甲子園優勝投手・小笠原慎之介の成長度を分析

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 7月に小笠原 慎之介投手の春季大会の投球の課題を見出した「ドラフト1位候補・小笠原 慎之介がさらにステップアップするには?」を高校野球ドットコムで掲載したが、今回は、小笠原投手がその後、課題を克服し、夏はどんなパフォーマンスをみせてきたか、また、今月28日に開幕する第27回WBSC U-18ワールドカップへ向けての新たなピッチングの課題をチェックしていきたい。

春での課題がクリアできているか?

小笠原慎之介(東海大相模)[第67回春季関東地区高等学校野球大会 準決勝 対浦和学院]

 夏の神奈川大会のピッチングでは、準々決勝の平塚学園戦で1失点完投するなど、春よりも投球の幅が確実に広がっていた。(試合レポート)その後も小笠原は好投を続け、決勝戦では、横浜相手に完封勝利し、甲子園出場を決める。(試合レポート)今回の第97回全国高等学校野球選手権大会でも、貫禄ある投球でファンを魅了させ、甲子園では見事優勝投手となった。(試合レポート)そんな小笠原の春に出た課題をもう一度振り返ってみよう。

 まず、プロで活躍する左腕投手に共通する5つのスキル(項目)がこれだ。□一定以上の制球力がある□一定以上の速球を投げ込める□絶対的なウイニングショットがある□しっかりとまとめる投球術がある□常に安定したパフォーマンスを発揮できる(故障しない)

 上記の中で、春の時点で小笠原が優れていたのは、左腕ながら140キロ中盤投げることが出来る力と、常に安定したパフォーマンスが発揮できることの2つ。しかし、課題は、絶対的なウイニングショットがないことだった。もう一度、5つのチェックポイントをもとに、小笠原のピッチングを振り返っていこう。

 まず、ストレートのスピードは、春は7〜8割の力で投げて、140キロ前半だったのが、夏は145キロ前後を投げ込めるまでレベルアップ。ここぞという場面では150キロ近い速球を投げており、速球能力はドラフト候補に挙がる大学生や社会人の左腕と比較してもトップクラスの力となった。

 また、制球力については、四死球率(四死球×9÷投球イニング)から分析。小笠原は甲子園で25イニングを投げたが、四死球率2.52と1試合で平均2つ出すぐらいで、合格点といえる内容だろう。春先と比べると制球力で苦しむ様子はなくなった。

 さて、小笠原の最大の課題であるウイニングショット。春季大会後、チェンジアップをマスターしたことから、神奈川大会、甲子園ではこの球種を投げて打たせて取ったり、空振りを奪う場面もあり、新たな活路を見出したように思えた。だが抜ける球が多く、まだ完全に自分のモノにできていない様子であった。

 変化球が決まらないと、小笠原は自慢のストレートでねじ伏せに行く傾向は甲子園でもあまり変わらず、140キロ台のストレートが打ち返される場面が目についた。甲子園での投球成績を振り返ると25イニングを投げて20奪三振、被安打21と球速のわりに空振りを奪うことができていなかった。それでも地道に変化球を決め球として磨き上げるしかない。

 だが大きな故障もなく、安定したパフォーマンスを発揮する点では、文句なしの投手だ。体調管理も高校生とは思えないほど、徹底した取り組みをみせ、人一倍ストレッチに時間をかけたり、脂分を摂り過ぎないように揚げ物は必ず衣を取るなど、自己コントロールが出来る投手だった。夏の投球を見ても、自分にとって何が課題なのかを考えて投げているのが伝わり、プロ入り後も一軍で活躍できる要素を十分に兼ね備えている能力も垣間見えた。

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小笠原慎之介(東海大相模)[第97回全国高等学校野球選手権大会 2回戦 対聖光学院]

 小笠原 慎之介の甲子園での投球を見たスカウトの評価を聞けば、「ドラフトでは上位候補になるだろう」といった声ばかり。そう考えると、今後、プロの世界で活躍する上で、今回のU-18ワールドカップは、大きくステップアップするために重要な大会となるだろう。

 今回の大会では、打者は木製バットを使用するため、芯を外しても飛ぶ金属に比べれば、木製は飛ぶポイントが狭く、芯を外してしまうと全く飛ばないため、どちらかといえば、投手有利な大会となる。しかし、今大会で怖いのは、芯を外してでも腕っぷしの強さで飛ばしてしまうアメリカやキューバ、そして普段から木製バットを使用している韓国の打線だ。甘く入れば、スタンドへ持っていかれる可能性は十分。

 では、そんな相手に対し、どんな投球をすればよいのだろうか?去年の第10回BFAアジア選手権の代表選手であった森田 駿哉(富山商-法政大)、小島 和哉(浦和学院-早稲田大)の両左腕は、内角ストレートをどんどん投げ込んでいた。これはアメリカ、キューバ、韓国の打者の特徴を考えた上で、投げている。

 彼らは、ベース寄りに立ちインステップ気味に踏み込んで打ちにくる。このステップをする意味合いは、国際大会は外のストライクゾーンが広く、内が狭いためだ。外角のストライクゾーンをしっかりと打ち返すための工夫でもある。だが、その分、内角には弱い。内角をしっかりと攻め切れる球威、コントロールを持ちあわせて投げられることが出来るかが、カギとなるだろう。小笠原は、ストレートの球威、コントロールは優れている投手だけに、内角ストレートにはぜひこだわってほしい。また、変化球は空振りさせるほどの精度が欲しい。もちろん、内角ばかり投げていては狙われて打ち返される。だからこそ、変化球は必要なのだが、変化球の精度が低いと、海外の選手たちは、多少、体が泳いでいるように見えても、両腕がしっかりと伸びて強く振れる技術がある。これは日本人打者にはなかなかできない技だ。国際大会では変化球の精度が試される場となるため、ストレートで詰まらせ、変化球で空振りが奪える投球が両立すれば、鬼に金棒だ。

 甲子園では、春よりも、大きく進化を遂げた姿を見せてくれた小笠原。しかし、あの甲子園での投球が小笠原という好左腕のマックスのピッチングではない。U-18ワールドカップでは、小笠原 慎之介の渾身の投球に期待したい。 

(文=河嶋 宗一)

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