かつてのクルマのアンテナはとても長いものでしたが、技術の進歩により小型で短くなっていきました。今後、「コネクテッド」技術が進展するなかでアンテナはどう変わっていくのでしょうか。

長さ90cm前後だったワケ FMの波長が関係?

 かつてのクルマには、バンパーやトランク、ルーフなどに伸縮式のアンテナが見られましたが、いま道路を見渡しても、あまり見られません。


1970年代に販売されたマツダ「サバンナ」。運転席側のピラーに長いアンテナがついている(画像:マツダ)。

 代わりに、ルーフから角が生えた感じの短いものや、あるいはサメのひれのような突起が見られます。アンテナは短くてもよかったのでしょうか。マツダのアンテナ開発担当者に話を聞きました。

--昔のアンテナはなぜ長かったのでしょうか?

 AMラジオの電波をキャッチするには、アンテナが長いほど有利ですが、FMの場合は最適な長さというものがあります。車体に設置するアンテナの場合、長さを「1/4波長」程度にすると最も効率がよく、たとえば80メガヘルツであれば1波長は3.75m、その「1/4波長」は約0.94mです。そのため、昔は90cm前後まで伸びる「ロッドアンテナ」が主流でした。

--短くなったのはどのような理由があるのでしょうか?

 外観上の問題、風切り音の発生、折れ曲がりや収納の手間、コスト、加えて自動伸縮アンテナなどの場合は故障の問題があり、最近は長いロッドアンテナはほとんど見られなくなりました。

「コネクテッド」時代は「埋め込み」に?

--現在はどのような方式が主流なのでしょうか?

 AM/FMラジオ用としては、車体の形に応じて(太く短いタイプの)短縮ポールアンテナ、サメのひれのようなシャークフィンアンテナ(ドルフィンアンテナとも)、ガラスと一体化したガラスアンテナが採用されています。

--ラジオ以外ではどのようなアンテナがあるのでしょうか?

 ポールアンテナやシャークフィンアンテナなどは主にラジオ用ですが、地デジや(主に海外で利用されている)衛星ラジオといった新しいメディア、さらにGPS、ETCなど、多くの種類のアンテナがクルマに搭載されています。そのため、個々のアンテナの小型化はもちろん、複数種のアンテナをまとめた複合アンテナや、ガラス上に多くのアンテナをまとめる技術が必要になっています。


マツダ「デミオ」。ポールアンテナが採用されている(画像:マツダ)。

トヨタが2016年に発表した衛生通信のための「車載用平面アンテナ」(画像:トヨタ)。

トヨタが2016年に発表した衛生通信のための「車載用平面アンテナ」(画像:トヨタ)。

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 昨今はクルマそのものに通信機能を持たせる「コネクテッド」技術や、自動運転技術の開発も活発化しています。マツダはこれら技術の進展により、「クルマは周囲の交通状況をセンシング(感知)し、各種インフラやほかのクルマと通信し情報を交換しながら走行するようになります」といいます。また、それらの機能を確保するためにも「確実な通信が要求されます」と話します。

 こうした時代を見据え、トヨタは2016年の「デトロイトオートショー」で、ルーフ部分に突起のない「車載用平面アンテナ」が埋め込まれた燃料電池車「MIRAI」の実験車を出展しています。このクルマは衛星と通信し、大量のデータをやりとりできるというものです。

 トヨタによると、「現在の車載機の通信量ではカバーしきれなくなると予想されることから、大容量の衛星通信に着目した」とのこと。「車載用平面アンテナ」は、「米国の企業と共同で、パラボラアンテナのような構造物ではなく平面化、小型化し、車載に適したアンテナを試作したもの」だそうです。衛星通信には、国や地域を越えたカバーエリアの広さや、自然災害などの緊急時でも安定した通信を確保できるといったメリットもあるといいます。