき、その理由をたずねると、運に恵まれる人らしい回答をしたといいます。その内容とは――。(第1回)

※本稿は、角田陽一郎『運の技術 AI時代を生きる僕たちに必要なたった1つの武器』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

■開運の仕組みは、論理的に説明できる

突然ですが皆さん、運、特に「開運」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

神社、神様、スピリチュアル……。なかには、「いかがわしい、うさんくさい、非科学的だ」と拒絶反応を示す人もいるでしょう。

おそらく、皆さんが思っている「開運」と、僕の考える「開運」の定義は少し違います。

僕は「開運」の仕組みは論理的に説明できる、と考えています。

運とは、他人や外部環境を“利用”しながら、自分で“切り開くもの”です。

自分ひとりだけでがむしゃらに頑張って手に入れるものでもなければ、完全な他力本願・完全な神頼みで手に入れるものでもありません。

たとえば、神社に行ってお参りするという行為、これも論理的に説明できます。もうご存じの方も多いかもしれませんが、神社でやることは「お願いする」、ではなく「プレゼンする」が正解。

実際僕は、箱根の芦ノ湖畔にある九頭龍神社という運気が上がることで知られる神社に参拝してプレゼンし、いろいろな願いを叶えてきました。

■目的達成のために脳を徹底的にチューニングする

九頭龍神社では毎月13日に「月次祭」という神事が行われるのですが、そこに何度も通っていたのです。

神社に参拝したら願いが叶うだなんて、と思っている人もいるでしょう。

でも、よく考えてみてください。毎月わざわざ芦ノ湖畔に通うのは大変です。月次祭は朝10時から行われるのですが、参拝するにはフェリーに乗らねばならず、その乗船券を買うためには、朝9時頃には芦ノ湖畔に着いていなければなりません。東京から出発するなら、結構な早起きを強いられます。

当日、半日はアポを入れられませんし、交通費もかかります。願いを叶えたいという思いの強さをキープしていないと、そんな面倒なことを毎月なんてできません。

また、九頭龍神社の月次祭では、祝詞が奏上されている数十分間、参列者のなかで、僕はずっと頭を垂れて神様にプレゼンをしています。つまり僕は、毎月のように自分の願いが叶うために、これからすべきことや具体的なビジョンを、正確かつ具体的に脳内にイメージしていたのです。普段の生活で、目を閉じて数十分もの長い間、何かをプレゼンし続けるなんてこと、ありませんよね。

僕は九頭龍神社に毎月行くことで、具体的な行動指針を毎月のように確認・反芻していました。結果、(普段から)僕の脳は目的達成のための仕様に徹底的にチューニングされていきました。そうしてあらゆる願いを叶えてきたのです。

■売れっ子は運を引き寄せる仕組みを持っている

繰り返しますが、「開運」の仕組みは論理的に説明できます。

これは、僕がTVの仕事でたくさんの「運がつきまくっている」芸能人や文化人を、長年にわたって見てきた結論です。

売れっ子である彼らの言動や思想には、意識的にせよ、無意識的にせよ、運を引き寄せる理屈や仕組みが内包されており、そこから学ぶべきことがたくさんあります。

この連載では、そんな彼らが実践している運を引き寄せる仕組みを紹介していこうと思っています。第1回は僕が尊敬する明石家さんまさんの話です。

■「めちゃくちゃいい人だけど、めちゃくちゃ恐い」

さんまさんとは出会ってからかれこれ25年になります。そのためか僕はよく、人から「さんまさんって恐い人ですか」と聞かれるのですが、そういう時には「めちゃくちゃいい人だけど、めちゃくちゃ恐い」と答えるようにしています。

いい人であることに説明は要りませんね。では、なぜ恐いのか。それは、ご自分の名前で番組を背負っているからです。

さんまさんは1992年から2014年まで、TBSの『さんまのSUPERからくりTV』(初期は『さんまのからくりTV』というタイトル)という番組をやられていましたが、もし「『さんまのSUPERからくりTV』がつまらない」となると、「さんまさん自身がつまらない」ことになってしまいます。自分がMCの番組をやる、つまり番組を背負うのは、他の番組にゲスト出演する時とはわけが違う。だから番組作りにはものすごく厳しく、その厳しさが時に「恐い」という印象を周囲に抱かせるのです。

