「面倒見がよい大学」ランキングTOP10

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「面倒見がよい大学」で13年連続トップの金沢工業大学 (撮影:尾形文繁)

今年のセンター試験は、5教科7科目の平均点が昨年並みに落ち着き、国公立大学入試は大きな混乱はなかった。それに比べ私立大学は、今年も出願が好調だ。大学通信の集計では、主要100大学について志願者数を調べてみたところ、現段階で昨年と比較して、およそ8%も増えている。今年は高校卒業見込者が昨年に比べて約1万4千人、約1.3%減少しているにもかかわらず、この数字になっている。


早稲田大学、上智大学、明治大学、立教大学、中央大学、青山学院大学などの難関大学が志願者を増やしている。法政大は昨年、志願者数が過去最高を記録したが、今年はさらに増えた。出願を締め切っていない大学もかなりあるが、すでに昨年を上回っているところが多い。難関大で志願者が減ったのは慶應義塾大学ぐらいだ。昨年、志願者トップだった近畿大学も現在のところ昨年比マイナスだが、13万人を超えトップに立っている。今年も昨年に続き、6校が10万人超だから、私立大人気の高さがうかがえる。

文系私大の志願者数が増えている背景

なぜこんなに志願者数が増えているのか。1つの理由は、今年の入試でも文系人気が高く、理系人気が低い、“文高理低”の学部人気が続いているからだろう。

経済、経営、社会学部など、昨年人気だった学部は今年も人気だ。文系学部は国公立大より私立大のほうに多く設置され定員も多い。昼間部で比較すると、国公立大に経済学部は31校に設置されているが、私立大には91校にある。経営学部は国公立大では5校にしか設置されておらず、私立大には79校にある。

社会学部は、国立の一橋大学にしか設置されていないものの、私立大は20校にある。私立大は国公立大の3.4倍も校数があるが、人気の社会科学系学部は私立大学にたくさんあることがわかる。

もう1つの理由が定員厳格化の影響だ。地方創生の一環として、大都市の大学が地方から学生を集め過ぎていることへの抑止として、設けられた。入学定員が2000人以上の大手大学は、今年は定員の1.1倍以上を入学させると、助成金をもらえない。2015年には1.2倍が上限だったのが、段階的に下げられてきた。入学者を減らすことは、すなわち、合格者を減らすことにつながる。

2017年は立命館大学が3800人ほど合格者を減らし、早稲田大学や法政大学も2000人以上合格者を減らした。志願者が増え、合格者が減っているため、入試は大激戦となった。そのうえ、受験生は現役での大学進学志向が高く、昨年は3月に実施される入試に志願者が殺到、結局、志願者数は前年比で15%を超えた。

今年は募集人員の多い2月試験で合格を確保するため、併願校を増やした結果、私立大学の志願者が増えたと見られる。

金沢工大を評価する進学校教諭の声

このような入試状況だが、大学選びはいつも難しい。私立大が人気だといっても、その中からどう選べばいいのか。そんなときに役立てたいのが、受験のエキスパートである、進学校の進路指導教諭の評価だ。

大学通信は毎年、全国約2000進学校の進路指導教諭にアンケート調査を実施し、昨年(2017年)は685校から回答を得た。その中で「面倒見が良い大学」はどこかを聞いた。5校連記で大学をあげてもらい、最初の大学を5ポイント、次を4ポイント、以下3、2、1ポイントとして集計したのが、ランキング表だ。

「面倒見が良い大学」というと、手取り足取り教えてくれることを想像しそうだが、実際にそんなことをしている大学はない。学生が主体的に学ぼうとする中で、さまざまなサポート制度を設けたり、教職員と学生の距離が近く、さまざまなことを相談できる制度を設けたりする学校が評価の対象になる。

トップは13年連続で金沢工業大学だ。進路指導教諭からも「個別指導だけでなく、卒業後につながる大学での学びを追求している」(秋田・県立高)、「面倒を見なくてはいけない層の入学者を迎え、それに対し、ていねいに指導している」(福島・私立高)、「基礎・基本からしっかり教育し、教員に質問しやすい環境を作り、就職にも強い」(栃木・私立高)、「高校時代に学力が厳しい生徒でも、4年後にきちんと卒業し就職できている」(愛媛・県立高)などと、高く評価されている。学習支援を中心とした教育への評価が高い。

金沢工大は2000年から他大学に先駆けて、数理工教育研究センターを設置。高校の数学・理科の復習から、大学の専門領域で活用できる数理学習まで、個別学習指導が受けられる。それ以外にも、各種教材、課外学習プログラムなどを提供している。

同大の企画部広報課長の志鷹英男さんは「PBL教育の草分けであるプロジェクトデザインの授業を1995年から始めています。しかし、この授業を進めていくには、数理や専門基礎力が必要です。技術者として、イノベーションを創出していくために、基礎・基本はおろそかにできないのです。これをしっかり身につけることで、今後、目まぐるしく変わる技術革新にもついていけるし、企業からも評価され、就職のよさにつながっているのでしょう」と言う。

大澤敏学長の方針もあって、今は学生同士の得意分野の“教え合い”に力を入れている。理解を深めるには、ディスカッションやプレゼンテーションより、人に教える方が身につくというのが理由だ。

2位は東北大学、3位は武蔵大学と続く。以下、4位国際教養大学、5位明治大学、6位立命館大学の順となった。

産業能率大や学習院大が評価上昇

比較的小規模な大学が多いのは、学生に目が行き届いているからだろう。その一方で、明治大学や立命館大学など、大規模総合大学も入っている。スケールメリットを生かした学生支援制度が充実していることが理由とみられる。首都圏の高校の進路指導教諭は「面倒見がよい大学は、学生の力を伸ばすことができる大学で、そのニーズに応えることを実践した大学」との見方で、大学の規模は関係ないようだ。

2位の東北大学については、「比較的少人数教育で、学生の能力伸長に尽力している」(埼玉・県立高)、「AO入試制度が定着し、やる気のある学生に質の高い教授陣が教えていること」(栃木・私立高)などの評価だ。

3位の武蔵大学は、“ゼミの武蔵”と言われるほど、ゼミナール形式の授業で有名だ。このゼミナールは少人数教育で、同大学は昔から実践している。進路指導教諭の評価も、ゼミと少人数教育についてのコメントが多い。「ゼミ、学生センター、教員など、多方面から学生へアプローチして指導し、面談の機会も多い」(東京・私立高)、「学生一人ひとりに注視している点」(東京・都立高)などだ。ゼミナールは双方向の授業で、今でいうアクティブラーニングである。

この分野では、アクティブラーニングが注目される以前から、7位の産業能率大学が大学の授業で実践しており、評価につながっている。

また、前年に比べて、順位を大きくアップさせた大学も少なくない。福岡工業大学は昨年の16位から8位へ、高知工科大学は33位から9位、秋田県立大学は50位から10位、学習院大学は56位から15位へと躍進している。これまでも面倒見がよかったが、それが広く知られるようになってきた結果といえよう。