ロシアW杯アジア最終予選も、いよいよ後半戦がスタートする。泣いても、笑っても、残り5試合――。ここからはまさに、あの「絶対に負けられない戦い」というキャッチコピーがふさわしいゲームの連続になるだろう。


完全アウェーの地で勝利にこだわると落とし穴が...... ただし、「絶対に負けられない戦い」=「絶対に勝たなければならない戦い」なのかというと、そうではない。3月24日未明(日本時間)に行なわれるUAE戦においては、なおさらそうだ。

 日本が現在、ワールドカップ出場圏内のグループ2位なのに対し、UAEは4位。しかも今回は、彼らのホームゲーム。試合会場となるハッザーア・ビン・ザーイド・スタジアムを埋め尽くす白装束のサポーターが代表チームを大いに煽り、鼓舞するのは必至。「絶対に勝たなければならない」というほど追い込まれているのは、UAEのほうなのだ。

 むろん、勝ち点3を取れるに越したことはないが、「絶対に勝たなければならない」と力んで先に攻め急いだり、0-0の展開に焦れたりする必要はまったくない。

 勝ち気でくる相手の土俵に上がらず、冷静に受け流しながら、隙を突くようなゲーム運びが必要になる――。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が今回、重視したという「経験」とは、そういうことだろう。

「次の試合(UAE戦)もセンターバックやボランチは非常に強く、タックルしてくるだろう。だから、そこで(相手ゴール前で)ボールをプロテクトできる選手が必要になるかもしれない。また、スピードがあり、前に飛び込める選手も必要かもしれない」

 ハリルホジッチ監督がUAE戦のゲームプランについてこう語ったのは、メンバー発表会見の1週間ほど前のことだった。次の試合「も」というのは、「アウェーのオーストラリア戦に引き続き」という意味だ。

 昨年10月11日に行なわれたアウェーのオーストラリア戦。5日前のイラク戦における疲労と、長距離移動の影響でフィジカルコンディションに不安があったため、ハリルホジッチ監督は従来とは異なるゲームプランで臨んだ。

 スプリントや攻撃における連続した動きを求めず、しっかりと守ってから速攻を繰り出すというように、最低でも勝ち点1を死守、あわよくば勝ち点3を狙うゲームプランで臨み、狙いどおりにFW本田圭祐(ACミラン)のスルーパスからFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)が先制点を奪取。後半にPKを与えて同点に追いつかれたが、守備とゲームの進め方に関しては、ほぼプランどおりだった。

「本田を中央に入れて2〜3回トレーニングをした。それは、相手ゴールに背を向けてボールをキープできると思ったからだ。相手がチャージしてきても、持ちこたえられると。そこでキープして落として、誰かが裏を狙って走るという戦術で、実際にその形から得点が生まれたのだ」

 ハリルホジッチ監督はそう力説する。そして、そのあとに続けたのが、前述のUAE戦のプランだった。

 指揮官の言葉を額面どおりに受け取れば、UAE戦もまずは守備の意識を高めてゲームに入り、相手にボールを少し持たせて、カウンターや速攻を狙うようなゲーム運びになるだろう。

 オーストラリア戦で本田が務めた1トップに入るのは、ケルンで好調を維持するFW大迫勇也で間違いない。実際、3月21日のトレーニング終了後の囲み取材では「次(UAE戦)は1トップで出る」と力強く語っている。

 その大迫のポストプレーや、ボールキープによって生まれる時間を利用して、原口やFW浅野拓磨(シュツットガルト)、FW久保裕也(ゲント)といったスピードに長けた選手たちが飛び出していく。トップ下、あるいは大迫のパートナーとしてFW岡崎慎司(レスター・シティ)を起用して、レスターで見せている飛び出しと守備力を代表チームに加えるのも一考だ。

 最大の懸案事項――右ひざ負傷のためにチームから離脱したキャプテンMF長谷部誠(フランクフルト)の代わりのボランチは、つまり、MF山口蛍(セレッソ大阪)のパートナーを務めることになるのは、MF高萩洋次郎(FC東京)でも、MF倉田秋(ガンバ大阪)でも、MF香川真司(ドルトムント)でもなく、約2年ぶりの代表復帰となったMF今野泰幸(ガンバ大阪)だろう。

 この試合でリスクを冒す必要は一切ない。チームとして求められるのは、まず失点しないという意識であり、ボランチに求められるのが、まずは守備。そしてボールを奪ったあと、機を見て相手と入れ替わるように出ていくようなプレーなら、前回の最終予選における経験値も含め、今野以外に適任者が浮かばない。

 UAEと派手な打ち合いとなるような死闘を演じ、精根尽き果てて埼玉に戻り、3月28日のタイ戦で取りこぼすようなことがあっては意味がない。完勝や圧勝は必要なく、先に攻め急いだり、焦れたりする必要もまったくない。アウェーのUAE戦で求められるのは、ワールドカップ5大会連続出場中という経験の差を証明するような、したたかなゲーム運びだ。

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