2020年に日本の教育が大きく動く!/中土井 鉄信
日本の教育が、大きく変わろうとしています。
2020年の高大接続改革(いわゆる大学入試改革)は、1979年の共通一次試験
(センター試験の前身)の導入を超える多大なインパクトを与える改革となるはずです。
42年ぶりの大改革となる2020年の大学入試改革は、単に「センター試験」が廃止
され、新たに「高等学校基礎学力テスト(仮称)」や「大学入学希望者学力評価テスト
(仮称)」といった新テストが導入されるというシステム上の問題ではありません。
この改革のインパクトの強さは、
大学入試で問われる中身が変わる点に由来します。
つまり、高校までに子どもたちが習得すべき教育のゴールが変わり、
そのプロセスも変わるのです。
「思考力・表現力」までが問われるようになる!
昨年12月に中教審が出した答申を読むと、この改革は、大学入試制度以上の広がり
のある「高校出口改革」であることがわかります。
高校生までに身につけるべき能力は、従来通りの「知識・技能」に加えて、
「思考力・判断力・表現力」、そして「主体性」にまで拡げられています。
大学入試では「知識・技能」の確認に留まらず、その「知識・技能を活用する力」、
「思考力・表現力」までが問われることになるのです。
たとえば、英語の問題であれば、英作文では従来は、単語力や文法力があれば解けるよ
うな設問が中心でしたが、これが2021年度入試以降は、自由英作文が主流となり、
単に和文英訳ができるというだけでなく、どのような状況で伝えるのか、
あるいは自分の主張を盛り込んだ解答が必要となってくるわけです。
こんな入試システムが増える!?
英作文といった特定のジャンルですら、入試の出題傾向が変わるのがですが、入試のあ
あり方そのものも大きな変革が行われるでしょう。
たとえば、以下のような入試システムを読者は、どんな風に考えるでしょうか?
?まずは選考以前に文理複数科目の講義・演習(実験)、情報検索・レポートの書き方講座を受講し、そのレポートを提出する。これを「プレゼミナール」と呼ぶ。
? 一次試験では、プレゼミナールのレポートや志望理由書に加えて、国際バカロレア資格、TOEFLの点数なども加味され、判断材料とされる。
? 二次試験は、3日間にわたって実施。文系は「図書館入試」、理系は「実験室入試」という名称で、文系は図書館の資料を基に課題レポートを作成して発表。また理系は、講義やグループ実験、レポート作成などを行う。
どうです。従来の受験とは様変わりした内容ですよね。
上記の入試は2017年からお茶の水女子大学で実施される新型AO入試(新フンボルト入試)の大まかな仕組みです。ちなみに、「プレゼミナール」は高2生も受講できます。
このような入試が、2021年度以降の大学入試では増えることが予想されています。
公平性の議論にまで踏み込んでいる中教審
大学入試改革を議論している中教審が2014年12月が発表した答申は非常に刺激的な内容でした。答申から引用してみましょう。
「大学入学者選抜の改革を進めるに当たっては、『大学入試センター試験』の抜本的改革が 必要であるが、それは全体の改革の一部にすぎない」
と前置きしたうえで、
「何よりも重要なことは、個別選抜を、画一的な一斉試験で正答に関する知識の再生を問う評価に偏ったものとしたり、入学者の数の確保のための手段に陥らせたりすることなく、「人が人を選ぶ」個別選択を確立していくことである。「人が人を選ぶ」個別選抜とは、(中略)大学の入り口段階で求められる力を多面的・総合的に評価するという、個別選抜本来の役割が果たせるものにすることである」
とします。
個別選抜とは各大学で独自に行う入試。国公立大学では、いわゆる二次試験です。
さらに議論は広がり、「公平性」に関する社会的な意識へも踏み込んでいきます。
「大学入学者選抜を含むあらゆる評価において、画一的な一斉試験で正答に関する知識の再生を問い、その結果の点数だけを評価対象とすることが公平であると捉える、既存の「公平性」についての社会的意識を変革し、それぞれの学びを支援する観点から、多様な背景を持つ一人ひとりが積み上げてきた多様な力を、多様な方法で「公正」に評価するという理念に基づく新たな評価を確立していくことが不可欠である」
とします。
この答申の最も重要な点は、私は、「人が人を選ぶ」という視点だと思います。
メリトクラシー(形式化した業績主義)を廃して、ハイパーメリトクラシー(形式化できない業績主義:いわゆるヒューマンスキル・コミュニケーションスキル等の状況適応型能力)を求める大学入試になるということです。
できる子どものための改革!
できない子どもはどうなる?
この改革が小中学校=義務教育レベルまで浸透していけば、どういう結果になるのか。
私は、非常に怖い予想をしています。
この改革により、学習内容自体があいまいになり、何を目指して学習をしていけばよいのか、具体性に欠けることになると、子どもたちの中で志向性の強い子どもとそうでない子どもで大きな学力差がついてしまう可能性ががあります。また、達成感を持たせにくいゴール設定で学習に対するモチベーションが上がりにくいという欠点もあります。
この2点から言っても、志向性の強い子どもとそうではない子どもの間に大きな学力格差が生まれて、日本全体の教育レベルは下がるのではないかと危惧しているのです。
今回の改革は、知的な好奇心が高い子ども、あるいはエリートを育てるという点では、それ相応の成果を出すかもしれません。しかし、ゆとり教育以前の日本の教育システムがもっていた学力中下位層の底上げを行うという視点が、さらに軽視されていくという恐れは私はぬぐいきれません。
そうならないように、しっかり各論でつめていく必要があるはずです。
日本の教育改革の方向性を私は、危惧しています。
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
中土井鉄信