自分の名前で勝負しているから、あらゆる瞬間に必死。当然、番組への理解力もコミット力も半端ない。それがおろそかになったが最後、番組がつまらなくなり、自分の名前に傷がつく。

さんまさんは、そんな危機感から番組作りに厳しくなり、同時にそうすることでご自分の運も上げ続けています。

■自分の名前で勝負するからこそ運が開く

つまり、「運を上げる」とは「自分の名前で勝負すること」。それは、あらゆる物事を「自分ごと化する」ことと同義です。

僕は、世の中で一番時間を守らないのは普通のサラリーマンだと思っています。僕にも経験がありますが、たとえば取引先との会議。前々から朝10時からだと決まっているにもかかわらず、「ちょっと別件で部長は遅れておりまして」「担当がちょっと風邪で来られません」などと、悪びれもせず言われたりします。

タレントさんだったら、「ちょっと別件」や「ちょっと風邪」で来ないなんてことは、絶対にありません。よく番組などでタレントの遅刻がネタになっていますが、実は芸能界ほど時間を守る業界はありません。なぜならタレントたちは皆、自分の名前で勝負しているからです。

■「大人の事情で」と言い訳する人は、会社名に甘えている

一回でも遅刻をすれば評判は落ちますし、多くのスタッフに迷惑がかかる。本当に仕事にならないのです。

サラリーマンが遅刻するのは、自分の名前で仕事をしていないから。名刺に刷られている会社名に甘えて仕事をしているだけです。

この甘えは、相手に無理を押し付けざるをえない時の一言にも現れます。

「すみません、こっちも仕事なんで」「一応、そういう決まりでして」と言う人はどこか責任を所属組織のせいにしていて、自分の名前で仕事をしていません。若い人が「偉い大人の事情で……」などと言って、何かができないことを言い訳するのも同じです。

自分の名前で仕事をしていれば、「僕の顔に免じて許してください」という言葉が出てくるはず。

自分の名前で勝負をしていないうちは、運が開きません。会社にしても自分の名前で仕事をしている人には運が訪れますし、芸能界でも事務所の権威を振りかざして仕事をしている人からは、運が逃げていくのです。

■「俺、迷いたいねん」

運という文脈でさんまさんの話をするならば、こんなこともありました。

以前僕は、さんまさんがご自分で現場まで運転する車にカーナビがついていないのに気づいて、聞いてみたことがあります。

「カーナビ、つけてないんですか」

「俺、迷いたいねん」

「?」

「お前、人生も一緒やで。そんなカーナビに指図されたとおりに行っても、おもろないやろ。現場まで行きたいのに行けない、どう行くねんって迷う。恋愛も一緒やで。人生も恋愛も俺、迷いたいねん」

でも、そんなさんまさんを見ていても、人生に迷っているようには見えません。

僕は、ここに真実があると思います。

■計画に執着しすぎると、運は逃げてしまう

みんな迷うことで困っているけれど、ひとたび「むしろ迷いたい」と願った瞬間に、いろんな迷いが消えていく……。

人生、なにごとも予定通りにはいきません。たとえば、交際相手に求める条件を細かく設定して「こういう人じゃないとダメなの!」とかたくなに譲らない人ほど、結婚相手が見つからないのと同じで、もともとの計画に執着しすぎると、運は逃げてしまうのです。

迷っているから迷いが消える。

これも運を開くテクニックのひとつだと、僕は思います。

ただし、この話には後日談があります。さんまさん、かっこいいなと思ってたら、その半年後くらいに車を買い替えられまして。その車にはしっかりカーナビがついていました。しかも、僕にしてくれた「迷いたいねん」の話すら忘れていたという。それがまた、さんまさんっぽいんですが。

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角田陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。

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(バラエティプロデューサー 角田 陽一郎 写真=iStock.com)