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●ケーブルが進化した「AK T8iE MkII」
アユートは、6月21日の新製品発表会でカナル型イヤホン「AK T8iE MkII」とデジタルオーディオプレーヤー「AK70」を披露。いずれもポータブルオーディオの分野で勢いに乗るAstell&Kernブランドに属し、先代モデルを引き継ぐ次世代的ポジションの製品ではあるが、なかなかどうして、魅力的な仕上がりだ。その見どころについて、レポートしてみよう。

AK T8iE MkIIは、2015年11月に発売されたカナル型イヤホン「AK T8iE」の後継モデル。AK T8iEに続き、1テスラ(1万ガウス)という高い磁束密度を実現するbeyerdynamicの独自技術「テスラテクノロジー」を採用、ハウジングなど基本デザインもそのまま引き継いでいる。

一般的なドライバーユニットはボイスコイルの背面に磁石を配置するが、テスラテクノロジーではボイスコイルの周囲に通常の2倍以上という強力な磁石を配置、その圧倒的な磁束密度により正確な再生を可能にする。beyerdynamicの旗艦機「T1」などオーバーヘッド型ヘッドホン向けに開発された技術であり、ある程度のサイズが要求されるものと考えられていたが、「AK T8iE」の開発に際し大胆な小型化を実現、カナル型に凝縮した。テスラテクノロジーがカナル型イヤホンで実現されたこと自体、AK T8iEの発売から約半年が経過した現在でも新鮮味があるものだ。

今回発表されたAK T8iE MkIIは、そのドライバーユニットの根幹部分には手を入れていない。しかし、大きく3つある変更点は、音の印象を変えうる要素として見逃せない。

ひとつは、イヤホンケーブル。線材には「ハイグレード銀メッキ銅線」を採用、強靱なアラミドファイバーコアがそれを覆う構造となっている。柔軟性に優れたスリーブを使うことで、タッチノイズも軽減したという。純度の高い伝送と耐久性の両面を兼ね備えるもので、ポータブル用途には好適だろう。前モデル同様、標準3.5mm端子用ケーブルにくわえ2.5mm4極バランスケーブルも同梱されるとのことだ。

もうひとつは、新型ボイスコイル。「大音量時における駆動力向上とさらなる低歪化を図った」(アユート藤川氏)とのことで、音質に与える影響も少なくなさそう。3つ目、MMCXコネクタの変更にも注目だ。新たに高精度ゴールドメッキを施し、刻みをくわえることで接続の確実性が向上。抵抗値も従来に比べ低くなったという。

音の印象だが、前モデルに比べ鮮度が増したことは確か。ダイナミック型ユニット1基という構成ゆえに、低域から高域までのつながりが自然な傾向は前モデルと変わらず、イヤホンとしてのキャラクターに変化はないが、音の繊細さが増している。本機の発売により前モデルが終売となることを踏まえれば正統進化、「最後のピース」がはまった感があり、これ以上の改良は難しいのではとつい考えてしまった。

●USBオーディオ出力に注目の「AK70」
AK 70は、2015年5月に発売された「AK Jr」の後継となるハイレゾデジタルオーディオプレーヤー。ハイパフォーマンスと小型化という製品コンセプトを保ちつつ、DACを見直すなど細部をリファインしたという。Astell&KernブランドのDAPではローエンドモデルに位置付けられるが、OSは第2世代機から採用されたAndroid OSベースのものに変更、無線LANのサポートもありDLNA機能「AK Connect」に対応するなど、機能面では上位モデルに追いついた感がある。

DACにはシーラス・ロジックの「CS4398」をシングル構成で採用。PCMは192kHz/24bitまで、DSDは5.6MHzまでの再生に対応する。ネイティブ再生は最大192kHz/24bitという意味ではAK Jrと変わらず、DSDもPCM変換となるが、DACに採用されたCS4398は「AK240」など第2世代の上位機と同じであり、音質面でのグレードアップが期待できる。

2.5mm/4極のバランス出力端子を装備したことも大きな変化だ。AK Jrではバランス出力に対応しないことが第2世代機と比較したときのウイークポイントとなっていたが、これでその問題は解消された。やや厚みが増したもののじゅうぶんコンパクトであり、バランス接続にこだわるユーザーにはサブ機としても訴求できそうだ。

USBオーディオ出力のサポートにも注目したい。本体下部のUSB micro-B端子を利用し、USB DACにデジタル出力できるのだ。PCMは最大384kHz/32bit、DSDは5.6MHzまで(伝送はDoP)となるが、異なる個性・異なる性能のDACを積んだポータブルアンプ・USB DACで聴く楽しみが生まれた。なお、USB Audio入力(USB DACとしての動作)も可能で、その場合は最大96kHz/24bitの再生に対応する。

DAPでUSB DACを使うことには異論もあるだろうが、内蔵メモリやmicroSDに保存した楽曲を他のデバイスで(当然違う印象の音で)楽しめるのだから、歓迎されていい新機能だといえる。なお、「AK380」などの第3世代、「AK240」「AK100II」など第2世代の機種も、後日のファームウェアアップデートにより同機能をサポートすることも発表された。トップメニューのアートワーク拡大表示機能とあわせ、既存のAKユーザにとっては朗報だろう。

AK 70の音だが、DACなど仕様が大幅に異なるAK Jrはもちろん、同じDACを搭載するAK100IIなど第2世代機ともキャラクターが違う。特に、低域の音圧や解像感といった駆動力に起因する部分は、最新モデルということもあってかAK 70のほうがインパクトは強い。CS4398チップはこんな緻密な音だったか、と思うほど解像感もある。バランス出力は試していないが、期待してよさそうだ。

製品コンセプトは「MUSIC FRIEND IN MY POCKET」であり、ポータブル用途がメインという位置付けだが、個人的には少々疑問だ。アプリ「AK Connect」を利用してNASの音源を聴いたり、コンポーネントのUSB DACに接続してバッテリーを気にせず長時間再生したり、「MUSIC FRIEND IN MY ROOM」という表現が相応しい使い方ばかり頭に浮かんでしまう。ともあれ、599ドル(日本での価格は未定)という価格設定もあり、Astell&KernブランドのDAPにおけるボリュームモデルになることは確実だろう。そしてそれだけの実力を有していることも確かだ。

(海上忍)