目標達成したかったらマイルストーンをうまく使おう/日野 照子
なんとなく締め切りというのは、嫌なものだと思っていませんか。
夏休みの宿題を忘れたふりをして遊びつづけ、8月も終わり頃になってから、あわてて夏休み中の天気を調べて絵日記を描いたり、最終日に親に泣きついて自由研究を仕上げたり、そういう子どもの頃の思い出から、締め切りに対する嫌なイメージがしみついてはいませんか。けれど締め切りがなかったら、多くのことが成し遂げられないまま終わってしまいます。要は締め切りといかにうまく付き合うかなのです。
システム開発のプロジェクトマネジメントの基本的かつ重要な仕事のひとつにスケジュール管理があります。プロジェクトマネージャはまずプロジェクトの計画を立て、その計画にそってプロジェクトを管理します。この最初に作るプロジェクト全体の計画をマスタースケジュールと言いますが、マスタースケジュールには必ずマイルストーンが設定されています。
マイルストーンというのは、プロジェクトでやらなければならない各作業工程の節目をあらわす「里程標」のことです。プロジェクトにはいつまでに何をやらなければならないかの確認ポイント=マイルストーンがあり、スケジュール上に置かれたマイルストーンの完了をチェックしていれば、プロジェクトの進捗がわかる、という仕組みになっています。
開始から完了までの一連の作業の途中途中に小さな締め切りを作っておいて、締め切りを一つ一つクリアしていく、という方がイメージしやすいかもしれません。
システム開発というのは、どういうシステムにするかという企画から実際にユーザーが使えるようになるまで、実に長く複雑な工程を経なければ完成しません。最初から、遠くのゴールを目指して走ってもたどり着かないので、途中途中に目印となるマイルストーンを置いて、道に迷わないようにしているのです。
あまり優秀でないマネージャは、遠い山の上を指して、あそこまで行けば楽になれるからがんばれと言います。実際に走る身になれば、そこまでの道のりが見えなければ不安になるでしょう。途中に目印がなければ、道に迷ってしまうかもしれません。
優秀なマネージャは、手の届きそうな場所に目印を置き、とりあえずそこまではがんばれ、という運営をします。一歩一歩進んでいるうちに、いつかゴールにたどり着くという運営をするのです。
人間というものはおもしろいもので、遠すぎるゴールだとあまりやる気がおきませんが、おおよその距離がつかめる距離ならがんばろうと思うものです。プロジェクトマネジメントにおいて、マイルストーンは非常に重要な役割を担っています。
何人ものプロジェクトマネージャのもとで、プロジェクト運営をやったことがありますが、マネージャの手腕というのは、いかにメンバーのやる気を維持して走らせ続けられるか、に如実に表れます。
例えば管理能力の不足しているマネージャのもとでは、メンバーがマイルストーンを守らなかったり、勝手に動かして期限を延ばしたりということを繰り返して、時間もお金も予定外にかかるような事態を招くことさえあります。できませんでしたと言えばスケジュールを遅らせてもいいのだと学習したメンバーは、次からもそうしようと考えるようになり、プロジェクトはうまくいかなくなります。
逆に、メンバーを休ませることなく、とにかく走らせ続けることが役目だと勘違いしているマネージャというのもいます。ひとつの節目の報告会議が終わり、報告を受けた偉い方々が打ち上げの宴会をやっているその裏で、次のフェーズの立ち上げ会議を招集したマネージャがいました。これをやり続けるとメンバーは疲弊して、やる気を失ってしまいます。人間というものはゴールのないマラソンを走り続けることはできません。これもまた、プロジェクトがうまくいかなくなる要因になります。
この事例はシステム開発プロジェクトの話ですが、夏休みの宿題でも、営業でも製作でも、案外どんな仕事でも、同じなのではないでしょうか。
何かやり遂げたい大きな目標があるのなら、最初からそのゴールを目指すより、そこまでの道のりに手の届くマイルストーンを置いて、とにかくそこまでがんばる。ひとつクリアしたら、一息ついてまた次のマイルストーンまでがんばる。いろんなことにプロジェクトマネジメントの手法を応用してみると、案外うまくいくのではなないでしょうか。