「小さなビジネスを育て、街に還元するロンドン「ポップ・ブリクストン」の“幸せのコミュニティ”」の写真・リンク付きの記事はこちら

英国のEU離脱(Brexit、ブレグジット)を促した要因は移民問題とされるが、その背景には福祉や公共事業費の削減、格差の拡大による反体制的な気運が挙げられている。

実際、あらゆる出身地や宗教の人が共存するロンドンでは圧倒的に残留支持者が多い。一方、不動産価格の高騰や各助成金削減で、ロンドンは庶民にとって暮らしにくい街になりつつある。そんななか、区が提供する空き地を使い、地元の小さなビジネスを支援し、コミュニティを活性化させようというのが、この「ポップ・ブリクストン」だ。

スタートアップは安い家賃で優先的に入居できる。収益による家賃の調整も検討中。見習いを積極的に採用する理髪店「London Barberhood」(写真)をはじめ、出所者の社会復帰をサポートする「Bounce Back」など社会還元を目指すビジネスや団体が多い。PHOTOGRAPHS BY MIKI YAMANOUCHI

各テナントは毎週1時間、コミュニティへの還元となるボランティア活動をすることが入居の条件。ヨガや料理の教室、野菜づくりの指導など、子どもから高齢者までを対象に各種の無料ワークショップを主催。地元高校と組み、職業訓練の機会も提供している。PHOTOGRAPH BY MIKI YAMANOUCHI

場所は、ロンドン南部にあるブリクストン。戦後再建のため政府の奨励でやってきたジャマイカ系の移民が最初に移住した地区で、いまもレゲエ音楽が流れる活気ある庶民の町だ。過去には人種問題を発端にした暴動もあり、治安も悪かった。5年ほど前から老朽化した屋内マーケットに、区がスタートアップのカフェやショップを誘致。これが成功し、近ごろはコスモポリタンでエッジーなエリアとして注目されている。

この流れで、取り壊しになった立体駐車場跡地の活用案が持ち上がった。コンペを経て採用されたのが 建築家カール・ターナーの案だった。「区に予算はないので、建設費の調達や運営もやることが条件でした。わたし自身、もっと社会貢献になることをしたかったので、自宅兼オフィスを売却して私財を投じて挑戦することにしたんです」。こうして、ターナーがデザインから運営まで総合的に手がける「ポップ・ブリクストン」は誕生する。

「60の古いコンテナを組み合わせ、中央には温室用のポリトンネルやリサイクル材を使い、パーティやイヴェントもできるコモンスペースを設けました」。コンテナにはドアや窓があり、意外と広い印象を受ける。「テナントはすべて個人経営で、10ユニットは通常の家賃の5〜8割引きに設定し、スタートアップをサポートしています。全体の75パーセントが地元ベースで、15パーセントは出所者の社会復帰をサポートする団体などの社会的企業。3分の1は飲食店です」

カール・ターナー|CARL TURNER
建築家。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒。2006年にオフィスを開設。ブリクストンに建てたエコ仕様の自邸で各賞受賞。その家の売却金で始めた〈ポップ・ブリクストン〉が転機となり、町の広場の再計画と演劇学校の建設など、地域活性型のプロジェクトが進行中。PHOTOGRAPH BY MIKI YAMANOUCHI

場所は老朽化で取り壊しになった区営立体駐車場跡地で、長らく空き地になっていた。区はデヴェロッパーに売却する代わり、地元の活性化につながる再利用案を公募。中古コンテナやリサイクル材を使った低予算でフレキシブルな案が採用された。PHOTOGRAPH BY MIKI YAMANOUCHI

各テナントは1週間に1時間コミュニティのためのボランティア活動が義務付けられている。「高齢者にパソコンを教えたり、子どもとピザをつくったり、世代を超えた交流も心がけています」

この地区では住民の78パーセントがEU残留に投票したというのも興味深い。人種問題による暴動があった過去を教訓に、バックグラウンドが異なる人たちが助け合って暮らそうという草の根的取り組みが反映されているように感じる。まもなく隣の地区に第2弾となる「ペッカム・レヴェルズ」もオープンする。EU離脱によって、イギリス社会がどう変わっていくかは予測がつかない。とはいえ政治に振り回されずにコミュニティレヴェルで社会改善をを図る動きは、確実に進行中である。

地下鉄ヴィクトリアラインの南端ブリクストン駅より徒歩5分。各種イベントも随時主催。住所:49 Brixton Station Road London SW9 8PQ。www.popbrixton.org

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