ぺヤングには熱烈なファン「ぺヤンガー」が存在する。(時事通信フォト=写真)

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■2014〜15年の「異物混入事件」で発生した違い

2014〜15年のほぼ同時期に、日本マクドナルドと「ペヤングソースやきそば」の製造元・まるか食品で、異物混入事件が起きました。どちらも大きな問題になりましたが、消費者の反応は対照的でした。

マクドナルドに対しては、「2度と食べない」「もう信じない」という声が多く、この事件の影響で15年12月期の決算では、347億円という過去最大の赤字を計上しました。一方、まるか食品側には「頑張って」「復活を待ってる」といった好意的な反応も見られ、半年の自粛期間を経て関東地方で販売を再開すると、注文量は予想の2〜3倍に上りました。

なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか。もちろん、事件発覚後の両社の対応の違いが影響したといわれていますが、無視できないのはブランドを応援するコアなファンの存在です。

ペヤングには、「ペヤンガー」という熱烈なファンが存在し、販売自粛中は「ペヤングを応援するスレ」「ペヤング応援歌」などが登場したほか、オークションサイトで商品の高額取引が行われたりもしました。また独自のアレンジで、より美味しい食べ方を追求するペヤンガーも存在します。まるか食品もファンのこうした動きに呼応し、新たな変わり種味の商品を提供し続けるようなやりとりが見られます。

■商品購入だけでなく「応援」をするファンの存在

このように昨今、好きなブランドを応援する消費者の動きが現れています。ここで言う「応援」とは、単に好きな商品を購入し続けるだけではなく、より主体的・創造的なファン行動のことを指します。

具体的には、SNSやファンブログなどを通じた称賛・推奨行動、ボランティアやアフィリエートなどによる代行・協力行動、新用途発見やカスタマイズなどの提案・開発行動、クラウドファンディングに代表される寄付・供与行動などです。

例えば、関東地方で約200店の飲食チェーンを展開する山田うどんのファンが、「山田うどん祭」というイベントを自主的に開催して話題になりました。また、ツイッターのフォロワーからの提案がきっかけで、タニタと人気アニメ「TIGER&BUNNY」のコラボ商品が実現しています。アイドルグループSMAPが解散する前に、ファンの間で起きたCD購入行動や新聞広告も、応援行動と言えます。

ブランド応援行動が活発になった背景には、ネット社会の進展、消費文化の成熟、社会的・利他的消費意識の台頭などがあります。大量の情報洪水の中、自分の嗜好を一点集中的に絞り込み、その対象に直接意思表示をする人が増えています。SNSの浸透は、マイナーな嗜好を持つ人同士の結束を可能にしました。さらに、震災が相互支援意識を高めてボランタリー経済を活発にしたり、相次ぐ企業不祥事が、高い倫理を持つ企業への評価を高める方向に消費者の意識を向けたりした面もあるでしょう。

■応援行為がブランド活性化のきっかけになる

顧客からの応援は、企業にとって3つのメリットがあると考えられます。1つめはマーケティング効果です。広告宣伝効果はもちろんのこと、再購買や市場創造などにもつながります。

2つめは経営心理効果です。特に製造業の場合、消費者の声を直接聞くことは思ったほど少なく、それだけに応援の声が届くことは、社員のモチベーションアップにつながります。

そして3つめは文化的効果です。例えば、岩手県花巻市のマルカンデパートの6階にあった大食堂は、長い間地域に愛されてきましたが、建物の老朽化と耐震性の問題により、16年6月に閉店しました。しかし、地元の人たちの寄付やボランティアなどのさまざまな応援により、17年2月に復活を果たしました。このように応援行為は、文化としてのブランドを保持・活性化させるきっかけにもなります。企業にとっては、目先の利益だけではなく、より長期的なメリットにもつながるといえましょう。

