「ひよっこ」29話。働く乙女たちの枕投げ大会

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連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第5週「乙女たち、ご安全に!」第29回 5月5日(金)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中正


29話はこんな話


みね子(有村架純)をめぐって、豊子(藤野涼子)と時子(佐久間由衣)が大喧嘩に。
たぬき寝入りしていたみね子だったが、耐えられなくなって起き上がる。

豊子VS時子


豊子が、みね子と澄子(松本穂香)の仕事の遅さに関する違いを鋭く分析。
さすが通知表に「論理的思考能力が高い」と書かれているだけはある。
みね子は寝ながら「なるほど」と合いの手を入れる。

すると、時子が豊子の分析癖を批判。その根拠は「自分を見てるみたいでいやだ」というもの。
田舎で「私は人とは違う」「こんなところで埋もれるのはいやだ」という感情から、人を批判してしまうのだと、これまた鋭い分析返し。でも、新しい場所・東京に来たから「もういいでしょ」と説得する。

時子の「かわいいよ、豊子は」で空気が変わったのを感じたみね子は、
「いい場面です、ああ起きたい、顔が見たい 泣いてますか、感動してますか」と心の中でつぶやく。
ところが、時子と豊子がとっくみあいをはじめた。
「なんで? いい場面のはずがなんで?」
ついに起きるみね子。
豊子が突如「ごめんなさい」と泣きながら謝る。
そうだよね、ツッパっていても、年下。時子の迫力には勝てない。

本音VS建前


みね子心の声「お父さん、知ってるのに知らないことになってるから泣いてはいけません」
みね子「お父さん、私がふがいなくて・・・」

みね子はうっかり、心の声を口に出してしまう。
これによって、みね子がいかに、心の声を押し殺しながら他者と接しているかがわかる。
彼女が気ぃ使いであることは既にさんざん描かれてきたが、この場面では、彼女が、本心をうっかり声にしてしまうほど、精神的に混乱していることがわからせる役割を果たす。それと同時に、モノローグで状況を解説することの都合の良さを、笑いに転化することで、必然に見せてしまう。
↑脚本家めざしている人は、見習って!

「『何があったの?』っていうの、あれお芝居?」
という優子(八木優希)のツッコミはなかなかシニカルだ。
みね子が気を使って、言動をコントロールしていることが暴かれる。
それは、悪い意味ではなく、時子が「どんな時もなにができなくても、みね子は笑ってたでしょ」と言うところの、みね子の良いところだったのだ。これまでは。
でも、みね子は、(今までは)何ができなくても愛嬌で済んだから笑ってた、と、いまは違う。仕事なんだから。それでは済まない、「だから悩んでしまうんだよ」と家を背負って働く苦悩を激白。

心の内を隠して笑顔でいること(ほんとうの意味の「泣くのはいやだ、笑っちゃおう」)の大変さをみね子は知り始める。大人の階段を登り始めたってことだ。

と、ここで思い出すのは、3話。宗男叔父さん(峯田和伸)のエピソードだ。
3話のレビューで、こういうのを書いた。

“「なんでいつもそんなに笑ってるの?」とみね子が聞くと、
「なんでだと思う? 馬鹿だからじゃねえぞ。(中略)おれは決めたんだ、笑って生きるってな」とあくまでユーモラスに答える宗男。だがみね子は、「戦争から帰ってきて人が変わった」とお父さんから聞いていた。
宗男の背中には大きな火傷の跡が。終戦から20年くらい、傷は残っているというダブルミーニングか。“

みね子も、おじさんがなんで笑ってるか、だんだんわかるようになっていくのだろう。
豊子は豊子で、まだ子供だから、感情のまま言葉に出してしまい、角が立つ。
「かわいく言いなさい」と時子に言われ、「かわいい言葉が出ない」とむくれるが、あとで、かわいく言ってみる。結局「気持ちわりい」と笑われてしまうが、こうして、人は、本心と折り合いをつけていくのだ。

みね子と時子


こんなふうに解説すると堅苦しい感じに見えてしまうが、その後は、
「〜〜ごめん」
「いや、そんなあっさり謝られたらどうしたらいいのよ」
「でもわたしのそういうとこが好きなんでしょ。前にそう言ってたでしょ、みね子」
「言ってたけどさ、そうだよ好きだよ」
「私もみね子のそういうとこ好き」
「ありがとう。(ぷっっと吹き出す)なんなのよ、これ」
・・・と、微笑ましく収束する。
その間も、澄子はずっと寝ていて。
そして、乙女たちの枕投げ。
それも許しちゃう愛子(和久井映見)。

乙女たちのぱっぱっと変わる表情を、リズミカルに見せる田中正演出。それに応える女優陣も頼もしい。

「なんとこの日は」


「遅れて構わない。その遅れは仲間たちが取り戻す。仲間を信じて」と幸子(小島藤子)。
ついにラインを止めることなく、完走することができたみね子。
みんなの拍手に包まれて、ようやくホッとする終わり方だった。

寮仲間のいじめも、舎監の厳しさもない、夢のような向島電機。
どう考えても、夜中にあんなに女子が大声でケンカしていたら隣室に聞こえて、文句が出るとは思うけれど。
ま、いっか。
(木俣冬)