三池崇史監督

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 作家・東野圭吾さんの同名小説を映画化した「ラプラスの魔女」(5月4日公開)。同作は、温泉地で起きた殺人事件について意見を求められた青江修介教授(櫻井翔さん)が、調査中に知り合った羽原円華(広瀬すずさん)と真相に迫っていくミステリー映画です。オトナンサー編集部では、同作の三池崇史監督にインタビューを実施。東野作品を撮るプレッシャーや原作の面白さ、原作ものを実写化する醍醐味などを聞きました。

東野圭吾さんは「すごい人の極地」

Q.同作はオファーだったのでしょうか。

三池監督(以下敬称略)「基本全部オファーです。僕が持っていく映画企画は断られます(笑)」

Q.原作のどのようなところに興味を持たれましたか。

三池「東野さんの存在そのものが面白く、東野作品を映画化できることが冒険で楽しかったです。全作品を読んでいるわけではないですが、同じ映画業界にいながらちょっと作風の違う人たちが作っているような感覚です。ただそれは、東野さんが自由にしていこうとしているからかもしれません。次の位置を模索している、ということかもしれません」

Q.原作ものを監督する時に面白いこと、ワクワクすることはどんなことですか。

三池「リスペクトできない作品を監督することは大変だと思います。自分にとっては作品もさることながら、東野圭吾という作家性も含めて発信速度や才能はすごいと心から思います。監督という立場から考えると、どんな原作でもどんな原作者でも魅力はあります。欠点を指摘してしまえば、多くの人は悪いところが見えるんですよ。でもせっかく1800円払っているんだから、良いところを見つければいいのにと思います。それが映画を見れば見るほど悪いところだけが見えてくる。それって悲しいじゃないですか。僕が映画化させていただく作品は、本当に情熱をかけて描き切って世の中に出していらっしゃる、すごいと思える人ばかり。東野さんはその極致だと思います」

Q.櫻井翔さんとは「ヤッターマン」以来のお仕事となりますが、久しぶりのお仕事はいかがでしたか。

三池「仲間だなと思いました。10年前に1度仕事しただけなのに、その時に彼が演じたガンちゃんが大好きなんですよ。どうしようもなく無責任だけど、根拠のない熱さがあり、でも粘りがあるかと言われれば、ない。観客にとっては理想的な人間です。それを演じている櫻井翔は、僕にとってはガンちゃんそのもの。厳密に言うと小学校6年生くらいの役なんですよね。それを平気でやっちゃって、無邪気に映画を作る楽しみを共有した仲間。僕の中では櫻井ではなく、『櫻井を演じているガンちゃん』です。だから10年ぶりという感覚はありませんでした。今後も監督をやっていれば、また一緒にする機会は必ずやって来ると思います。そういう意識も強くはないのですが、時間の流れというか、空白の時間を感じない再会でした。それは彼が変わってないというか、すり減っていないというか、生意気になっていないというか。謙虚さを持ち続けている、櫻井翔という人間性に比重があるからだと思います。向こうにとっては10年ぶりですが、常に映画を作ってるイメージらしいです」

Q.広瀬すずさんとは初仕事ですよね。

三池「初めてです。芯(しん)の強い女優という印象でした。でも、その芯の強さをむき出しにするのではなく自分に向けていて、あの年齢で肝が据わっているというか、すごいなと感心します。現場でやり取りしている表情と本番の表情はギャップがないです。上っ面ではなく、自分自身を役にぶつけている覚悟を感じます。本人にその自覚があるかどうかはわかりませんが、周りがそう感じてしまいます。僕ら世代は、彼女に夏目雅子さんのような雰囲気を感じます。ピュアな目をずっと持ち続けることはできませんよね。この感じは今だから出せる『今だよね』という大事な一瞬をカメラマンも押さえています。はかなさ中に強さを感じて、なかなかあの世代で感じさせる人はいません」

Q.現場ではどんなことを話されましたか。

三池「現場では話さないです。話していると『こいつバカじゃないの?』と思われるので(笑)こっちも期待しているのは人間性ではなく、演技ですし。リスペクトしています。盲目的に素晴らしいと思い込めるかどうかが大事です。向こうも監督に対してもそうだろうし。自分とは考え方が違うけど、監督の言う通りにしてみるのもいいかもしれないと、失敗を恐れず、飛び込んでもらうことがこの仕事には必要です。豊富な知識があり、気の利いたことが言えるのは話芸ですよね。『今みたいな仕事をしていたら疲れるだろう』と聞いたら『うん』と予想通りの答えが返ってきました。話したのはそれくらいです」

Q.福士蒼汰さんとは「無限の住人」から3度目のお仕事ですね。信頼関係は築かれていたのでしょうか。

三池「信頼というよりも、別に向こうもこっちも完成したものではないので一緒に面白いことをやっていけるといいなという感じです。そういう意味ではイーブンです。若い分、彼のほうが可能性があります。撮影中、ドキッとした表情を見せてくれるし、一番難しい孤独な立場にいる役柄でした。主役って、いろいろなものを背負わなければいけません。主役をやることだけが役者の価値ではありませんが、その立場にいられること自体がすごいですよね。ナイーブで感受性が強く、頭がいい奴なんですよね。今人気があるからその場にいるというのが、今の役者たちの使われ方で存在意義になっています。福士蒼汰はこれからだと僕自身が感じています。3本やっている中で、役者としての力はすごく変わりました。彼はこのペースで変わり続けると思います」

 映画「ラプラスの魔女」は5月4日から全国公開。