仙台育英vs早稲田実業

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個人技に長けた仙台育英。優勝するために修正しなければならない課題とは?

佐藤世那(仙台育英)

 仙台育英のエース、佐藤 世那対早稲田実業の強力打線に注目が集まったこの試合、軍配は佐藤世の右腕に上がった。佐藤世の投球はストレートとスライダーを織り交ぜた横中心の配球に特徴があるが、ここにフォークボールを早いカウントで使うことによって左右、高低の感覚をぐちゃぐちゃにする。こういう芸当ができるのは投球の基本であるストレートにキレがあるからだ。

 コントロールは7四死球でわかるように安定感はない。それも6四球のうち3個は1つもストライクが入らないストレートの四球。しかし、そういう制球難に神経質になっていない様子がうかがえた。四死球後の打者はすべてアウトにし、そのうち3人は併殺打に打ち取っている。ここに春以降の佐藤の成長がある。

 打線は3、4回に7安打を集めて7点を奪い、勝負を決した。打点を記録したのは1〜4番の上位打者で、ここに意外性という言葉で表現される“偶然性”はない。早実バッテリーが十分警戒したにもかかわらず、仙台育英の上位打線がそれを上回るパフォーマンスで打ち砕いたという印象なのだ。

 準々決勝の九州国際大付戦では早稲田実業の松本 皓が106球の5安打完封劇を演じたが、この仙台育英戦では降板する4回途中まで65球を投じる苦心の投球だった。仙台育英打線は1、2回はじっくり配球や球筋を見、3、4回は早いカウントから打つ好球必打に転じた。前にも書いたが、「最初はじっくり、見極めたあとは好球必打」というのが理想的な攻撃パターンと言える。この攻撃の中で注目したのは平沢 大河だ。

 リリーフの左腕・上條 哲聖は初球から4球目まですべて低目に変化球を集めたが、スピード帯はいずれも110キロ台。上條にしたら意表を突いたつもりだったかもしれないが、続き球4球はドラフト上位候補に挙げられる平沢には通用しない。4球目の甘く高めに入ってきた118キロのスライダーを振り抜くと、打球は「AQUARIUS」の看板がかかった右中間スタンドの上に張られたネット上に落ちた。

 今大会で放った安打は4本で、そのうち3本はホームラン。この安定感のなさはほめられないが、ヘッドスピードの速さや大きいフォロースルーなど、1本1本のホームランに華がある。打った球種は1、2本目がストレートで、3本目はスライダーと偏っていないのもいい。

 平沢に注文をつけたいのが走塁だ。脚力は打者走者の各塁到達タイムで判断したい。1回戦の明豊戦試合レポート)、第3打席で二塁打を打ったときの二塁到達8.03秒でわかるように足は速い。しかし準々決勝の秋田商戦(試合レポート)から走らなくなる。

 秋田商戦の第3打席では二塁ゴロ(一塁走者が二塁封殺)で6.48秒、この早稲田実業戦では第1打席の一塁ゴロで6.18秒という具合だ。この走らなさは平沢だけではない。8番谷津 航大は第1打席の遊撃ゴロ(一塁走者が二塁封殺)で一塁ベースまで走らず、佐藤世は二塁走者だった3回表、1番佐藤 将太のレフト越えの二塁打で生還できなかった。

 全力疾走は選手の能力の指標であるとともに、精神面の充実度(やる気)を計る指標でもある。その面で今の仙台育英には一抹の不安がある。ちなみに、決勝で激突する東海大相模は準決勝の関東一戦(試合レポート)で、全力疾走の基準「一塁到達4.3秒未満〜」を5人(7回)がクリアしている。仙台育英の1人2回とはかなり差がある。ここを修正してほしい。 

(文=小関 順二)

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