73歳になったスーパーレジェンド。これから伝説連載の名言・名エピソードを随時紹介していく。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 今年4月に73歳になった。いまでも全国各地で開催するサッカー教室は盛況で、チビッ子たちと一緒にボールを蹴り続けている。
 
 日本サッカー界が誇るスーパーレジェンド、釜本邦茂。男子日本代表の歴代最多得点者(75得点)で、記憶にも記録にも残る天性のストライカーだ。1968年のメキシコ五輪では日本を3位に導き、自身は得点王に輝いた。いまでもペレやフランツ・ベッケンバウアーらビッグネームとの親交が深く、初めて世界が認めた日本人選手である。
 
 サッカーダイジェストでは以前、釜本氏のコラム「ガマッチョ」を連載した。次から次へと飛び出す名言・名エピソードに膝を叩いた読者は少なくない。
 
 アーカイブから興味深い回だけを厳選し、不定期でお伝えする『釜本邦茂・伝』。老若男女を問わず、サッカーを愛するすべての人びとへ━━。永遠のカリスマの言葉に、耳を傾けてもらいたい。

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[週刊サッカーダイジェスト2008年12月23日号に掲載。以下、加筆・修正]

 ところで、身体能力ってなんだろうね。
 
 日本人選手はフィジカルが弱いから組織で戦ったほうがいい。よく聞く言葉だし、間違ってもいないと思う。それでも、局面で1対1での戦いは必ずあるし、避けては通れないもの。身体は鍛えられるだけ鍛えて、強ければ強いほうがいいに決まってる。
 
 僕は身体が強かったほうだし、ほとんど当たり負けというのも経験したことがない。よく「釜本の身体は日本人離れしている」とも言われたけど、じゃあ生まれ持っての凄い身体だったのかと訊かれたら、決してそうではない。
 
 家系みんなの背が高いわけじゃないし、肉付きがいいわけでもない。身体の骨格を形成する時期になにをしていたかで、変わっただけなんじゃないかな。僕の場合、なによりも大きかったのが、釜本家秘伝の「鶏がらスープ」だった。
 
 いい骨にはいい筋肉が付く。これは間違ないことで、いろんなところでも言われている。中学校に入りたての頃だったかな。父親がけっこうハードな仕事をしていたこともあって、滋養のために自宅で鶏がらスープを作るようになった。僕にも毎日飲めということになって、それからだね、身体つきが変わっていったのは。
 
 業者からもらった鶏の骨をそのまま4時間も煮込んで、骨から出るエキスで真っ白だよ。少し塩を入れて、一日に何回も飲む。冬は熱いまま、夏は冷やして飲んだ。それを高校卒業するまで欠かさず続けた。怪我にも強くて芯が強くなれたのは、あのスープのおかげだったと思う。いまでもラーメンは塩ラーメンしか食べないからね(笑)。
 怪我といえば、現役の頃に一度、膝の腱を切ったことがあったんだ。2本あるほうの1本が切れて、手術をしきゃいけないとなった。ただシーズン中だったし、「ちょっとほっといて様子を見ましょうか」となって何日か経ったら、切れてたほうと切れてないほうがくっついて1本になってた。僕もビックリしたけど、お医者さんのほうがもっとビックリしてたね(笑)。
 
 そうとうに珍しかったみたいだけど、「あなたの筋肉は普通やない」と言われたよ。そんで、「ひとりだけあなたと同じ筋肉を持つひとを知ってます。王(貞治氏)さんです」と。太くてしっかりとした骨で、筋肉は柔らかくて強い。
 
 ボールをインパクトするぎりぎりのタイミングでは、タメを作るための土台の強さが問われる。トレーニングをたくさんやれば強い筋肉は付くんだろうけど、しなやかな筋肉は、いい骨がないと付かないんだ。だから成長期にどんな食事をしていたのかは、とても大事なんだと思う。