動画をバイラルさせるために必要なコトとは?成功事例を詳しく分析することで見えてきた7つの手掛かり

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今回取り上げるバイラル動画は2014年、グリーティングカードなどを販売するAmerican Greetings社が母の日に合わせて公開したもの。架空の求人募集を実施し、応募者に対して“立ちっぱなし”“無給”“365日休みなし”などの過酷なる労働条件を次々と伝え、最後にそれが“母親業”であることを種明かしすることで、母親への感謝の気持ちを思い出させるという企画です。日本でもさまざまなメディアで取り上げられたので、覚えている方も多いことでしょう。

(こちらは2015年に公開された日本語字幕付バージョンです)

 

2500万回再生を超えるバイラルに成功した要因はどこにあったのでしょうか? 企画制作を手がけた広告代理店MullenLowe社による事後分析から、7つのヒントが見えてきました。

TIP #1:コンテンツ企画に合わせた広告・メディア戦略

同社が当初計画していた母の日キャンペーンでは、過去に行ってきたキャンペーン同様、セールスファネル上部(認知獲得、好意形成)用のプレロール広告と、ファネル下部(購入検討、購入決定)用のバナー広告を組み合わせたメディア戦略が予定されていました。

しかし、動画「World’s Toughest job」の企画アイデアが浮かんだ時点でその定石を離れ、メディア戦略全体が見直されます。

人々がこの動画に本当に共感を覚えるためには、広告のように強制視聴させるのではなく、視聴者の間で自発的に広まる必要があると考えた同社は、PR活動とソーシャルメディア上の拡散というアーンドメディアを主体とし、そこにファネル下部を対象とするリターゲティング広告を加えた新しい戦略を立てました。

実は同社にとって母の日は、1年のうちで3本の指に入る重要な商機です。成功実績もある、より確実な広告戦略をとる選択肢もあった中、未経験かつ何の保証もないアーンドメディア戦略は非常に大きなチャレンジでしたが、結果としてそれが成功要因となりました(その詳細をTIP #2からご紹介します)。

バイラル化を図る上で、動画広告の活用ももちろん有効な手段の1つです。動画コンテンツが視聴者にどのように受け止められ、どのような文脈で拡散されるのか、詳細な仮説を立てた上でメディア戦略を組み立てることが重要だと言えるでしょう。

TIP #2:PR施策でメディアを巻き込む

4月14日の動画公開に先駆け、PRチームはさまざまなメディアや報道機関を回り、この企画の趣旨を丁寧に説明していきました。その努力が実り、公開日の午後には早くもこの動画がメディアで取り上げられ、その後、異常なまでの盛り上がりを見せました。最終的に『The Wall Street Journal』、『Time Magazine』、『Huffington Post』、『CNN』、『Elle』、『CBC Television Canada』など数々のメディアで7億3300万インプレッションを獲得するに至ったのです。

「World’s Toughest Job」の関連記事や動画は世界中で18億回を超えるインプレッションを生み出しましたが、その多くはメディア掲載に支えられていました。バイラルにつながるシェアという行動を起こすのはあくまで個人ひとりひとりですが、それを促す大きな要因となるのがメディアであることが改めて証明されました。

広告業界ではPRと広告を切り分けて考えたり、広告戦略のおまけとしてPR施策を組み入れるケースもたびたび見られます。しかしアドブロックが広まるなど、生活者が広告を選ぶ時代になってきた今、PR施策によりメディア露出拡大を図るのは、バイラル化の不可欠な要素と言えます。その際、“ただ面白い動画”ではなく、「メディアが取り上げたくなるような企画、背景までを含めたストーリー作り」がポイントになるのでないでしょうか。

TIP #3:メディアを味方につける

この動画を最初に取り上げたメディアは広告関係のニュースや情報を配信する『ADWEEK』でした。

画像参照元:http://www.adweek.com/adfreak/24-people-who-applied-worlds-toughest-job-were-quite-surprise-157028

記事のタイトルを訳すとこのようになります。
「“世界でもっともキツい仕事”に応募した24人がまさかのサプライズに遭遇!思わずナットクの秀逸動画」

読者の興味を引くこの見出しに続き、実は記事本文でも最後まで種明かしをしていません。「ある企業がこんな悪条件の求人広告を出したところ、270万インプレッションに対して応募したのはたった24人。これはそのオンライン面接の様子を収めた動画です。さて、そこで一体何が起こったでしょうか? 結末は動画をご覧ください」といった具合に、読者をうまく動画視聴へと誘導しています。

つい読みたくなってしまうこの記事タイトルがFacebookやTwitterなどで拡散されたことがバイラルのきっかけになっただけでなく、少なくとも13のメディアでこの記事が引用され、最終的には埋め込み動画の再生の4分の1がADWEEKで起こりました。
ほどなくしてGoogleの検索でもこの記事が1位に表示されるようになり、どこかでこの話題を耳にした人もまずはこの記事にたどり着く、という道筋が出来上がりました。

ADWEEKはもともとパワーのあるメディアでしたが、この1つの記事が信頼度の高い“ハブ”としてバイラル化の成功をもたらしたのです。

動画コンテンツ単体だけではどうしても、視聴を促す背景説明や期待を煽るアピールができません。その点、文脈の中で動画を紹介できる記事は非常に効果的です。
PR施策として単にプレスリリースを配信するだけでなく、企画の趣旨をメディアにも十分理解してもらい、その魅力を最大限に伝える記事に仕上げてもらうための働きかけが大切なのかもしれません。

