堅守速攻を研ぎ澄ませたラニエリ監督の手腕は、評価されて然るべきだ。(C)Getty Images

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 世界的な注目を集めている"堅守速攻"のレスター・シティ。堅牢なディフェンスから、奪ったボールをスペースへ蹴り込み、ジェイミー・ヴァーディーやリャド・マハレズらが技術とスピードで切り裂く。カウンターの決定力は、痛快そのものだ。

 本来ならば、レスターがプレミアリーグの首位を走る状況は考えにくい。なぜなら堅守速攻は、堅守速攻に対し、必ず問題を抱える。お互いに戦術を貫けば、0-0のスコアレスだ。あるいはリスク承知で殴り合うしかない。引いた相手を遅攻で崩し切れず、下位クラブから勝点を取りこぼすチームが、リーグ戦の王者になるのは難しい。

 ところが現実、レスターは3月15日時点で首位だ。彼らの快進撃は03-04シーズンのチャンピオンズ・リーグを思い出させる。当時は4大リーグのビッグクラブが、揃いも揃ってパッとしなかった。伏兵ポルトが優勝し、ジョゼ・モウリーニョが名声を博したのも、本命不在のシーズンであることが大きかった。
 
 今季のプレミアリーグも同じだ。通常のシーズンならば、1試合平均で勝点2.3ほどを挙げたビッグクラブが優勝する。しかし、今季は平均勝点2を超えるビッグクラブがひとつもない。

 モウリーニョ(チェルシー)は解任され、ルイス・ファン・ハール(マンチェスター・U)は風前の灯、マヌエル・ペジェグリーニ(マンチェスター・C)は今季限りでの退任が決まった。堅守速攻のレスターが平均勝点2.10で首位を走るのは、本命不在のシーズンならではの現象とも言える。

 もちろん、そのような外部要因を差し引いても、レスターは高く評価されるべきチームだ。今季の躍進は、『修理屋』の異名を取るクラウディオ・ラニエリの手腕が大きい。
 開幕前に電撃解任された前任者、ナイジェル・ピアソンは、フィジカルとパワーに長けたレオナルド・ウジョアをCFに置き、技術とスピードに長けたヴァーディーをセカンドアタッカーに起用したが、ラニエリはヴァーディーをCFへコンバート。一発で裏を取ったり、動きながらボールを引き出したりと、前線の流動性をベースにした。

 この修理が大ヒット。ヴァーディーはスペースを食い尽くす"カウンターの魔物"となり、前半戦では11試合連続ゴールと、ルート・ファン・ニステルローイを抜くリーグ新記録を打ち立てた。
 
 この戦術方針は、岡崎慎司にも恩恵を与えた。ラニエリが示すムービング・カウンターにおいて、奪ったボールは1トップに当てるものではない。直接、裏のスペースへ放り込むか、2トップの片方がサイドに流れて縦パスを呼び込む。飛び出し型のヴァーディーと岡崎を2トップに並べる共存策が可能になった。
 
 またこの場合、岡崎の運動量と献身性がキーポイントになる。レスターは相手チームが最終ラインでボールを持つ時は、4-4-2でディフェンスをするが、そこから中盤へボールを運ばれると、4-4-1-1へ移行する。ヴァーディーを最前線に残し、敵ボランチを岡崎がチェックする形だ。

 中盤をカバーできる岡崎の走力がなければ、相手ボランチをフリーにしてさらに深く押し込まれるか、左右に振られ続けてしまう。いずれにせよ、カウンターに出るための距離、体力を確保できない。
 この形に行き着く布石となったのは、0-1で完敗した18節のリバプール戦だ。

 相手ボランチのエムレ・ジャンとジョーダン・ヘンダーソンが外に開き、その隙間にゼロトップのロベルト・フィルミーノが下りることで、2トップのプレスを外され、4-4-2を攻略されてしまった。その後ラニエリは岡崎を外し、4-1-4-1など中盤を厚くする布陣も試したが、ハマらず。結局、岡崎が2倍走ることになる4-4-2と4-4-1-1の変形で落ち着いた。