複雑なトライアングル(写真:時事通信フォト)

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 文頭に『取扱厳重注意』と印字された、A4判2枚のペーパーがある。総理首席秘書官の今井尚哉氏と官邸詰め記者とのオフレコ懇談の内容が記されたメモだ。そこには、「今すぐ秘書官を辞めてやる」という激しい言葉を安倍晋三首相にぶつけたことが記されていた。この件については、支持率低迷に悩む安倍首相が“今井切り”に動いたとの指摘もある。政府中枢で何が起きているのか。

 官邸では菅義偉・官房長官、麻生太郎・副総理と今井氏が暗闘を繰り広げている。今井氏の影響力排除を首相に強く進言したとされるのが菅官房長官だ。菅氏に近い議員が語る。

「森友問題も加計問題も今井秘書官が疑惑を強行突破しようと対応を仕切って失敗した。安倍総理が国会で『私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める』と答弁して批判に火がついたが、あれも今井氏の作文だ。菅さんはその尻ぬぐいで記者会見で矢面に立たされ、満身創痍になっている。そこで内閣改造を機に、今井に出しゃばらせないように総理に強く進言した」

 その菅vs今井の前哨戦が稲田朋美・元防衛相の更迭問題だった。今井氏は稲田氏1人の更迭を主張したが、菅氏は大臣の不祥事が防衛省内からリークされた問題を重大視して稲田氏と黒江哲郎・前防衛次官2人の両成敗を主張した。結果として、安倍首相は菅氏の提案を採用。今井氏の凋落の始まりだった。

〈黒江は国にとって重要な人間であると話したが、止まらなかった。黒江は全部の罪を被った〉

 オフ懇メモで今井氏はそう振り返ったうえでこう続けている。

〈朝日と東京新聞は菅さんが辞めるまで会見で攻めてくるつもりだろう。10年選手がそろっている官房長官番はなんとかしたほうがよいのではないかとも思う。記者会見の主催は記者会なんだから。(第1次安倍政権の)塩崎(恭久)官房長官の時は総理の盾に全くならなかったが、菅長官は矢面に立ってくれるからな。菅さんを代えたとしても、一時的に支持率が回復するかも知れないが、その後はまた下がって長くは持たないよ。週刊誌でいわれている俺と菅さんの不仲説はありえない〉

 この“上から目線”の言い方を、今井氏の尻ぬぐいで批判を浴びている菅氏はどう聞いたのだろうか。

 麻生副総理と今井氏も“不倶戴天”の関係にある。2016年5月の伊勢志摩サミット後の会見で、安倍首相は消費税増税の再延期を表明した。そのときに使われたのが今井氏が中心になってまとめた「世界経済はリーマンショック前夜に似ている」と分析した“今井ペーパー”だ。財務大臣でありながら直前まで知らされていなかった麻生氏は激怒し、“今井氏の胸ぐらをつかんだ”とも報じられた。

「この一件以来、麻生副総理は今井秘書官を全く信用していません。麻生さんの逆鱗に触れた今井氏は対抗するために二階俊博氏に接近。入院した谷垣禎一氏の後任として幹事長に就任させた。今年5月の二階訪中にも同行して親密さを見せつけたが、麻生さんは今井氏を孤立させるために今回の内閣改造でその二階幹事長の交代を安倍首相に迫った」(麻生派議員)

 麻生氏、菅氏という政権の重鎮がまるで“モグラ叩き”のように今井氏を追い詰め、安倍首相から引き剥がそうとしてきたことがわかる。そして支持率低下と党内の反安倍ムードの高まりの中、安倍首相の信頼は揺らいでいく。

 今井氏はオフ懇で自分を守ってくれない安倍首相への恨み言も漏らした。

◆安倍政権は来年9月で終わりだと思う

〈(安倍首相に)おごりが出てきたのは、総裁の任期が3期に延長が決まったところからだと思う。党内政治をうまくするだけで(総裁を)9年できるというふうになってしまった。本当に何かをやろうと思ったら、民意をしっかり問うという迫力がなければだめだ。

 私は(2016年の)1月4日に国会を召集してダブル選挙ができるようにしたし、サミット後の衆参ダブル選挙やるべきだといったし、去年の年末解散を最後まで唱えていた。党内政治をうまくやれば、(衆院の)3分の2を維持できるということでここまで来てしまった。

 このままいけば、安倍政権は来年の9月で終わりだと思う。次は石破が90%、岸田が10%だろう。しかし、そうなれば必ず石破さんたちにマスコミはピラニアのように食いつき、「安倍総理はよかった」となると思っているけどな〉

 自民党内の「安倍一強」状態に安住し、安倍首相がリスクを取って解散・総選挙で国民に信を問う気概と決断力を失ってしまったことが現在の政権の体たらくを招いたという嘆き節である。

 安倍首相は内閣改造で加計疑惑に“連座”した萩生田光一・官房副長官を政権中枢から外し、下村博文・元文科相も党総務に“降格”するなど側近を切り捨てさせられ、最も信頼していた今井首席秘書官からも政権に見切りをつけられたことがはっきりわかる。

 政権を支えてきた“チーム安倍”は麻生氏、菅氏らの謀略で身ぐるみを剥がされ、解体させられたのだ。

※週刊ポスト2017年9月15日号