TIP #4:タイミングを見極める

この動画の公開日は4月14日。5月11日の母の日までほぼ1カ月あり、一般的なキャンペーンローンチとしては少し早すぎるとも言えます。しかし敢えて、誰も母の日を話題にしていない早いタイミングからメッセージを発信することで、世の中に溢れる母の日に関する話題やキャンペーンの中に埋もれてしまうことを避けたのです。そのおかげで、その年の母の日に関する最初の話題はこの動画が独占できました。

母の日だけでなく、ハロウィンやクリスマスなどの年中行事に絡めたキャンペーンはどうしても各社が競合する形になります。その中でいかに存在感を高めることができるか、タイミングを含めて緻密な計算が求められると言えるでしょう。

TIP #5:本当のバイラルは一過性ではない

動画公開から5日後、メディアでの盛り上がりも静まり始め、バイラルのピークを越えると、母の日当日までこの勢いを維持できるのか心配する声も上がったようです。“やっぱり広告費をかけないといけないのか”、と。そこから広告媒体を活用する手もありましたが、結局同社はバイラルの勢いを信じ、それをフル活用する方針を選びました。

これによって得られたデータも興味深いものでした。公開直後に1350万回再生を達成し、数日で下火になるものの、母の日までずっとインプレッションレベルを維持。1日の再生数が10万回を下回ったのは、公開から1カ月が経ったときでした。
即時性やタイムリー性が強いソーシャルメディアですが、最初の波からかなり遅れたタイミングで初めてそのコンテンツに接触するユーザーも数多く存在し、視聴され続ける可能性があることが分かります。

情報消費スピードが速まる中、情報の鮮度も一定程度求められますが、情報価値、視聴価値さえあれば、長い期間をかけて拡散する可能性があるのです。国をまたぐ場合は尚更でしょう。
公開直後の爆発的なバズ化に成功しなくても、その後の施策や何らかのきっかけでバイラル化した動画事例も多数存在します。バイラル化は根気強く長期的な取り組みとして捉えるべきなのかもしれません。なお、この動画は公開から42日目の2014年5月27日時点で2046万回再生に達していますが、現在は2500万回を超えています。その後の1年半でさらに500万回増えたことになります。

TIP #6:議論が新たなバイラルを生む

本動画への反応の大半は好意的なものでしたが、次第に「父親はどうなの?」「母親になるのはそれほど大変な仕事ではない」といった反対意見を持つ人も現れました。そしてこのような意見を敢えて取り上げるメディアも出てきました。
すると今度はこの動画を擁護する人たちが声を上げ、結果として、記事のコメント欄やさまざまなソーシャルメディア上で議論が巻き起こったのです。

動画コンテンツを通して議論が自然発生するのは、視聴者との感情的なつながりを築けた証と言えます。さらにこのケースでは、それがバイラルの寿命を伸ばす要因ともなりました。つまり反対意見や議論がきっかけでさらに多くの人に視聴され、その現象自体がまたニュースとして取り上げられ、最終的に大量の再生数やソーシャルシェアにつながったのです。

企業としては、ネガティブなイメージを持たれたくない、クレームを生みたくないなどの理由から、議論を巻き起こすようなテーマのコンテンツは作りづらいかもしれません。しかしそこに伝えるべきメッセージがあるのであれば、チャレンジする勇気も必要なのかもしれません。

TIP #7:人の心を動かすコンテンツ

最後にクリエイティブに目を向けてみましょう。どのような動画クリエイティブがバイラルするかは誰にも分かりませんが、シェアされやすい要素はいくつか存在します。例えば、ポジティブなメッセージは否定的なものより多くシェアされますし、母親という普遍的なテーマも視聴者を選びません。しかし同社はさらに詳しくデータを解析し、バイラル化に寄与したポイントが2つあったと分析しています。

1つ目は動画の55秒時点。面接官による仕事内容の説明に対し、真面目に聞いていた男性応募者が思わず苦笑いし、絶句したまま止まってしまうシーンです。このリアクションが視聴者の興味を引き、次に何が起こるか期待を持たせるフックとなっています。

2つ目は2分52秒時点です。ここで面接官は初めて応募者たちに、実はこの仕事は実際に母親たちがしていることだと明かします。不信感が募っていた応募者たちは、ようやく謎が解けたことで笑顔や安堵の表情を浮かべ、その後に各々の素直なリアクションを見せます。視聴者はここから、涙さえ浮かべる、リアルな感情を持つ人々の姿を目にすることになります。

感情をあらわにしている他人を見ると、人は自然と同じ感情を抱くようになります。そして人は何かの感情を持つと、それをまた人に伝えたくなる性質を持っています。つまりこの心の動きが、シェアを高める大きなきっかけとなるのです。

アンルーリー社の調査では、日本人は「温かみ」を感じる動画をシェアしやすい傾向にあることが分かっています。このような科学的な根拠も踏まえながら、視聴者の中にどのような感情を生み出したいのか、といった視点で動画企画を考えてみるのも良さそうです。

冒頭でも述べた通り、確実にバイラルさせる方法は存在しません。ただひとつ確実なのは、ただ「バイラルさせたい」と言うだけでは何も生まれないということです。あらゆる筋書きを想定し、検証し、最善と考えられる施策にチャレンジし続けるしかないのです。