事前期待とは(1) 【連載サービスサイエンス:第3回】/松井 拓己
前回、「サービスの定義」からサービスの本質に迫ってみました。サービスに関わっているのに、サービスの定義とその本質を知らなければ、議論や活動がかみ合わないのは当然ですよね。一流のサービス企業は、こういった本質の理論をしっかり理解して、組織的なレベルアップに取り組んでいます。
そこで今回は、「サービスの定義」を理解することで浮かび上がってきた「事前期待」について触れてみたいと思います。とはいえ、ただ単に「事前期待に応えよう」と言われても、きれいごとにしか聞こえないものです。「事前期待」とは一体どんなものなのかをサービスサイエンスの視点で少しロジカルに理解することで、事前期待を掴み、それに応えるための努力のポイントを明らかにしたいと思います。
事前期待は3つの構成要素に分解できる
お客様がサービスや商品を利用する前に持っている期待のことを「事前期待」と呼びます。この事前期待を掴むことで、お客様に喜んで頂くために我々は何をすべきかが見えてきます。しかし、事前期待はお客様ごとに様々なので、「事前期待に応えよう」と言われても、一体どうしたら良いのか困ってしまいます。そこでサービスサイエンスでは事前期待を分解することで、その構成要素と期待に応えるための努力のポイントを明らかにしています。
事前期待は3つの構成要素に分解できます。それが、「事前期待の対象」、「事前期待の持ち方」、「事前期待の持ち主」の3つです。
1つ目の「事前期待の対象」は、サービスの内容やサービス品質、価格のことを指します。これらについては、我々は日常的に意識していて、議論も慣れています。しかし実は、「ホスピタリティサービス」や「感動サービス」のようにお客様から高い評価を頂くためには、この「事前期待の対象」についていくら努力しても効果的ではないことが分かってきています。
サービスの内容・品質・価格よりも大切なこととは?
お客様から高い評価を頂くためには、むしろ2つ目の「事前期待の持ち方」に着目すべきなのです。この「事前期待の持ち方」には4つの種類があります。それは、下記のの4つです。
・すべてのお客様が共通的に持っている「共通的な事前期待」
・お客様おひとりおひとりで異なる「個別的な事前期待」
・同じお客様であっても、状況によってはいつもと違う事前期待を持っているという、「状況で変化する事前期待」
・思ってもみないサービスを受けて感動したという経験の元になる「潜在的な事前期待」
このそれぞれの具体的な内容と、これらの事前期待に応えるための努力のポイントについては、次回の記事で明らかにしたいと思います。
そして3つ目の「事前期待の持ち主」。ここには、男性か女性か、大企業か中小企業かなどといったユーザーの属性が該当します。また、有償サービスか無償サービスかなどのサービスへの関わり方も該当します。
「事前期待」は案外複雑な構造をしている
これまで見てきたように、「事前期待」とひとことで言っても、案外複雑な構造をしているのです。しかしこの事前期待の構造と努力ポイントをしっかり理解して、サービスや顧客満足向上に取り組むことができるかどうかが、ワンランク上のサービスを実現するための分かれ道になります。お客様の事前期待に応えなければ、いくら頑張っても「サービス」とすら呼んでいただけない。このポイントを踏まえて次回は、事前期待に応えるための努力のポイントについて、事前期待の持ち方の4つの種類ごとに明らかにしていきたいと思います。