今大会はなぜエラーが多いのか?甲子園で勝ちあがる守備力の指標とは?

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 今大会を見て、何か失策が多いと感じる方は多数いるのではないだろうか。これは印象ではなく、数字面でも、失策数の多さが出ている。何故失策が多いのか?その原因、またセイバーメトリクスな観点から甲子園で勝ち上がるチームの守備力の指標についても紹介します。

失策増は甲子園練習無しが原因?

龍谷大平安 守備シーン

 今大会は守備の乱れから失点する場面が目立つ。花巻東vs敦賀気比の試合で、ちょうど30試合を終えたが、総失策数はなんと84個。昨年の同時点での失策総数は49個で、大会全体の総失策数が81個だったため、今年は決勝戦を1週間前にして早くも超えてしまったことになる。

 昨年は30試合消化時点での無失策試合は6試合あったが、今年は明徳義塾対敦賀気比の1試合のみ。その結果、智辯和歌山が1試合7失策を犯し初戦で敗れるなどの波乱も起きている。

 昨年と今年で大きく違うのは、大会前の甲子園練習が無くなったこと。今年は18歳以下の世界大会「U-18ワールドカップ」が28日から日本で開催される影響で、選手権大会の開幕も例年より早まった。そのため、出場校に与えられていた恒例の30分間の甲子園練習は無し。15分間の甲子園「見学」だけとなった。毎年行われていた甲子園練習では、決められているのは30分という時間だけで、何をするかは自由。

 そのため各校工夫をこらしチームカラーに合わせた練習を行っていた。ただ自由とは言っても、ほぼ全ての高校が行うのがノック。普段とは違う球場で試合をするのだから当然だろう。甲子園は地方大会で使用される球場と比べて単純に広い。特に右中間、左中間の膨らみが特徴的。そのため外野の間を抜かれると二塁打では済まず三塁打になってしまう。外野手の判断ミス、チャージの甘さは試合の流れを大きく左右する。

 一例として今春の選抜前に行われた甲子園練習では、龍谷大平安が特に入念な準備を行っていた。龍谷大平安といえば、基本を徹底しながら守備力を重視するチームだ。選手達はポジションにつくと、まず近くからボールを転がしたり、グラウンドに叩きつけたりして跳ね具合を確認する。ノッカーが打つのはその後だった。全校がここまで徹底していたわけではないが、数日前にノックをこなし本番に近い景色と雰囲気を味わった選手たちと比べて、試合直前のノックで初めてグラウンドで打球を捌くという選手たちが浮き足立ったとしてもおかしくない。

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[page_break:相手が嫌がる守備をしているか?]相手が嫌がる守備をしているか?

目に見えるファインプレーだけがファインプレーではない

 対戦校に実力差がある場合、強打のチームは外野手が下がり、「シングルOK、長打ケアの深い守備位置」をとられることを嫌う。いくら強打のチームと言っても、甲子園出場クラスの投手を相手に3連打することは簡単ではない。いい当たりでもライナーになったり、正面を突いて併殺打になってしまうこともある。また、相手チームをしっかり研究し、打者に合わせて守備位置を変えるのも有効な戦術。芯で捉えた打球がイージーアウトになるのは、見た目以上にダメージが大きい。記録上は単なるフライアウトでしかないが、正確なポジショニングは隠れたファインプレーだ。

 試合序盤での前進守備も人によって判断は分かれるところだが、印象的には裏目に出てしまうことが多い。格上相手に1点もやりたくない気持ちもわかるが、1点を守ろうとして大量点を失うとそこで試合は決まってしまう。格上チームにしてみれば、何度もチャンスを作りながら突き放せずに終盤を迎えることほど恐いものはない。特に高校野球では劣勢に立たされた公立校にスタンドの観衆が味方することが多い。そんな時、まさかの逆転劇は現実のものとなる。

 野球は他のスポーツに比べて番狂わせが起きやすい。その肝になるのが打つ投げる走るといった能力以外の部分で、どこまで補えるかだ。相手に合わせた作戦を採るのか、自分達の形を貫くのか。スコアシートからは読み取れない守備位置にどれだけの準備をしてきたが詰まっている。

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[page_break:失策数だけでは測れないチーム全体の守備力を表すDERで70%以上が目安]失策数だけでは測れないチーム全体の守備力を表すDERで70%以上が目安

 野球を統計学の観点から分析するセイバーメトリクス。ここにDER(Defense Efficienfy Ratioの略)という指標がある。これは(打席−安打−四球−死球−三振−失策)÷(打席−本塁打−四球−死球−三振)で計算され、フェアゾーンに飛んだ打球をどれだけアウトにしたかを示す。

 安打か失策かは記録員の主観に判断されるが、これはアウトになったかどうかという客観的事実に基づいたもので、チーム全体の守備範囲の広さを表す。ただし、投手力の影響を全く受けないわけではないし、何よりもトーナメントで戦うためサンプル数が極めて少ない。あくまでも失策数以外で守備力を測る際の参考、目安程度に。過去3年間のベスト4に残ったチームの準決勝進出時のDERは以下の通りである。

優勝を決めた大阪桐蔭も守備が堅かった(優勝シーン)

■2014年大会大阪桐蔭 70.4%三重 70.5%敦賀気比 75.5%日本文理 67.3%

■2013年前橋育英 69.5%延岡学園 71.7%日大山形 78.9%花巻東 64.6%

■2012年大阪桐蔭 69.4%光星学院(現八戸学院光星) 72.2%明徳義塾 81.3%東海大甲府 68.8%

 こうして見ると甲子園で勝ち上がるためには、DERで最低でも70%は欲しいところ。特に優秀な数値を残したのが2012年の明徳義塾。例年と比べるとチーム力は高くなかったが、ここに明徳義塾の強さとしたたかさがある。準決勝で敗れはしたが、藤浪 晋太郎(現阪神タイガース)や、当時2年の森 友哉(現西武ライオンズ)のバッテリーを中心に春夏連覇を成し遂げることになるタレント揃いの大阪桐蔭を相手に善戦した。世代を代表するような好投手やスラッガーがいなくてもきっちりアウトを取ることが出来ればどんな相手とも戦える。

 やはり野球で守備力は大切。球場に応じた万全な準備、日頃から想定した実戦的な守備練習を積み重ねれば、確固たる守備力を築いてほしい。

(文・小中 翔太)

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