ただし応援といってもさまざまなタイプがあります。多数のケースを眺めた結果、次の5類型に分類できました。

(1)崇拝型ブランド
ブランドに対する憧れや尊敬などの気持ちから応援されているタイプ。トップランナーとして、他者の追随を許さない孤高の姿勢にファンは魅了されます。
〈例〉マッキントッシュやアイフォーンなどを生んだ「アップル」、オートキャンプ市場を牽引した「スノーピーク」など。

(2)愛着型ブランド
「昔からの付き合い」「幼い頃・若い頃の思い出」「地元」「馴染み」だからといった理由で応援されるタイプ。
〈例〉崎陽軒が1954年に横浜駅構内で販売を始め、変わらないスタイルで横浜名物となっている「シウマイ弁当」、ポーターの「吉田カバン」など。

(3)同志型ブランド
既存の業界秩序や利権構造にアンチを唱え、それらと果敢に戦う姿勢が共感を得るタイプ。
〈例〉徹底したカスタマーファーストの姿勢により地域で圧倒的な支持を集める長野市の「中央タクシー」、倒産・廃業の相次ぐ日本人形業界で、オリジナリティの高い雛人形を製造販売し、高い人気を誇る「ふらここ」など。

(4)共観型ブランド
企業と顧客が同一の世界観を共有し、「一緒に楽しむ」ことでファンを拡大させるタイプ。
〈例〉ユニークな名称やデモ営業で人気を博す「筑水キャニコム」など。

(5)賛助型ブランド
光る要素はあるが未完成であり、脆弱であるがゆえに応援されるタイプ。
〈例〉独特の個性を持った番組づくりで躍進する「テレビ東京」、多数のオーナーバーテンダーたちの支援によって、秩父産のウイスキーを造り、世界最高賞を受賞した「ベンチャーウイスキー」など。

■「高く」「狭く」「熱く」売る意味とは

こうした応援されるブランドとなるためには、どんなことに取り組むべきでしょうか。事例を見る限り、次のような4要素が大切だと思われます。

(1)社会課題ドメイン
自社が取り組むべき社会課題とは何か、そのテーマや対象、エリア、期間などをはっきりと定義し、内外に宣言することです。例えば、バングラデシュに工場をつくり、現地のスタッフが生産したバッグなどの製品を販売する「マザーハウス」は、途上国の貧困問題を解決するという明確な社会課題ドメインを持っています。だからこそ顧客から応援されるのです。

(2)価値競争
「価格」ではなく「価値」の競争の視点が必要です。ポイントは、「高く」「狭く」「熱く」売ること。既存のジャンルの中で商品を開発するのではなく、自らジャンルを創造したり、モノづくりからコトづくりへ、工業製品から工芸製品へ、といった活動をしたりすることで、価値満足度を高めます。

(3)内部ブランディング
ブランディングというと、外部に対する働きかけを考えがちですが、重要なのは内部のブランディングです。スノーピークの山井太社長は、マーケティングリサーチの結果ではなく、自分の内なる声を信じることが大事だと述べています。社員をファーストユーザーとして位置づけ、ブランドを体現する社員を育てることもポイントです。

(4)ブランドコミュニティ
顧客が、インセンティブではなく、知的興味や仲間づくりなどの自発的な動機から参加する組織が存在します。形態は、SNSのフォロワーから友の会までさまざまです。マーケティング効果だけを意識せず、参加者に自己表現の機会を与えることがポイントです。

従来のマーケティングとは、企業からの市場への働きかけを指しました。しかし今日では、応援というマーケティング行為の主体はファンにあります。企業側はむしろ、受動的で行動を誘発するような姿勢が重要となります。

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山川 悟(やまかわ・さとる)
東京富士大学経営学部教授
広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わる。専門はマーケティング論、創造性開発、コンテンツビジネス論。近著に『応援される会社 熱いファンがつく仕組みづくり』(共著)。

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(東京富士大学経営学部教授 山川 悟 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)